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最北大学学生事務局  作者: 萩原詩荻


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第78話 函館日帰り弾丸ツアー【後編】

202X年、夏休み中盤 昼


 ラッキーピエロを出る頃には、全員の腹は完全に満たされていた。


「動けない……」「まだ午前中だぞ」「今日は“食べる遠足”ですか……?」

「朝から“海鮮+バーガー”はちょっとハードでしたねぇ……」


 が、しかし。

 お腹が膨れたら、次は観光タイム。


「さて、ここからは自由行動ー!行きたいところごとに別れるぞー」

「一人にはならないようにねー、大体で別れるのよー」

 リン先輩が両手を叩き、カオル先輩がまとめに入る。


「赤レンガ行きたい!」「教会も見たいです~」「坂道の写真撮りたいです!!」「ケーキ食べたい」「五稜郭も行きたい」「ソフトクリーム…」「まだ食べるの!?」「函館山は?」「夜までいるならアリだけど、今回は日帰りだからねー」


 俺はどうしようかなぁと思っていると、

 わいわいしている中で、アキハとナツキが会話しているのが耳に入る。


「ナツキはどこ行くの?」

「んー、私は赤レンガ組かなー。アキハは?」

「そうねぇ」


 そこで、アキハが、ふとこちらを見た。


 なんでしょう?

 

「――タマキ」

「ん?」

「あんた運転手として、こっちね」

「え?」


「あとは……そうね、フユミ、おいで」

「にゃふ? どこ行く組ですか?」

「ちょっと離れたところに、美味しいソフトクリーム食べに行く組」

「ソフトクリーム!!行きます!」

 フユミの目が、一瞬で輝いた。


 あれよあれよという間に、グループが分かれていく。


「じゃ、一号車はタマキ運転で――タマキ、フユミ、私。三人で行くわよ」

「え、三人?」

「うん、三人」

 アキハは、それ以上何も説明しない。


「ずるーい!アキハがタマキ独占してるぅ」

 ナツキが、頬を膨らませてこっちを見る。


「ナツキは赤レンガでしょ」

「そうだけどぉ」


「ソフトクリーム!!」「それもいいですね~」「赤レンガ組も美味しいジェラートあるからね!」「五稜郭も行きたい人こっち!」「教会組には美味しいクレープ屋があるよ!!」


 ざわざわしているメンバーを、無事に積み上がったハンバーガーを食べきったリン先輩が仕切る。

 あの人、なんでアレ余裕なんだ?


