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最北大学学生事務局  作者: 萩原詩荻


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第79話 なつやすみのかけら

202X年、夏休み中盤


① ミシンの音だけがする昼下がり


 夏休みの、何もない昼下がり。

 太陽は元気。


 タタタタタ――。


 ミシンの小気味いい音だけが、部屋に響いていた。


 部屋にいるのは、珍しく俺とマシロ先輩だけ。


 沈殿ゾーンには誰も沈んでおらず、テーブルの上には糸巻きとチャコペンと型紙。

 持ち込まれたミシンが今日も働いている。


 ミシンの正面に、マシロ先輩。

 俺は、ソファでのんびりと本を開いていた。


 ページをめくる音と、ミシンのリズム。

 夏の午後にしては、贅沢なくらい穏やかな時間だ。


「タマキくん」

 ミシンの音がふっと止んで、名前を呼ばれる。


「はい?」

 顔を上げると、椅子くるっと回して、こっちを見ていた。


「退屈じゃない?」

「いいえ、落ち着くなぁと思いながら本読んでましたけど」


 素直に答えると、マシロ先輩が、ちょっと申し訳なさそうに眉を下げた。


「ごめんね?元気担当なのに」

「んー。全然元気になりますよ」


「そう?」

「ええ、マシロ先輩が真剣に楽しそうな顔でミシンに向かってるの見てると」

「え!?か、顔見てるの!?」

「ええ、まあ。ちらちらとは」

「ちょ、ちょっと待って、恥ずかしいんだけど!?」


 マシロ先輩が、あわてて両手で頬を覆った。

 可愛い。


「いや、別に変な意味じゃなくてですね」

「変な意味に決まってるでしょ!? “真剣に楽しそうな顔”って何!? 褒め言葉なのはわかるけど!!」


 耳まで赤くなってる。

 元気担当、すぐオーバーヒートする。


「ひどい……」

「ひどくはないでしょう」

「だって、“元気担当”ってさ、もっとこう、わーって騒いでるイメージじゃない?」

 マシロ先輩は、クルクルと椅子を回しながら言う。


「なのに、最近“黙々と縫ってる時間”が一番楽しくてさー。なんかごめん」

「それ、すごく良いことだと思うんですけど」

「え?」


「いつも周りを元気にしてくれるマシロ先輩自身が、楽しく元気になれる時間なんだなって」


「……ずるーい」


「何がですか」

 ずるいと言われる覚えはない。


「そういうことさらっと言うから、“元気担当”やめられないじゃん」

「別にやめたければ、やめてもいいと思いますけど……」

「やめないもーん」


 マシロ先輩は、またミシンに向き直りながら言う。


「実はね、“学校の課題もやりつつ、服の勉強もしたい”って、ちょっと欲張りすぎかなって思ったこともあったんだけどさ」

「はい」

「こうやってタマキくんの部屋で、ダラッとミシン動かしてると、“あ、私、こういう時間が欲しかったんだな~”ってなる」

「……」


「ねえ、タマキくん」

「はい」

「……私が“楽しく黙々と作業してる時間”を、横で黙って見ててくれる人、結構貴重だよ?」

「そうです?」

「だって!退屈そうにされたら申し訳ないし!」


 ミシンを走らせたまま、チラッとこっちに目線を向ける。


「“一緒に騒いでくれる人”は、割といるの。

 でも、“静かな時間を共有してくれる人”って、お姉ちゃん以外にはそんなに多くない」

「……それは、ちょっとわかる気がします」

「だから、“退屈じゃない”って言ってくれるの、結構嬉しい」


 綺麗な笑顔を浮かべ、先輩はまた意識を正面に向けた。


「だから、私も安心して黙々と作業するね」

「どうぞ。俺も安心して本読みます」

「でも、チラチラ見ないでね?」

「それは難しい相談ですね」

「なんで!?今ちゃんと良い雰囲気だったじゃん!!」

