第壱歌<破>
浅間山麓の小さな村。
一行は宿を探すために立ち寄った。
彼らが村に着くと、荷物を背負った女性が倒れ込んでいた。
流徹はすぐに駆け寄った。
女性は荒い息をしながら返答した。
「……お気になさらず」
「だが!」
彼女はそう言って、瞼を閉じる。
女性を村にある中規模の武家屋敷へと運んだ。
彼女はこの村に住む女性である事、名前はお継雨だという事、武家との婚姻が決まっていること、病弱である事などを聞いた。
何よりも驚いたのが、あの武総に愛されている事であった。
「あの武総が!?」
彼女のそうした話を聞いていると、武総の人物像が揺らぐ。
「殺し合いだけを求める修羅だとばかり……」
「武総さんは優しいお方です。この木彫りの観音像を作ってくださったのも武総さんですから」
彼女は白布に包まれた木彫りの観音像を見せる。
その見事な技巧の冴え、細部にわたるまでこだわりぬかれた丁寧な仕事に、荒々しい修羅の印象を綺麗に崩していく。
「少なくとも、私からはそう見受けられます」
そうして大切に観音像を箱にしまうお継雨。
そこに介郎が口を開く。
「いやはや、人には意外な一面を持つとよく言われるが、ここまで顕著でござるか……」
流徹はその時、かつて武功を成した者も別の側面があるのではないのかと、ふと思考を巡らせた。
「兄上!?」
幼げさが残る可愛らしい声が村に響く。
「兄上は……生きているのですね……!!」
お町は、村の人からの話を聞いていた。
なんでも、伊賀の田丸という忍がいるという話だ。
それも、ここ数日の話らしく、お町の心はその事実だけで晴れた。
「兄上が……生きている…………」
村で一晩を明かした後、一行は浅間山を迂回する経路を選択した。
なんでも、浅間山近辺には危険な妖が生息しているという不穏な噂が立っていたのだ。
一刻も早く江戸へ向かわねばならない一行にとってはわざわざ危険を冒してまで通る道ではない。
浅間山を迂回する中、小さな岩場に囲まれた集落に立ち寄る。
そこには、赤い鱗に身を包み、直立二足歩行する蜥蜴のような人間が住んでいた。
「何奴か!?」
思わず刀に手をかける菊三十兵衛に対し、球磨は左手でそれを遮る。
「よせ、菊三十兵衛」
蜥蜴人間達の集まりは、やがて裂けるように二列に分かたれた。
その奥からは尾や角の先端が青く、老齢の出で立ちをした者が現れた。
「長老!」
呼ばれた通り、彼は長老なのだろう、と一行は一歩身を引いた。
長老のねぐらと呼ばれる洞窟に一行は案内された。
一つの炎が灯る中、長老が話し始めた。
「我々は火蜥蜴。火行の一族だ」
「ここの所、この地が鳴っておる」
「今にも爆発してしまうのではないかと調査を死体のだがの……」
「浅間山は噂通り妖の跋扈する危険な地域だ」
「……そこで調査を依頼したいのだが」
流徹は苦しみを浮かべた表情で答えた。
「だが我々は一刻も早く江戸に向かわなくてはならんのだ」
「……そうであったか……」
「なに、江戸の事態を収拾すれば我々は必ず戻る」
その返答に、長老は少しばかり安堵を浮かべた。
「兄上……?」
ふと、何かの気配を感じたのか、お町が空を見上げて呟く。
一行が江戸へ向かう中、不穏な空気を示すかのように地響きが唸りをあげた。