「おら、サッサと別れろー。ざっくり五稜郭、赤レンガ、教会方面、ソフトクリームだー」

「じゃ、17時に駅前の駐車場で合流ねー!」

「はーい」「わかりました~!」

 手を振り合って、各陣営がそれぞれ動き出した。


「ほら、タマキ行くわよ」

「はいはい、運転手です」

「タマキさん、ソフトクリーム奢ってください」

「なんでだよ」


 17時集合なら、ソフトクリーム+もう一か所くらい行けそうだなー。



「――ほんとにこの道か?」


 市街地と温泉街を抜けて、少し郊外へ。

 ナビに従って車を走らせると、緑の多いエリアに出た。


「にゃふ……ソフトクリームの匂いがします……」

「どんな匂いだ」

 フユミは、後部座席から前のシートに身を乗り出しそうな勢いで外を眺めている。


 やがて、牛さんのイラストが描かれた看板が現れた。

 牧場併設の、ソフトクリーム屋さんらしい。


「ここかぁ……」

「空気がおいしいです……」

「この“観光地からちょっと外れたところ”の感じ、いいよねぇ」

 アキハが、ご機嫌で窓の外を眺めている。


 車を停めると、すでに何組か観光客が並んでいた。


「よし、じゃあ――」


 アキハが、車のトランクから、何やらクーラーバッグを取り出す。


「……それは?」

「朝市で買ってきたやつ」


 にやり、と笑う。


「はい、これ持ち帰りの超大盛海鮮丼。あんたは座って海鮮丼食べてなさい」


「……は?」


 クーラーバッグの中には、保冷剤と一緒に、蓋付きの丼が入っていた。

 透明な蓋越しにも分かるくらい、いくらと刺身がぎっしり乗っている。


「フユミがね、『タマキさん、なにかちょっとだけ諦めた顔してました』って言うから、『ナツキが海鮮の匂いにやられたっぽいから、多分朝市諦めたんじゃない?』って」

「え?俺そんな顔してた?」

「にゃふ?ほんのちょっと?」

「ぇぇ……」

 そんなつもりはなかったんだが。

 食べたい気持ちがあったのは事実だけど。


「“海鮮丼くらい、また今度食べればいいじゃん”って言うのも正論だけどさ。

 今日ここまで来て、何も考えずに我慢させるのは、それはそれでなんか違うかなって」


「……」


「“ナツキがいたから食べられなかった”じゃなくて、“ちゃんと食べたし、ナツキも一人にしなかった”にしておく。そのためにちょっとだけ手間かけるくらい、別にいいでしょ」