 文句を言いながらも、ミシンに向かう背中は、ちゃんと楽しそうだった。


 タタタタタ――。


 また、ミシンの音が部屋に戻ってくる。

 ふいに、マシロ先輩がぽつりと言った。


「――ね、タマキくん」

「はい」

「こういう時間、“羨ましがる子”いっぱいいると思うよ?」


 針から目を離さずに、言葉だけ落とす。


「“タマキくんの部屋で、二人きりで、好きなことしながら、一緒に時間使ってる”ってやつ」

「……別に俺がいる必要ないと思いますけど」

「でも、私はね」


 タタタタタ――。


「“二人きりの時のタマキくん”も、“皆といる時のタマキくん”も、セットで見ていたいかな」

「ふむ。俺が、“黙々モードの先輩”も、“元気ばらまきモードの先輩”も見ていたいのと一緒ですね」

「うん。一緒だね」 


 俺もページをめくりながら、意味があるようでないような会話をする。


「だから、見ててね」

「喜んで」


 夏休みの午後。

 “元気担当”が黙々とミシンに向かってる時間を、横で眺めるだけの、それだけの時間。


 でも――こういう時間を、「いいな」と思えるのは、悪くない。

 いつか、自慢するんだ。

 「あのマシロ先輩って、俺ん家で黙々とミシンしてたんだぜ」って。






② がんばりすぎ注意報


 夏休み中盤の平日。

 今日も、ヒカリさんのアトリエを掃除し、観葉植物に水をやり、珈琲マシンの機嫌をとって、さあ、帰ろうかとしたところで、ヒカリさんに呼び止められた。


「タマキくん、ちょっとお願いしてもいい?」

「俺にできることなら」

「相変わらず即答ねぇ。

 ……この近くのスタジオでね、マヨイちゃんが自主練してるの」

「ああ、レッスンを受けているとは聞いて……ん?自主練?」


「最近ちょっと、熱が入りすぎててね。レッスン後に一人で残って練習してるっぽいのよ」

「……あー、なるほど」


「本気なのは嬉しいけど、身体壊したら意味ないでしょ。講師側も心配しててねぇ」

「俺でいいんですか?」

 つまり、ブレーキ役として派遣されるわけだ。


「話が早いわね、マシロちゃんを行かせようかと思ったんだけど、そっちはそっちで追い込み中でね」

「そうなんですか」

「うん、もうすぐ出来上がると思うわよ」

 すごいな、マシロ先輩も。


「私が行くと、どうしても“プロ”とか“先輩”の声になっちゃうからね。

 タマキくんなら、丁度いい距離感で止めてあげられるかなって」

「わかりました、鍵とか必要です?」

「スタジオの受付には連絡しておくから鍵はいらないわ。“怒る”んじゃなくて、“ちゃんと心配してるよ”って伝えてあげて」

「……ダッシュで行きますので、一旦家寄ってからでいいです?」

「ふふん、タクシー代くらいなら出してあげるわ」


 と、こんなお願いをされて、教えられたビルにやってきた。


 頼まれごと自体は別にいい。

 マヨイ先輩に身体壊される方が心配だ。



 受付で名前を告げると、事前に話が通っていたらしく、「三階のレッスン室です」と教えてもらえる。


 一か所だけ電気がついていたスタジオの前まで来ると、ドアの向こうから微かな音がした。

 ヒールが床を打つリズム。ターンする時のかすかな衣擦れ。


 静かにドアを開けると――


 部屋の真ん中に、マヨイ先輩が一人。


 大きな鏡を正面に、まっすぐ立っている。


 足元はヒール。

 膝から下が一直線に伸びていて、背すじもきれいに伸びている。


 そのまま、一歩、二歩。

 ターン。

 戻って、もう一度。


 俺が入ったことにも気づかず、黙々と繰り返している。


 ――綺麗だ。


 これ以上、見ているのも悪いと思い、俺は、タイミングを見計らい、声をかける。


「こんばんは」

「――っ」


 マヨイ先輩が、ビクッと肩を震わせる。


「た、タマキくん!? ど、どうしてここに……」

「ヒカリさんから、『様子見てきて』って頼まれまして」

