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「こう言う本のセリフを言って欲しいとか思うか?」
「!!!」
(よくない!よくないわアーロン⋯⋯っ!!!)
思わず吹き出しそうになる、何も飲んでなくて良かった。
(そ、それは⋯!幼なじみと学園の先輩である王子様との、三角関係を描いた話!!)
勿論それだけの話ではなく。
小さい頃はわんこ系だった幼なじみがクーデレからのヤンデレに成長し、対抗するように王子様は腹黒猫かぶりから独占欲丸出しのドSに成長を遂げ、ヒロインが堕ちていく様が儚くも美しく、時に官能的に描かれていた。
「ちょっとそれは…、ま、まだ早いと言うか…、もっと、こう、…お手柔らかに?願いたいと言うか……」
「⋯⋯なるほど、分かった。」
(小説を参考にするのではなく自分の言葉で語れ、と言うことか…⋯お手柔らかにと言うのは何だ??いつもの説教の様なのは嫌だと言うことか?)
全くの的外れでもないアーロン。一方のアリシアはと言うと
(え、どうしよう?オススメを渡すべき??でも、この中で私イチオシの爽やか王子キャラも意外と言葉攻めがすごくて、あんな事アーロンに言われたら私⋯)
「って、うわわわ!ダメダメ!!違うこと!違うこと!!」
頭の前で手を振って、よみがえる甘いセリフのアレコレを振り払うアリシア。
思わず口から出ていることは気が付いていないようだ。
「何がダメなんだ?違うとは??やはりこの本のセリフを言って欲しいと言うことか?」
困り顔のアーロンが急に的外れになる。
その本のセリフをアーロンが口にしたら、アリシアは3日どころか3週間は会ってくれないだろう。
「違っ⋯⋯わないけど違うぅぅぅ」
アリシアは今日何度目になるか分からない「分かってほしいけど知られたくない、だけど分かってほしい」ジレンマにどうしようもなくなっていた。
「すまないアリシア、僕には分からない。だけど⋯⋯、やはり何も聞かない方が良いか?」
アリシアの事を知りたいが、アリシアが苦しむのは望むところではない。
「うぅぅ⋯⋯、聞いてほしいけど、聞いて欲しくないぃぃ」
「そうか。」
アーロンは真面目だ
「うぅぅ、聞かれたくないけど聞かれないことに、ホッとして、ムカッとする……」
「それはすまない。」
アーロンは真面目で堅物だ
「うぅぅ、ぐすっ、ホッとしてムカッとしてアーロンごめんねって思うのに、一番大切って言われて嬉しいって思ってる…っ」
「⋯僕もアリシアが別れたくないと言ってくれて嬉しかった。」
アーロンは真面目で堅物で口うるさい割に甘い言葉の1つもかけてくれない
だけど
「アーロンだいすき⋯」
「僕もだアリシア、愛してる。」
ぐぅぅううううううううう
気が抜けたからか、野生児の体内時計の正確さ故か、アリシアの腹の音が盛大に正午を告げた。
「アリシア、昼食が終わったら一緒に街に行かないか?新しいカフェが出来たらしい」
ロマンス小説の登場人物達の中には、秘密を抱えてるキャラが沢山いた。
実は王子様な庭師、実は黒幕な父親、実は令嬢な文鳥、実は腹黒な王子様。
キャラが抱える秘密にドキドキしながら読んでいたけど、私には秘密は似合わないようだ。
今日アーロンと話をしただけで生きた心地がしなかった。もうこりごりだ。
今日カフェに行ったら、スキルのことをアーロンに話そう。
アーロンの説教中にスキルに使っていたことも話そう、言える範囲で。
怒られるだろうけど、説教中はスキルを使って今度こそお気に入りの言語を探そう。
でも甘いセリフを言うようなスキルは使わないでおこう。
それはアーロンの言葉で聞きたいから。
そう言えば結局─────
「アーロンってムラムラしたり胸を触りたいとか思うのかな?」
思わず考えてることが口に出てしまうアリシア。
運の悪いことに、まだアーロンは部屋に居た。
「⋯⋯⋯アリシア?誰がきみにそんな事を教えたんだ?」
とある地方の男爵家の一室、アリシアは今日も隣に座るアーロンの、日課の説教を受けるのであった。




