10 アーロンの焦燥
「アリシア!!?入るよ、アリシア!」
言うと同時に部屋に入る。
返事を待たなかったが、トラブルに巻き込まれているかも知れない婚約者の悲鳴だ。誰が咎められよう。
「アリシア?」
アーロンが部屋に入ると、アリシアのベッドの上に小さく丸まった布団の塊がうごめいている。
周りには付箋の貼られた本が何冊も散らばっていた。
この数日アリシアが読み耽っていたと言うロマンス小説だろう。
「ふぎゃああ!ごめんなさい」
塊から悲鳴混じりの謝罪が聞こえてきた。中身はアリシアらしい。
大きさからして1人のようだ、賊ではないと安心する。
早く顔を見たいが無理に覗くのは良くないだろう。
「どうした?アリシア、何があった?」
「ないないない!何もない!ちょっと刺激が強すぎるだけで!」
「刺激⋯!?何か盛られたのか!ちょっと見せて⋯」
前言撤回、慌てて塊からアリシアを取り出すアーロン。
少し怒りを滲ませて焦った表情のアーロンにドキッとしたアリシアだったが、アーロンが顔やら肩やら腕やら、やたらアチコチ触っては舐めるように見てくるものだから、たまったものではない。
「ほぎゃあ!!!ヤダヤダヤダ!ちょ、まじ無理!!ほんとヤメて!もう、お願いだから」
真っ赤な顔で半泣きのアリシア、傍から見ると何とも誤解を生む構図。
心配で居ても立ってもいられないところ、3日間も我慢させられた婚約者に対して酷い仕打ちである。
とは言えアリシアとしても、とんでもない記憶?妄想?からのご本人登場!からの至近接近での過剰接触!!
鼻血を出さなかっただけでも褒めてもらいたい。
(ひぃぃ、そんな純粋な目で見ないでぇぇ!あんないやらしいこと言わせてごめんなさいぃぃ!!)
罪悪感と羞恥心に耐えきれず、両腕を掴まれたままアリシアはうずくまるように顔を隠す。
「なんだ、アリシア。僕に見られて困る様な何かがあるのか?」
傷か?痣か?刺激とはなんだ?毒か?呪いか?
アリシアの頼みとは言え3日も会いに来なかった自分に腹が立つ。
どうして3日も放っておけたのか、アリシアはどれだけ心細かったことだろう。
こうなったら全て聞き出すまで帰らない、とアーロンは決心する。
アリシアにとって地獄のような時間のはじまりであった。
(見られて困るのは私じゃなくてアーロンの方だよ!あんなこと言わされて!!いや、言ってないけど!!!⋯…ん?言った?言ってない?え???どっちだっけ……?)
アーロンはベッドの上に散らばった本を見渡し、その1冊に手を伸ばす。
やはり外国語で書かれている。
ざっと見ただけでも、領地から近い南と西の隣国、それぞれの言語で書かれた本が数冊。
我が国の北に接する隣国、東に接する3つの隣国、西に接するもう一つの隣国、遠い国の言語、更に海を挟んだ国の言語の本まである。
そして、その全てに付箋が貼られている。
この本を持ち込んだ人物の目的が、アリシアの両親に売れ残りを押し付けてカモにしようとしたのか、それとも言語に長けている人間がいると気付いて、探りを入れてきたのか。
後者の場合、屋敷内かそれに近い者に間者がいる可能性も。
まあ、その辺りは追々ということで⋯
「アリシア」




