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最北大学学生事務局  作者: 萩原詩荻


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第95話 モテる謎を解き明かすために、我々は……

202X年、夏休み終盤/学生事務局部室


 夏休み終盤。

 特別な用事があるわけでもないのに、部室には“なんとなく”人が集まる日がある。


 エアコンは効いてるのに、外の熱が身体に残っていて、みんな動きにやる気がない。

 机の上にはペットボトルと、誰かの買ってきた菓子パンと、印刷済みの謎資料。


「おっつー」


 ナツキが、片手を軽く上げて入ってくる。

 Tシャツにショートパンツ、髪をざっくり結んで、いかにも「夏休み中のモテ女子」って感じのラフさ。


「おつー。……さっき、また告白されてたろ?」

 シンジが、机から顔だけ起こして言う。


「そーなのよねー」


 ナツキは、いつものように「まただよ」みたいな顔で笑って、

 そのまま椅子に腰かける。


「夏休みにも告白されるの大変そうです~」

 メグミが、ソファの背もたれに顎を乗せて、のほほんと同情する。


「なぜ、ナツキはこんなにもモテるのか――その謎を解き明かすために、我々はアマゾンの奥地へ向かった……」

 コウメイ先輩が、資料を閉じながら、突然ナレーション口調になった。


「アマゾン行ってどうするのよ」

 カオル先輩が即ツッコミを入れる。


「ここで解明してしまいましょう。渡航費がもったいないわ」

「は?」

 ナツキが、きょとんとした顔で振り返る。


「“なぜモテるのか”を真面目に解析するのも、学生の大事なお仕事です」

「観察対象:2年生女子・ナツキ。モテ度:学部内トップクラス」

 シンジが乗り、コウメイ先輩が平然と続ける。


「後輩育成の教材になる」

「やめろ、教科書にするな」

「“モテ学”シラバス……」

「出そうとするな」


 そこへアキハが、腕を組んでにやっと笑った。


 夏休み終盤の、暇を持て余した学生たちの遊びが一つ、ここに生まれた。


「ああ、なるほど。じゃあ――」


 アキハの視線が、すっと一人を指す。


「カズネ。あんた、ナツキの“好きなところ”一つ言いなさい」


「えっ、いきなり!?」

 カズネが、漫画を置いて椅子から飛び出す。


「いいねぇ」「面白い」「聞きたいです~」「議題出たな」

 周囲が一気にざわついた。


「さ、どうぞ」

「え、えっと……」


 数秒だけ悩んで、カズネは、胸を張って叫んだ。


「顔です!!」


「ちょっと!?」


 ナツキが即座にツッコむより早く、周囲が一斉に頷いた。


「顔だな」

「顔が良いは、強いステータスです」

「あとスタイル」

「声もイイ」

「可愛いですもんね~」

「見た目」

 遠慮のない総攻撃。


「ちょっと待って!ねぇ、中身は!?中身の話は!?」


 ナツキが両手をぶんぶん振る。

 可愛いな。


 しかし――


「「「「「去年までの外面ならともかく、現実知ってるとちょっと……」」」」」


 二年生以上が全員、息ぴったりで揃えやがった。


「ちょっと待って!?なんでそこだけハモるの!?」

「正直、性格は……」

「可愛いから許されてるわがままも多いしねぇ」

「中身って言われると……うん……」

「去年までの外面なら“完璧ヒロイン”だったけどねぇ」

「ナツキ先輩、正直に言うと中身は面倒が先に来ます~」


 全員、言い方を微妙に濁しながら刺してくる。


「ちょっと!!ねえ!!?ねえ!?」

 ナツキが、部室中を見回してから、俺の方へ一歩。


「タマキィ~~!! みんながいじめる!!」

「知らんがな」

 反射で返す。


「ひどくない!? タマキは私の味方じゃないの!?」

「味方だよ?」

「じゃあ庇って!?」

「顔が可愛いのは事実だからなぁ……」

「そこだけ肯定すんな!!」


 周囲もニヤニヤ笑う。


「じゃ、仕切り直し」


 アキハがぱん、と手を叩いた。

 まずい、アキハが、獲物を見つけた目をしている。


「タマキ。ナツキの好きなところは?」


「……パスは?」


「ふーん?」


 アキハが、にっこり笑う。

 その笑顔が一番こわい。


「好きなところ、ないから言えないんだぁ?」

「あるわぁ!!!」


 条件反射で叫んでから、「あ、やられた」と気付く。

 遅い。


「お、白状した」

「録音しておこうか」

