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(こうなったら…、アーロンが絶対言わなさそうな事を言わせてやる!!)
アリシアの名誉のために言っておくと。
アリシアの想像する「アーロンが絶対言わなさそうな事」とは、「ばかあほまぬけ」だとか「お前の母ちゃんデベソ」だとか、せいぜい「うんち」「ちんちん」「おっぱい」レベルだという事。
「アリシア⋯っ」
だからアリシアは油断していた。
(ああ、楽しみ)
アリシアはワクワクしていた。
真面目で口うるさくて堅物で優等生の婚約者が、どんな頭の悪そうな悪口を言うか。
どんな悪ガキっぽい下ネタを言うか。
「アリシアの⋯」
(だめだめ、笑っちゃだめ!気付かれないように!!平常心平常心⋯)
「胸を触りたい」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯、?」
「ムラムラする」
ぶふぉぉおおお!!!!!
「セックスしたい」
「!!!!!!!!!」
(だーーー!ストップストップ!!やめやめ!解除!!なしなしなし!!!!!)
恥ずかしさのあまり顔を両手で覆うアリシア。
混乱する頭で、どうにか止まれと念じながら頭をブンブン振っていると、慌てたようにアーロンの両手で顔をつつみ込まれた。
「アリシア!?」
「ひぅっ」
思わず両手を伸ばして突き放してしまう。
あからさまな拒絶反応に、驚きの顔のアーロン。
「!⋯⋯アリシア⋯」
だがアリシアとしても、あんなものを聞かされた直後の接近&接触は心臓に悪い。
「⋯…大丈夫か?鼻血が出てる、医者を呼ぼう。」
鼻血を指摘された淑女が、果たしてどのような反応を見せるのが正しいか知らないが。
アリシアはとっさに手の甲で鼻血を拭って、血がついてることを確かめると、鼻をつまんで上を向うとして思いとどまって、うつむいた。
確か、上を向くのは間違いだったはずだ。意外と冷静なアリシアである。
「ははは鼻血くらいで医者を呼んでたら、ブラック認定されて、今以上に医者のなり手がなくなるから絶対やめて」
「ブラック…?医者のなり手が何だって……?」
怪訝な顔をしながらも、メイドに医者の手配を頼むアーロン。
(しまった、動揺して前世の知識と言葉がまざる…)
全然、冷静ではなかったアリシア。
「…いやもう、本当、何ていうか本当…、とにかく私は元気だから!鼻血が出てるけど元気だから!!」
もう、自分でも何を言っているか分からない、アリシア。
おねがい誰か助けてほしい。
「それは診てもらわないと、分からないだろう?」
心配そうに覗き込もうとするアーロン。
残念ながら、それは逆効果である。
そして誰か助けて欲しいけど、それは医者じゃない。
「わかるの!自分の身体のことは自分が一番わかるから!だから元気元気!超元気!!」
「アリ⋯」
もうこうなってしまえば出来ることはただ1つ。
「元気だけど帰るね!ばいばい!!」
「アリシア!?」
逃げるが勝ち、である。
その晩熱を出したアリシアは、これでしばらくアーロンに会わなくて済むとホッとした。
あんな事を言わせてしまった申し訳なさと恥ずかしさで、あわせる顔がなかったからだ。