 そんなことまで、考えてるのか。


「……アキハ」

「なによ」


「やっぱ、そういうとこ、マジ好き」

「うっさい」

 アキハに肩を小突かれる。


「……ありがとな、二人とも」


 素直にそう言うと、フユミがにゃふっと笑う。


「にゃふ、私はナツキさんがしんどそうなのは気付けなかったのです」

「それは……一年生は、そもそもナツキが海産物苦手なの知らなかっただろ」

「でも、タマキさんが気付いてナツキさんを助けました。だったら、そのタマキさんを助ける誰かが居てもいいんじゃないかと思ったんです」

「それだと、今度はフユミが……」

「はい、なので、その時はきっと、タマキさんか誰かが私を助けてくれます。助ける側が助けられる側になっちゃいけないなんてルール無いのです」


 その言葉に、アキハが「はい拍手」と言って、ぱちぱちと手を叩いた。


「――ほらね。こういうとこ、フユミの良いところだから、大事にしなさいよ、タマキ」

「知ってるよ、フユミは良いところだらけだ」

「“あんたが楽しそうにしてる夏休み”が見たい人がいるってちゃんと認識しなさいって話」

「……ずるいよ、それ」

「どの口が言うのよ」

「にゃふぅ、だったらソフトクリーム奢ってください」

「わかったよ」

 三人とも笑顔になる。


 ぁぁ、本当に。

 本当に、皆に助けられてるなぁ、俺。


「私は買ってくるから、あんたは食べてなさい」

「……いただきます」

 蓋を開けた瞬間、ひやっとした空気と一緒に、海鮮のいい匂いがふわっと広がる。


「……うまい」

 うん、ありがたい。

 普通に超美味しい。


「うん、ソフトクリームも美味しいわね」

「にゃふ……」

 戻ってきたアキハとフユミが、隣でソフトクリームを食べながら、幸せそうに目を細めている。


 ミルク感が強そうな、白いソフト。

 牧場の牛さんありがとう、って感じ。


「タマキもソフトクリーム、ちゃんと食べなさいよ」

「今、海鮮丼で口が忙しいんですけど」

「二刀流しなさい。若いでしょ」

「同い年だろうが」

 それでも、ソフトクリームも一口もらった。

 冷たくて、甘くて、さっきの海の味とはまた違う方向で、ちゃんと“夏”の味がした。


「ナツキが無理しないようにって、タマキが動いて。

 タマキが海鮮丼食べ損ねないようにって、私たちが用意して」


 アキハは、牧草地を眺めながら続ける。


「こうやって、みんなで“誰かの夏休み”を、ちょっとずつ整えてくわけ」

「……言い方、オシャレだな」


 三人で笑う。


 海風が少し強くなって、ソフトクリームの上の部分が危うく揺れた。

「にゃふ!? 待って、落ちないで……」

「ほら、早く食べろ」

「もったいないです……」

「溶けて落ちたらもったいないどころじゃなくなるだろ」


 そんなくだらないやりとりを繰り返しながら、

 俺たちは“ちょっと離れた函館”を、しばし満喫した。


「ナツキには内緒ね?」

「わかってる」

「言ったら、“なんで私も連れてってくれなかったのよ!”って面倒になるから」

「想像できる」

「にゃふ、内緒話です……」


 3人だけの、小さな秘密。


 牧場の風が、甘い匂いを運んでいく。


 海鮮丼を平らげる頃には、

 ソフトクリームも綺麗に消えていた。


 食べ終わって、少しだけ牧場を歩く。


「楽しいです……」

 広い空を見上げながら、フユミが小さく笑う。


「『眠いから行きたくないです』って言ってた奴のセリフじゃないな」

「にゃふ、それはそれ、これはこれです」


 なんとなく、その言葉に救われる。


 “眠いから行きたくない”って正直に言える関係性と、

 それでもちゃんと来て、楽しんでくれる表情。

 どっちも、好きだ。


「さ、落ち着いたら適当にどこか行くわよ。二人とも行きたいところある?」

 スマホのグループチャットを確認して、アキハが言う。


≪赤レンガ組、写真撮りまくってる≫

≪教会組、坂で足やられてる≫

≪タワー組、上から写真撮りまくり≫

≪ケーキ組、糖分補給完了≫


「みんな元気だなぁ」

「あんたは帰りの運転もあるんだから、休むなら休むのよ」

「にゃふ、ケーキ食べたいです!」

「まだ食べるの!?」

「わかった、競輪場の近くに美味しいケーキ屋があるの調べてあるから、そこ行くか」

「流石タマキさん!」

「タマキ、そういうところよ」

「いや、本当は俺が食べたくてだな……」


 再び車に乗り込み、市街地へ戻る。


「こういうのも、夏休みって感じするわね」

「だなぁ」



 17時。

 駅前の駐車場に再集合すると、みんな程よく疲れた顔で戻ってきた。


「五稜郭、すごかったです!」「タワー高かった」「展望台から写真いっぱい撮りました」「坂道しんどかったです……」「教会きれいだったね……」「お土産屋さんの雑貨も可愛かった」「赤レンガでアイス食べました~」「どれだけアイス食べてんのよ」


