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第13話 追憶の寄せ鍋 ②

 セルヴィの叫び声が草原を戦場へ変えた。足音が大地を震わせ、魔物の群れが私たちに迫る。


 セルヴィが私の前へと躍り出た。彼が腕を掲げると手袋から光の粒子が集まる。そして鉄壁の硬度を誇る巨大な盾が形作られた。


 直後、先頭の魔物が猛烈な勢いで激突してくる。セルヴィの足は一歩も後ろへ下がらない。


 彼は盾の角度をわずかに傾け、魔物の巨体を鮮やかに側方へと受け流した。


「あなた、一体なにをしでかしたんです!」


 私はちゃっかりセルヴィの盾の中に入っている少女へ怒声を浴びせる。


 魔力の少ない土地である果ての国でこんな数の魔物、異常だ。


「えっと……あいつらの卵、高く売れると思ってさ」


 セルヴィが作った盾の隙間から私は右手を鋭く突き出す。守られてばかりでは倒せない。


 体内で渦巻く魔力。それを一気に指先の一点へと収束させ、青白い雷撃で轟音とともに空間を爆裂させた。


 一直線に放たれた雷の槍は魔物の群れを容赦なく消し飛ばす。


「巣にちょっと忍び込んだだけなんだけどぉ」

「だけど、なんだ!」


 セルヴィの声と重なるように左手の手袋が鈍い光を帯びる。


 瞬時に展開された半透明の防壁が、横から振り下ろされる魔物の爪を間一髪で食い止めた。


 私も容赦なく追加の雷撃を撃ち込んで前線を押し戻す。


「親の魔物が戻ってきちゃって……威嚇のつもりで撃った魔法で、その」


 少女は頭の後ろを掻きながら、気まずそうに視線を空の彼方へと逸らした。


 今この状況でそんな顔をされると苛立ちしかこみ上げてこない。


 その後に続く言葉も容易に想像できた。


「巣、燃やしちゃった!」

「ふざけてます!?」


 叫びざまに雷撃を叩き込む。その刹那の隙を見逃さず、少女が短剣を構えた。


 彼女の短剣が揺らめく熱気をまとい、魔力が宿っていく。


「安心してよ! ウチもちょっとは戦えるっ」


 放たれた火の魔法。赤と橙の烈火が魔物を鮮烈に染め上げる。


 轟音が大気を震わせたが、魔物たちはその火炎をものともしていなかった。


 つまり毛ほども効いていない。


「……あれぇ?」


 こんな時にふざけるんじゃない! 私とセルヴィの額に同時に青筋が浮かぶ。


 私たちは揃って少女の方へと顔を向け、声を大にして一喝した。


「「大人しく引っ込んでなさい!!」」


 生き残った魔物たちが再び姿勢を低くする。卵を焼かれ、巣を失った怒りが低い唸りとなっていた。


「頑張って! お姉ちゃん、お兄ちゃん」


 レイの応援が足元から聞こえてくる。彼の横に口を尖らせている少女も座らせておいた。


 このままではジリ貧だ。魔力量に自信はあるが、調整が下手すぎて一体ずつ狙いを定めて処理をするのが難しい。


 かといって魔力を一気に解放すると周りが……。周り?


 隣のセルヴィを見た。まとめて魔物を始末すること、彼がいればできるかもしれない!


 私は意識の先を遙か上空へと向け、全魔力を一点に凝縮させた。青々とした空がみるみるうちにかげり、鉛のような暗雲が頭上を覆う。


「セルヴィ、盾を上方に!」

「……!? 任せろ、ユウナ!」


 セルヴィの手袋が眩い白光を放った。盾が私たちを上から包むように展開される。


 その防壁を傘代わりに、私は限界まで溜め込んだ魔力を一気に解き放った。


 落雷が雨のように無差別に降り注ぐ。衝撃でセルヴィの盾が悲鳴を上げた。


「このままだと盾が保たないぞ!?」

「耐えて耐えて耐えて!! あなたならできます、多分!」

「適当なことを言うな!」


 盾に蜘蛛の巣状の亀裂が走る。それでもセルヴィは奥歯を噛み締め、圧倒的な負荷に耐え続けた。


 無慈悲な雷の直撃を受けた魔物から順に、黒い炭の塊となって次々と崩れ落ちていく。


 最後に残った巨大な一匹が、特大の雷撃を浴びてどさりと横転した。


「終わった、のか?」

「片付いたみたいですね……」


 膝から一気に力が抜け、気づけば地面に座り込んでいた。


 セルヴィも無言のまま隣に崩れ落ち、壊れかけた盾がかすかな光を散らして消える。


 二人して無言のまま手を持ち上げ、力なくぱちりとあわせた。勝利のハイタッチというには、あまりにもへろへろである。


「二人ともめっちゃカッコよかったわぁ!」

「なかなかやるじゃない。一応お礼を言っておくわね」


 レイの屈託のない笑顔に、ほっと頬の緊張が緩んだ。ただ、少女の「一応」という言葉を聞いた途端、せっかく緩みかけていた表情が無に戻る。


 この騒動のすべての元凶は誰だと思っているんだ。


「セルヴィ、この傍迷惑な不届き者はお縄にしましょう」


 冗談である、五割ほど。残りは本気だ。


 私とあまり変わらない年だろうに、赤の他人を生命の危険に巻き込んでへらへらしてるんじゃない。


 しかし少女は「またまた冗談を」と笑い飛ばしていた。


「そうだな。窃盗だけでなく、魔物の大群を引き連れて我々を危険に晒した罪は重い」


 セルヴィも同意した。腕を組んで、いつもの倍は威圧感がある。


 彼も本気ではないだろうが、それくらいの灸は据えて当然だという顔をしていた。


「魔物はウチの手下じゃない!」


 私とセルヴィはあえて何も答えなかった。少女の顔からようやく笑みが剥げ落ちる。


 いよいよ後がないと察したのか、少女は必死に手を振り回して謝罪を早口でまくし立てた。


「悪かったって! 見たところアンタたち、旅の途中でしょ!? だったらウチの知り合いの行商人を紹介するからさっ」


 そこへレイが私たちの間に割って入ってくる。少女に助け舟を出す気なのだろう。彼は本当に優しい。


「この子もお腹空いてやってもうたかもしれへんから、許してあげよ? お兄ちゃん」

「……レイがそう言うなら、今回は不問にしよう」


 セルヴィは腕を組んだまま渋々といった体で頷いた。


「助かったぁ、アンタ本当にいい子!」


 ミルダはレイの両手をぎゅっと握りしめた。ぶんぶんと大げさに振り回しながら、何度も感謝の言葉を連ねている。


「ウチはミルダ! よろしくね」


 ずいぶんと調子のいい同行者が増えたものだ。賑やかすぎる旅はまだまだ続きそうだった。

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