「ひ、ヒカリさんから……」


 マヨイ先輩の視線が、少しだけ揺れる。


「“最近、一人で残って練習しすぎ”って聞きました」

「……う……」


 図星だったらしい。


「だ、だって……。毎日ちょっとずつできることが増えてて、楽しくて……だから……」


 ぽつぽつと、こぼれてくる言葉。


「“ちゃんと歩けた”って思える瞬間が、増えてきたのがうれしくて。

 だから、“もう一回”“もう一回”って……」


 鏡越しに、自分の足先を見下ろしている。


 壁の時計を見て、俺も苦笑する。


「“もう一回”は沼なんですよねぇ」


 あと1ターンが止められないゲームってあるよね。


「じゃあ、今日は本当に“あと一回”にしましょう。

 見てるのが素人ですみませんが、俺もマヨイ先輩を見たいです」

「え?み、見たいの?」


「見たいかどうかと言われたら、凄く見たいです」

 それは本当。


「じゃ、じゃあ、ちょっと待ってね!」


 マヨイ先輩がスタートらしき位置に立ち、もう一度、鏡に向き直る。


「――お願いします」


 ヒールの音が、再び床を打つ。


 歩幅。

 重心の移動。

 止まる位置。

 顎の角度。


 一本の線の上を歩くような緊張感が、レッスン室の空気を張りつめさせる。


 ……すごいなぁ。

 素直に思う。


 6月のショーの時もすごいと思ったけど、“そこから先に進もうとしている人間の空気”は、また違う。


 俺がぼんやり見惚れているうちに、一往復歩き終わった。


 止まったマヨイ先輩が大きく息をする。


「ど、どう……でしたか……?」


 汗をぬぐいながら、こちらを振り返る。


「正直、めちゃめちゃ綺麗でした。

 ショーの時もすごいと思いましたが、今日のは、なんというか、“プロってこういう練習してるんだろうな”って感じでした」

 語彙力がほしい……


「ほ、本当!?も、もう一回だけやろうかな。今の結構うまくできた気がするの」

「そう言うと思ってました」


 笑顔が可愛いけど、

 それを許すと無限ループなので、許さない。


 さっきダッシュで家に寄って取ってきた秘密兵器を取り出す。

 ナツキが「何してるの?」という顔をしてたが、とりあえず放置してきた。


「マヨイ先輩、コレ付けるので、一緒に休んで欲しいんですけど」

「え?あ……」


 マヨイ先輩に貰った黒の月のピンズを見えるところに付ける。


「タマキくん、それ、ずるい」

「最近よく言われます」

 苦笑しつつ返すが、確かにずるい。


 でも、無理にでも休ませるのが俺の仕事。


「あー、休みたいなー」

「う……」

 ずるいと言いつつ、約束を破るマヨイ先輩ではない。


「わ、わかった。あ、でも、その汗臭いから、せめて着替えてから……」

「俺は気にしませんが、風邪をひいても困りますしね。

 ゆっくりでいいので、待ってます」

 というか、この距離でもちょっと汗の匂いわかるけど、言ったら恥ずかしがるだろうから言わない。


 ちょっとワタワタしながら、マヨイ先輩がいったんスタジオを出ていき、少し待つと、急いでシャワーを浴びて着替えた彼女が戻ってきた。


「焦らせたようですみません」

「そ、そんな、いや、その、待たせてごめんね」

「大丈夫です。はい、まずは水飲んでください」

「う、うん」


 マヨイ先輩がススっと近くに来て、ちょんと並んで座って水を受け取ってくれる。


 水を飲んでいる横顔を眺める。


 ……さっきまでのピッタリした服もう少し見ておけばよかったかも。

 そんな邪な考えがバレたのか、マヨイ先輩がこっちを向く。


「た、タマキくん?」

「なんでもないです」

 マヨイ先輩に軽蔑はされたくないので、話題を変える。


「講師の方々も心配していたらしいですよ」

「ひゃうっ、バ、バレてたんだ……」

「プロの方から見たら、やっぱりわかるんじゃないですかねぇ」