「にゃふ、“ある”って言いました」


 ナツキがなぜか勝ち誇った顔をしている横で、イズミが、テーブルを軽く叩く。


「今まで出た“顔・スタイル”禁止な」

「……え?見た目?」

「なし」

 シンジが即答する。


「じゃあ声」

「既出」

「可愛い」

「ダメ」

「うるさい」

「それは感想じゃん、禁止以前に」


 逃げ道が塞がれた。


 ナツキが、じっとこっちを見る。

 期待半分、不安半分、ちょっとだけ照れが混じった目。


「……じゃあ」


 少しだけ息を吸って、ちゃんと言葉を探す。


「本気で生きているところ」


「……は?」

 ナツキが、きょとん、と瞬きをする。


「自分や周りを、幸せにすることに妥協しないところ。

 どうしたら自分と周りが幸せになるかって考えて動いてるの、カッコイイと思ってる」


 部室の空気が、ほんの少しだけ静かになる。


「それに」

 続けた。


「“どう見られるか”も含めてちゃんと考えて、それを武器として使いこなしてる。

 “モテ要素”とか“可愛さ”とか、全部込みで、外から見てるよりずっと頑張ってるのも知ってるし――そういうナツキが、すげぇ良いなって思ってる」


「…………」


 ナツキの耳まで、ゆっくり赤くなっていくのが分かる。


「ちょ、待って」

 ナツキが、片手で顔を覆った。


「今、普通に、真面目に、めちゃくちゃ褒められたんだけど」

「褒めてるからな」

「そうなんだけど!!そういうのもっと早く言ってよ!!」

「タイミングがなかった」

「今までの人生のどこかであったでしょ!?」

「うるさい」


「……はい、これアウト」

 アキハが、にやっと笑う。


「なにが」

「“顔より中身の方が好き”まで言った」

「言ってないだろ!?」

「情報量が多いです~」

「いい告白だった」

「記録、残します」

「カズネ、録音してた?」

「してないです!!」


 してたら消せ。


 マシロ先輩が、にこにこしながら言う。


「タマキくん、そういうとこ真面目で好き~」

「今、俺の好きなところ聞いてないです」


 メグミが、ふにゃっと笑う。


「ナツキ先輩、今の効いてますね~」

「効いてないし!?」

「効いてる顔です~」


 イズミが満足そうに拍手する。


「今の良かったからさ。他の人の“好きなところ”もこの機会に聞いてくか」

「お、出た」「コウメイ、議事録よろしく」「後期の授業科目になるかもな」


「なんでだよ、ナツキ解体研究だっただろ」

 俺が本気で止めにかかると、


「甘い」


 イズミとアキハが、ほぼハモった。

 シンジが、完全に悪い顔をしている。

 こいつら、後で覚えとけよ。


「タマキ」

「……はい」

「アキハの、どこが好き?」


 部室の視線が一斉にアキハに集まる。

 当の本人は、腕を組んで足を組んで、余裕の表情でこちらを見ていた。


「顔」

「禁止」

 とりあえず言ってみたが、シンジが即答する。

 なんでだよ、アキハの顔良いだろ。


「おっ……」

「タマキ?」

「はい」


 アキハの声の温度が、真冬の札幌より冷たかった。

 寿命が数年縮んだ気がする。


「……じゃあ、真面目に」

 観念して、ちゃんと向き合う。


「隣に立つのが上手なところ」


「……ん?」

 アキハの眉が、わずかに動く。


「なんかあったとき、一番最初に話したくなる感じ。

 うまくいった時も、失敗した時も、“とりあえずアキハに言っとくか”って思う」


「……」

「夕日が綺麗だなー、とか、ほんとに些細なことでも、アキハには聞いてほしくなる」


 言いながら、自分で「これ相当恥ずかしいな」と思う。


「頼りにしてるし、信用してるし。

 “隣で同じ景色見たくなる人”って意味で、すげぇ好きだよ」


 アキハは、ぎゅっと唇を噛んで、こっちを見なかった。


「……」

「……」

「…………」


 沈黙が続く。


「アキハちゃん、顔真っ赤」

 マシロ先輩が、めちゃくちゃ楽しそうに言った。


「うっさい」

 アキハが、資料で顔を隠す。

 耳まで真っ赤だ。

 こういうとこホント可愛いよな。


「アキハセンパイ、顔真っ赤ですよ!!」

「うっさいカズネ!!」


 椅子から立ち上がり、カズネを追いかけ回し始めた。


 メグミが、ぽそっと呟く。


「今日のタマキさん、感情の刺し方が直球すぎて怖いです~」

「研究材料として秀逸だな」

 コウメイ先輩が、何故か納得した顔をしている。


 この辺にしとこうぜ?



