6 アーロンの困惑
アーロンは困惑していた。
自分がクソ真面目と評されていることは知っているし、それが決して褒め言葉でない事も理解していた。
それでもアリシアが馬鹿にしてきた事は一度もなかったし、「私に合ってる」とまで言ってくれていた。
それなのに、怒ったアリシアにバカだクソマジメだうんこ野郎だと怒鳴られた。
他の言葉はよく分からなかったが、悪口を言われたのだろう。
だから僕は、余程彼女を怒らせる事を言ってしまったのだと思い、素直に謝ったのだが。
何故だか彼女は、絶句し吹き出し鼻血まで出したのだ。
僕は心配することも許されず、それならと医者を呼ぶことも拒まれた。
僕の世話にはなりたくないと言うことか。
あまつさえ、熱を出したからしばらく会いに来ないで欲しいと伝達が来た。
こんな事は初めてだ。分からない、何がいけなかったのか。
何がいけなかったのか分からないから対処の仕様がない。
何がいけなかったのか分からないから本人に聞こうにも会ってもらえない。
本当はずっと僕のことを嫌がっていたのだろうか。
アリシアとアーロンが出会ったのは6歳の頃だった。
祖父の引退後領地に移った僕の家族と、隣の領地であるアリシア一家は子供同士が同い年だったこともあり、すぐに家族ぐるみの付き合いが始まった。
初めて会った日アリシアは、僕を「いつもの遊び場だ」と森に連れて行った。
散々連れ回された僕が何とかアリシアを連れて帰ると、ボロボロな姿のアリシアと僕を見た両親たちが、驚きの声を上げた。
僕の両親は「本ばかり読んで引きこもり気味の僕がボロボロになるまで外で遊んだこと」を喜び、アリシアの両親は「いつもに比べてボロボロ加減が半分以下だ」と歓喜した。
両親たちの押しもかなりのものだったが、僕がアリシアと行動を共にすることを選んだのは、自分の意思だった。
そんなこんなで、難なく婚約関係になったアリシアと僕だが、割って入ろうと画策する連中が居ることも知っている。
我が家とアリシアの家の領地は豊かで実入りが良い。
つまり爵位は男爵家であるが財産はそれなりにある。
そこに付け込んでおかしな投資を持ちかけてくる輩もいた様だが、アリシアが嘘を暴いて事なきを得た。
アリシアの両親は「野生の勘ってすごいわね〜」と笑っていた。
野生の勘といえば、アリシアはよく森に行って希少な薬草等を採ってくる。
アリシアは「動物たちが教えてくれた」と言っていたが、野生の動物について行くなんて簡単にできることではない。
アリシアの両親は「アリシアは森にも動物にも愛されているのね〜」と笑っていた。
アリシアはかわいくて純粋だから森にも動物にも愛されるだろうが、危ないことはしないでほしい。
それでは僕が口うるさく説教するのが気に入らないのだろうか。
だが、アリシアが僕の説教を聞いている間、何か空想をしていることを知っている。
昔から空想が好きなアリシアは、時々ぼんやりしては顔を緩ませる。
いつからか僕の説教中にもそんな顔を見せるようになった。
驚いたが「ギャップもえ」とか何とか呟いていたので、何か空想して楽しんでいるのだと分かった。
あまりにも楽しそうにしているから、15分と決めている説教の時間を増やした方が良いのかと悩んだこともある。
だがあくまでも説教は説教。アリシアの両親に任された以上、形だけの説教とは言えそれがご褒美になってはいけない。
本当は僕はアリシアには自由なままでいて欲しい気持ちがあるけれど、貴族である以上そうもいかないだろう。
説教の時間を楽しんでいる事と僕が嫌がられていることは、別問題と考えなければいけない。
アリシアはいつからか僕のどこを嫌だと思っていたんだろう。
自分で言うのもなんだか、特別好かれる要素がないけれど、特別嫌われる要素もないと思う。
我ながら平凡な人間だ。
向上心のある令嬢ならともかく、自由を求めるアリシアにとっては可もなく不可もなくと言ったところではないか。
それに僕の代名詞とも言える真面目さは、彼女に合うと言ってくれていたじゃないか。
嫌がられては、いなかったはずだ。
小さい頃は気にならなかったけれど、年頃になってから気になる部分が出てきたのか?身長?体つき?体毛?
どれも平均的だと思うが、もしかして筋肉がもっと付いていてほしいとか?体毛は濃いほうが良いとか?
前にアリシアは森の動物にモフモフしたいと言っていた。
もしかして体毛?体毛なのか、アリシア?!