 すごいよね、大人って。


 でも。


「う、で、でも、ヒカリさんもモデルさん達も、“時間を割いてくれてる”から。

 私、運動も得意じゃないし、何をするにも人より遅いから……せめて、頑張る姿だけは、ちゃんと見せないとって……」


 ああ。

 この人らしいな、と思う。


「“頑張る姿”を見せたいのは、分かります」

「……はい」

「そして、ヒカリさん達がそれを見てるから、俺が今日来ました」

「……」

「“ちゃんと休む”も、練習のうちです」


 もにょもにょしている顔してる。

 ああ、日本語能力が欲しい……。


「例えばですけど、マヨイ先輩が、誰かに勉強を教えてるとして」

「う、うん?」

 急に変わった話題にマヨイ先輩が不思議そうに首を傾げる。

 ……さらっと流れる髪がきれいだなぁ、じゃなくて。


「その子が、“一日十時間寝ずに勉強します!”って、真っ青な顔で言ってきたら、どうします?」

「それは……止めます」

「ですよね」

「“ちゃんと休まないと倒れちゃうよ”って言います……」

「はい。今の先輩はそれです」


 マヨイ先輩の肩が、少しだけ揺れる。


「“本気でやりたい”って思ってる人ほど、“ちゃんと休む”のが下手です」

「……」

「だから、そういう人たちには、“休んでいいですよ”って言ってあげる役の人も必要なんですよ」


 自分でも、ちょっと説教臭いかなと思いつつ、続ける。


「で、それを頼まれたのが、今日の俺です」

「……」


「マヨイ先輩、七夕に【毎日ちょっとずつでも上手に歩けますように】って書いてましたよね」

「えっ?お、おぼえてたの?」

「はい、当然です。だから、“毎日ちょっとずつ”歩きましょう」


「……タマキくん」

「はい」

「“また、見にきて”って言ったら、来てくれますか」

「もちろん、いつでも」


 迷わず答える。


「じゃあ…今日は帰る」

「また無理しすぎていたら、言われなくても来るので、そうならないようにしてくださいね」

「……それは、ちょっとだけ、恥ずかしいけど」


 そう言って、少しだけ笑う。


「“ちゃんと見ててほしい”って言ったの、わたしたちなので」

「ですね」


 改めて言語化されると、こっちがむず痒くなる。


「――がんばり、すぎないように、がんばる」


 その日本語はどうなんだと思いながら、

 それでも、ちゃんと前に進もうとしている横顔は、とても強く見えた。


 その後、軽くストレッチを手伝って、荷物をまとめるのを待つ。


「このあと、俺ん家来ますか?多分ご飯ありますけど」

「え、う、うーん。どうしよう。じゃ、じゃあ行こうかな」

「わかりました。マシロ先輩も呼びましょう」


 そう言いつつ、スマホを取り出すと、マシロ先輩から連絡が来ていた。

≪マシロ:タマキくん家で、ナツキちゃんのご飯食べてるね!お姉ちゃんと一緒にタマキくん家に帰ってきてね!!≫


 苦笑しながら、その画面をマヨイ先輩に見せる。


「も、もう!マシロったら……」

 慌てて自分のスマホを取り出そうとしている。

 本当に仲いいなぁ、この二人。


 きっと、先輩たちはとても遠くまで歩いていくんだろうなぁ。





③ ついに追い出された男と、鍵を渡す猫


「ごちそうさまでした。今日も美味しかったです」


 テーブルの上には、中華なべの余韻。

 キッチンからは、まだ微かにごま油の香りがしている。


「今日の青椒肉絲は私」

 エプロンを外しながら、ナツキがさらっと言う。


「チャーハンは私」

 食器を重ねながら、アキハが続ける。


「私は食べる担当でした」

「重要な役割です」

「そうです、食べる人がいないと料理が可哀想です」

 フユミが真顔で言うので、そんな気がしてくる。


「よし、フユミ。一緒に茶碗洗おう」

「にゃふ、役割分担完璧です」


 食器をシンクに運んでいる間に、ナツキが鍋を覗き込む。