「よし、続行」

 逃げた話題をさりげなく戻したのは、やっぱりカオル先輩だった。


「次、メグミの好きなところー!」

「あ、コレ全員分言わされる流れです?」

「当たり前でしょ?」


 どこの世界の当たり前か教えて欲しい。


 メグミが、ぽわっと笑って手を上げる。


「私の好きなところ、言ってほしいです~」

「……お前も乗り気か」


 逃げ場、なし。


「メグミはさ」

「はい~?」


「皆の空気を大切にしてるところ、好き」


「……」

 メグミの目が、少しだけ丸くなる。


「肩に力入りすぎてる時とか、場がピリピリしてる時とかに、

 メグミがいてくれるだけで、空気がちょっと柔らかくなる」

「……そうですか~?」

「そうだよ」


 何度も見てきた光景だ。


「“頑張りすぎてる人”の肩から、そっと力を抜いてくれる感じ。

 本人は多分、“サボりに誘ってるだけ”くらいに思ってるんだろうけど」

「バレてました~」

「その“サボろ?”で救われてる人、結構多いから」


 言いながら、自分自身の顔が浮かんで、苦笑する。


「そういう時、多分、メグミが辛い空気を背負ってるんだろうなって思うから――

 そんなメグミの逃げ場に、俺もちょっとでもなれたらいいなって思ってる」


「…………」


 メグミが、口元にそっと手を当てて、ふにゃっと笑う。


「んへ~……」

 メグミが、ソファにずるずる沈み込んだ。


「溶けた」

「溶けましたね」

「“んへ~”出ました~」


 周りが面白がる中、当の本人は、クッションを抱えて転がっている。


「……じゃあ、えい~」


 半分溶けた状態で、こっちに転がってきて、腕にぴとっとくっついてきた。


「タマキさんが逃げ場なら、ちょっと甘えてもいいですよね~」

「いいぞ」

「えへへ~」

「でも、暑いからちょっとだけな」

「にゃふ、メグミちゃん、ずるいです……」



「はい!ハイハイ!!」

 手をばたばた振りながら、マシロ先輩が身を乗り出してきた。

 この人、こういう場が大好きだ。


「今、心の準備できてるの!」


 マシロ先輩を見る。

 いつもみたいに、周りを元気にする明るい笑顔。

 ……それだけじゃないことも、もう知っているけど。


「マシロ先輩は――」


 言葉を探すまでもなく、出てきた。


「“怖いけどやってみたい”ってことから、逃げないところ」


「……」

 マシロ先輩の笑顔が、少しだけ大人になる。


「やってみたいけど失敗したら怖いとか、上手くできるか不安とかそういうのあるじゃないですか」

「まぁ、ねぇ」

「でも先輩は、“怖いけど、やってみたら楽しそうだしなぁ”って顔して、わりと真正面から突っ込んでく」


 ヒカリさんがショーを誘いに来た時。

 笑顔で即答したマシロ先輩はとてもかっこよかった。


「マシロ先輩を見ているだけで、自分も頑張ろうって思えるところ、太陽みたいで素敵だと思ってます」


「太陽!」

「太陽出たわね」

「わかります!」


「あと、家でミシンしてる時の真剣な横顔とか、超好きです」

「ちょ……ちょっと、そういうピンポイントで恥ずかしいやつやめて!?」

「事実なので」


 マシロ先輩が、耳まで真っ赤になってソファに倒れ込む。


 バタバタと足をばたつかせたあと、マシロ先輩は勢いのまま突撃してきて――


「ご褒美!」


 そのまま正面からぎゅーっと抱きついてきた。


「うおおおお」


 柔らかい。あったかい。ずるい。


「やば」「尊い」「あれ反則」「具体的エピソード挟むのズルい」

「ヒロイン力の暴力ですね~」



「えっと、その……」