 それぞれの「函館」を抱えての合流だ。


「――で、晩ごはんどうする?」

 イズミが、さりげなく現実的な質問を投げる。

「ラーメン」「ラーメン」「ラーメン」「ラーメン……」


 満場一致でラーメンになった。

 今日は食べてばっかりだな。


「さすが北海道」

 コウメイ先輩が笑いながら、事前に調べておいたラーメン屋のリストを見せてくる。


「ここ、そこそこ広くて席数あるし、駐車場もある。スープうまい。チャーシュー神」

「説明が完全に食レポ」


 おすすめの店に移動して、全員でラーメンをすする。


「函館といえば塩ラーメン!」「私はバターコーン~」「まだ食べるんですか」「まだ食べるの」

「……生き返る……」「スープの塩分が身体に沁みます……」「麺が正義」「チャーシューが正義」

「にゃふ……人類はラーメンの前にひれ伏すべきです……」


 海鮮丼、バーガー、ケーキ、ソフトクリーム。

 色々食べたはずなのに、みんな普通にラーメンを頼む。


 今日一日、海鮮→ハンバーガー→ソフトクリーム→ケーキやらなんやらを経て、

 最終的にラーメンで締める。

 胃袋に対して、あまりにも酷い一日だ。


 でも、なんだかんだで、誰も文句は言わなかった。


 食後。

 外に出ると、空はすっかりオレンジから紺色へ。


 あとは札幌に戻るだけだ。


「運転組、最後の気合入れてー」

「はーい」「任せなさい」「眠い……」「眠い人は後部座席で寝てなさーい」「じゃあお言葉に甘えて……」


 行きと同じように、運転手を交代しながら、高速を北へ向かうことになるが、俺は後から寝たいので、先に運転させてもらう。

 後部座席では、すでにフユミとメグミが朝と同じようにタオルケットで丸くなっている。


 なんだかんだで、エンジンがかかる頃には、

 半分くらいのメンバーがあくびをしていた。


 車内は、行きとは違う静けさに包まれていた。

 遊び疲れと、満腹感と、少しだけ名残惜しさ。


「タマキセンパイ、タマキセンパイ!」

 そんな中、助手席で起きているカズネ。

 こういうところ、えらいよなぁ、こいつ。


「起きててえらいなぁ、カズネ」

「助手席組も交代制なので、後でナツキさんと変わります!!」

 そうだったのか。


「ところで、海鮮丼、食べれました?」

「気付いてたのか」

「アキハ先輩が持ち帰り頼んでたので、そんな感じかな?って」

「秘密な」

「勿論です!」

「カズネは楽しかったか?」

「はい、皆で函館観光最高でした!!」

「それならよかった」


 皆、優しいなぁ。

 一年生が楽しかったって言ってくれるのも嬉しいし。


 途中のサービスエリアで、運転をリン先輩に代わってもらう。


「タマキ」

「なんすか」

 リン先輩が、ニヤリとしながら言う。


「楽しかったか」

「……はい」


 少し間をおいて、素直に答える。


「なら、今年もやった甲斐があったな」

「恒例行事なんですね、これ」

「学生事務局、夏の恒例弾丸よ」

「来年は……どうなってますかね」

「さぁな。俺いねぇし」


 そんな雑な感想が、妙にしっくりきた。


 大人になったら、全員一緒に動くのは、難しくなるんだろう。

 だからこそ、今のこの“全員、何となくまとまってる感じ”が嬉しい。



 そんなこんなで、何度かパーキングで休憩と運転交代を挟みながら、

 部室に戻ってきたのは、ぎりぎりその日のうちだった。


「つ、着いたーーー」「文明だ……」「床だ……」「にゃふ……」


 部室の鍵が開くと同時に、

 誰かが床に大の字になり、

 誰かがソファに沈み、そのまま動かなくなる。


「運転組は本当にありがとうね」

「ほんとありがと!」「ありがとうです~」「にゃふ……尊敬です……」「う、運転してくれて、ありがとうございます」


 カオル先輩が、ぐったりしながらも苦笑する。

「もうちょっと運転手増えると楽にはなるんだけどねー」


 コウメイ先輩が肩をすくめる。


「荷物はとりあえず部室に放り込んで、各自寝ろー。

 今日は“泊まり組”多そうだから、タマキ部屋は……まあ、シャワーや風呂のために開放してくれー」

「イズミ部屋も同じ建物なんですが」

「そういえばそうだったな」

 しかもイズミ部屋の方が広い。


「まあいい、各自ちゃんと休めよー。俺はこのまま部室で寝る」

「私も今夜はタマキ部屋で寝るわ……」

 リン先輩やカオル先輩も、流石に体力ぎりぎりのようだが、しっかり仕切るのは流石だ。


「よし、お疲れ!解散!!」

「おつかれさまでしたー」


 ぱらぱらと拍手と、小さな歓声。

 朝とはまた、違った気持ちが込められた拍手な気がした。


 結局数人は、今夜も俺の部屋で寝るらしい。

 マシロ先輩とマヨイ先輩は、大きいベッドで寝るためにタクシーで自室に帰った。

 イズミ本人は部室で既に寝ていたが、シンジはイズミ宅で寝るらしい。


「お前ら、家ないのか」

「にゃふ……タマキさん家が、近いのが悪いのです……」

「フユミ、3分しか変わらんだろ」

「家までおんぶしてください~」

「メグミ、泊まってもいいから頑張れ」

「ハーレムルートですから!」

「カズネ帰れ」

「ひどい!!」


 結局、俺の部屋につくなり、皆さっさと着替えて、布団とベッドに沈んでいく。

「沈殿ゾーンいただきます~」

「ベッドいただきます……」

「ソファもらう」


 今日くらいは、ナツキとアキハもあまりうるさいことを言わない。


「……タマキ」

「ん」

 うとうとしていると、半分寝ながらのナツキの声が隣から聞こえた。


「朝、ありがと」

「何の話かわからん」

「一人にしないでくれたから」

「……俺が行かなかったら、アキハか誰かが行ったさ」


 ソファの方から「余計な事言うんじゃねーよ」というプレッシャーを感じるが気のせいだろう。


「それでも、来てくれたのはタマキだから、私はタマキにお礼を言うの」

「…ナツキは周りに気を使いすぎだ。もう少し我儘でもいい」

「そう?タマキや、聞き耳立てている二人ほどじゃないわよ」


「すやぁ」

「……」


 カズネ、寝たふりするならアキハを見習いなさい。

 この空気が面白くて、少し笑ってしまう。


「まあさ、全員が全部楽しめる必要はなくて。

 終わった後に、総じて楽しかったね、って皆が笑っていられたら、それでいいんじゃないか」

「……そうだね。タマキは楽しかった?」

「もちろん。皆は?」

「楽しかったよ」

「私も楽しかったわよ」

「当然ね」

「楽しかったですよ!」

「にゃふ」

「楽しかったです~」


 全員起きてんのかい。


「また、皆で行こうね」

「今度は泊まりで頼む」


 皆となら、どこに行ってもきっと楽しい。


 函館日帰り弾丸ツアー、今年も無事終了。

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