「残った分は誰かの明日の昼ご飯ねー」

「俺、明日の昼は家にいるので、ありがたく」

「じゃ、タッパー詰めとく」


 そんな会話をしていた、その時。


 ――ピンポーン。


 インターホンが鳴る。


「……この時間だと、誰だ?」


 時計を見ると、21時前。

 ご飯を食べ終わって、ちょうどまったりし始めたくらいだ。


「当たり前のように誰かが来るこの家、なんなのかしらね?」

 ナツキが、タッパーの蓋を閉めながら呟く。


「あんたが一番来てるでしょうが」

「私は例外だゾ♡」

「にゃふ、飢えたカズネちゃんあたりと予想するです」


 ある意味、いつもどおりのメンバーを放置して、エプロンを外して、玄関へ向かう。


「はーい」


 扉を開けると――


「やっほー」


 そこには、仕事帰りっぽい格好のヒカリさんが立っていた。

 いつものきっちりメイクは少し落ちているけど、それが逆に大人っぽい。


「ヒカリさんじゃないですか」

「学校との打合せが長引いちゃってさー」

 片手には、紙袋。

 多分、資料かなんかだ。


「ご飯、あったりしない?」

「ストレートに来ましたね」

「なんか、いい匂いするんだもん」

「飢えたカズネかと思ってました」

「あら、飢えたOGです」

 いい大人が飢えないでほしい。


「あ、ヒカリさん」

「あー!ナツキちゃん!」

 ひょこっと顔を出したナツキに、ぱっと表情が明るくなる。


「こんばんは、ヒカリさん」

「アキハちゃんも!!」

 アキハも顔を出す。


「やったー!いい匂いがすると思ったら、ナツキちゃんのご飯?」

「今日の晩ご飯は青椒肉絲とチャーハンです」

「食べてもいい? いっつもタマキくん、アキハちゃんとナツキちゃんのご飯の自慢するのよー」

「ヒカリさん、ちょっと」


 余計なこと言いましたね、この人。


 案の定、二人が同時にこちらを向く。


「「ふーーーーーーーーーん?」」


 ハモった。


「ま、まあ、とりあえず上がってください」

 詰問を避けるため、ヒカリさんをリビングに誘導する。


 そこへ、タッパーを抱えたフユミが、トコトコと近づいてくる。

「ヒカリさん、お腹すいてるですか?」

「お腹すいてたのよー。打ち合わせ長引いちゃってさ。

 “そういえば、タマキくん家行ったら美味しい晩ご飯ありそうじゃない?”って思って」

「ノーアポで来るあたりが流石です」


「それにね」

 ヒカリさんが、悪戯っぽく笑う。

 嫌な予感。


「食べさせてくれるなら、三人が知らないタマキくんの様子話してあげる」


「どうぞ食べてください」

「タマキいない方がいいわね」

 ナツキとアキハが、ほぼ同時に答えた。

 判断が早い。


「そうね。邪魔ね?」

「どこに捨てようかしら?」

「にゃふ、タマキさん、これあげます」

 フユミが、小さな銀色を差し出してきた。


「これは?」

「私の部屋の鍵です。これから女子会なので、あっちで寝ていいですよ」

「ついに部屋を追い出された」

 なんだこのスムーズな追放手続き。


「にゃふ、たまには“タマキさんがいないタマキ部屋”も楽しいのです」

「じゃ、せっかくだし、タマキはフユミの部屋でゆっくりしてて」

「後日、女子会決定事項だけ共有してあげる」

「怖いんですがその報告」


 ヒカリさんがクスクス笑っている。

 犯人、あなたなんですけど?


 そんな感じで、めでたく、タマキ宅は臨時女子会会場となった。


 俺は俺で、フユミの部屋の鍵を借りて、最低限の荷物を持って外に出る。


「……まぁ、みんなが楽しそうなら、それでいいか」


 そんなことを考えながら、三分離れたアパートに避難することにした。

 ……でも、フユミ。俺を信用しすぎ。


 何のゲームしようかな。

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