 静かな声が挟まる。


「わ、私も……聞いてもいいかな」


 マヨイ先輩が、膝の上で手をぎゅっと握りしめながら、こちらを見ていた。

 その時点で既に可愛いのは反則だと思う。


「もちろんです!」

 なぜかカズネが答えた。


「マヨイ先輩は……」


 少しだけ、ゆっくり言葉を選ぶ。

 ここで胸とか言ったら多分俺は殺される。


「人の話を、最後まで聞くところが、すごく素敵だと思ってます」


 これは、ずっと前から思っていた。


「マヨイ先輩は、芯が強くて、安心感がすごいあるんだけど……」


 押しに弱そうで、実は一番ブレない。


「それでいて、相手の悩みや考えを、絶対にバカにしたりしないで、寄り添って、一緒に考えてくれる」


 頷いて、相槌打って、必要なら少しだけ言葉を返す。

 押し付けるわけでも、突き放すわけでもなく。


「“それくらいで悩むなよ”とか、“大したことないよ”って言わない。

 一緒に悩んでくれるし、一緒に考えてくれるから、話してて安心する」


「……そんなふうに、見えてたんだね」

 マヨイ先輩が、小さく笑う。


「ずっと前から尊敬してます、そういうところ。

 俺が“誰かの話をちゃんと聞かなきゃ”って思う時、

 一番イメージしてるの、マヨイ先輩なんで」


「……ありがと。ふふ、なんか照れるね」

「でしょ?お姉ちゃんすごいでしょ!!」

 横でマシロ先輩がドヤ顔なのも、いつもの光景だ。


 あー、二人並んでるとマジ尊い。


「いいねぇ、部室で尊敬とか言い出すの、青春」

 カオル先輩が、楽しそうに言う。


「やめてください、恥ずかしくなってきた」

「もう遅いわ」



「そろそろ、私にもください!!」

 カズネが、待ちきれない顔で身を乗り出した。

 空気が重くなりすぎないようにする、天才の入り方。


「カズネ」

「はい!!」


「好きなものに正直なところが好きだな」


 カズネが、ぴたっと動きを止める。


「“これ好き!”とか“これ楽しい!”って気持ちが分かりやすくて、

 それを遠慮しすぎずに表に出せるところ」


「う、うう……」

「素直に可愛いなーと思うことも多いし」


 プールの時もそうだったし、雑貨屋で語ってた時もそうだ。


「でも、“ただの騒がしい後輩”じゃなくて、

 その裏でちゃんと考えてるのも分かるから、必要以上に気を使う必要もなくて」


「……っ」


「一緒にいて楽しいし、助かることも多いし、

 “自分で思ってる以上に頼りになる後輩”なところ魅力的だよな」


「~~~~~っ!!!」


 カズネが、その場でぴょん、と飛び跳ねてから、膝から崩れ落ちた。


「センパイ!!」

「うん?」

「今の録音データ、ください!!」

「撮ってない」

「なぜですか!!」

「知らん」


 周囲からも、「分かる」「頼りになるよね~」「にゃふ、わかります」と肯定の声が上がる。


「……えへへ」

 最終的に、カズネは両手で頬を押さえて溶けた。



「にゃふ」


 明らかに、タイミングを計っていたフユミが、そっと手を上げる。


「無いとか言われたら泣きます」

「無いわけないだろ」


 俺は即答した。

 即答できるのが怖いな。


「俺の個人的なことを言うなら――」


 一呼吸置いてから、言う。


「趣味嗜好がとてつもなく合致するのが、一番好きなところではあるんだが」


「にゃふ?」

 フユミが、小首をかしげる。


「ゲームも、本も、飲み物も、食べ物も。

 “これ好きだな”って思うものの範囲が、びっくりするくらい似てる」


「……それは、わたしも思ってました」

「なので、一緒にいると、すごく楽で、“なんでもない時間”を共有できる感じ」


 部室が、少しだけ静かになる。


「で、それとは別に――フユミは実は甘やかすのがとても上手なんだよね」


 フユミの耳が、赤くなる。


「一番ダメになりそうな時に、“この人になら甘えてもいいのかもしれない”って思わせる力があるというか」


「“ちゃんと支えてくれるんだろうな”って、勝手に安心しちゃう相手」


「……にゃふ」

 フユミが両手で頬を押さえてる。


「俺が一番ダメになりそうなタイミングで頼ってしまっても、

 フユミなら大丈夫かな、って思っちゃう。

 それが、たぶん――一番好きなところなんだろうなって」


「にゃふ……!ストップです!恥ずかしいです……!」

「言わせたんだろうが」

「でも、嬉しいです……!」


 その言い方がもうずるい。

 部室の空気が、ふわっと柔らかくなる。


「フユミちゃん、そういうとこあるよね~」

 メグミが頷く。


「“甘やかしてくれるのが上手”とか、一番ダメになるやつじゃない」

 ナツキが、頭を抱えている。


「タマキ、今、自分で自分の首絞めたわよ」

 アキハも渋い顔だ。


「今の、わりと告白レベルじゃない?」

「それな」

「それなんよ」

「告白ではないです」

 即座に否定する。


「“告白だったとしてもおかしくないレベル”ではある」

 コウメイ先輩が、冷静な判定を下した。


「異議ありです!」

「却下」



「――はい、まとめ」

 カオル先輩が手を叩く。


「今ので分かったこと。タマキは、全員の“好きなところ”を具体的に言える」

「それを公開処刑でやらせないでもらえます?」

「そして、“顔がいい”“可愛い”“スタイル”系の安易な褒めが封じられると、むしろ本気のやつが出てくる」

「事実顔やスタイルが良い人が多すぎるのが問題かと」

「聞いてる側としては大変よろしい」

「にゃふ、“本気のやつ”は、心臓に悪いです」


 わいわいしていると、なぜか静かだった人間が一人、手を挙げた。


「じゃあ、俺も!!」


 イズミだ。


「死ね」

「ひどくない?」


 反射で出た言葉だった。

 部室に笑いがはじける。


 シンプルに、心からの一言だった。


「雑!!」「今までのと温度差!!」「扱いひどっ」「でも分かる」「にゃふ、信頼の証です」

 好き放題な感想が飛び交う。


 コウメイ先輩が、ペンを取り出して言う。


「では次の研究テーマだ」


 その後しばらく、なぜか「お互いの好きなところ一個ずつ言うゲーム」が続いた。


 シンジとカズネがバチバチに言い合い、

 コウメイが“理屈っぽい褒め”で場を微妙な空気にし、

 カオル先輩がさらっと後輩を殺しにいく一言を落とし、

 マヨイ先輩が「シンジくんの“大事な場面で頼れるとこ”が好き」なんて言って、シンジが本気で照れ、

 最終的に、「褒め言葉の後は必ずシフォンケーキかアイスを配る」という謎ルールが追加された。


 笑い声が、部室に広がる。


「……なにその顔」


 ナツキが覗き込んでくる。


「なんでもない」

「嘘。今、幸せそうだった」

「気のせい」

「じゃあ、もう一回言わせよう。私の好きなところ」

「ヤダ」


 こうやって、言葉にして好きなところを並べられる相手がたくさんいる夏休みも、終盤。


 でも、多分、こういう日は、まだもう少し続く。

 続いてほしい。

 そう願ってしまうくらいには。


 俺は今、皆のことが好きだ。

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