表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最北大学学生事務局  作者: 萩原詩荻


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

48/166

第46話 夏祭り休憩室と、男子限定・不毛会議

202X年、7月中旬 夕方


 人が減った部室は、変に広く感じる。

 今日は学内の夏祭り。比較的小規模なイベントだが、俺とコウメイ先輩以外は全員出払っていた。

 外からいい匂いがする。

 ……どうして祭りってこんなにいい匂いするんだろうなぁ。


「コウメイ先輩、レイコちゃんと行かないんですか?」

「馬鹿者、学内のイベントに二人で参加したら全員にバレるだろうが」

「あーあ、レイコちゃん怒りそー」

「…もう怒られた」

「草生える」

 眼鏡の奥が、いつもより一ミリだけ柔らかい。怒られた直後の顔である。


「お前はいいのか?」

「俺は彼女いませんし」

「それは知っている」

 ひでぇ。


「メグミ達が頑張った“縁の交差点”、今回の夏祭り期間で試行させたので、期間中は“非常時対応で補助1名常駐”って提出しました」

「…馬鹿者」

「あと、例のショーの諸々、早めに用意しておきたくて。夏休みはちゃんと休みたいので」

「ふむ。まあ、夏休み前に素案が学校側通せたら正直かなり楽になるな」

「でしょ?正直マニュアル整備して、俺無しでも回るように――」


 バン!


「おら、社畜共、屋台飯のウーバーじゃ、敬え」

 シンジが両手いっぱいにビニール袋を抱えて登場。

「おらぁ!食え!」

 その後ろにはイズミが続く。

「……お前ら、こういうときだけ仲いいよな」

「活気は正義だ、タマキ!」

 シンジがドンと机にパックを並べる。

 ソースの匂いが、部室いっぱいに広がった。


 紙皿を並べながら、シンジが言う。

「で、何やってたん?」

「俺は、学校祭向け準備しつつ待機」

「三か月先だろが!」

「俺だって学祭回りてーんだよ、だから早め早めにな」

「それで夏祭り回れなかったら本末転倒っつーんだぞ?」

 イズミまで突っ込んでくる。


「まあ、本末転倒には一理あるが、夏休みを全力で休みたいしな」

「バッカでー。じゃあ、もし夏休み前に学校側の決裁下りるマニュアル用意出来たら、僕とイズミで学校祭期間中お前の仕事全部代わってやるよ」

「あ、シンジ、バカ、おま!」

「…言ったな?守れよ?」

 イズミが止めようとしたが、もう遅い。

 言質は取った。


「コウメイ先輩聞きましたね?」

「ああ、聞いた。今グループLINEにも流した。最悪の場合リン先輩に取り立てさせる」

 証人も取った。


「シンジ、おま!バカ!!」

「なんだよ、イズミ。いくらなんでも夏休み前なんて無理だって」

「こういう時のタマキはヤルんだよ!」

「だって、ヒカリさんの部屋の掃除に、一年生の面倒と、マシロ先輩とマヨイ先輩の件のフォローやらまで抱えつつ、間に合うわけねぇだろ」

「こいつにはナツキが付いてるんだぞ!」

「…あ」

 なんだ、その会話。

 まあ、いい。


 あー、たこ焼きうめー。

 なんで屋台のたこ焼きってこんなうめーんだろ。



「しかし、珍しいな。男子だけって」

 コウメイ先輩がふと思いついたように言う。

 

 たしかに。


「じゃあ、いくか」

 シンジがギアを上げた気配。


「胸派?脚派?」

 イズミがスタートをかける。

 というかそこは尻じゃねぇんかい。


「胸」

 即答しておく。

「知ってた」「去年聞いた」「あれは笑った」

 まあな。


「俺は声」

 コウメイ先輩、選択肢外から選ばないでください。

「わかります、いいっすよね、声」

「お、タマキが賛同してる」

「声はわかるなー、フユミの声良くね?」

「俺はカオル先輩の声好き」

「甘いな、カズネの声も良い」

「ふふふ、ナツキの夜中の声もイイぞ」

「言い方が無駄にエロいぞ、タマキ」

「いい声はズルい。内容が半分でも、説得力は二倍になる。」

 

 そこからは、もう完全にバカ話大会。

 

「次、性癖暴露タイム」

「やめろ!」

「いや、今しかない。女子ゼロだぞ?」


 シンジが身を乗り出す。

「俺、うなじ。あと浴衣のえり。あとポニテ。あと指先のインク汚れ――」

「多い」

「節約して一個にしろ」

「じゃ、うなじ。髪上げる時の、うなじ。夏限定の神」

「神は季節限定で顕現するのか…」

「する」


「俺は“眼鏡のずれ直し”だな」

 コウメイ先輩が即答する。

「何が良いって?」

「“焦点”が返ってくる瞬間、目がふっと生き返る。それが良い」

「理屈っぽすぎて逆に説得力があるのが腹立つ」


「イズミは?」

「……手首。細い時計。文字盤ちいさめ」

「繊細~」

「あと、カーデの袖が指の第二関節くらいまで落ちてるやつ」

「わかる」「わかる」「わかる」

 男達の“わかる”がハモる瞬間、世界は平和だ。


「じゃ、タマキ」

「……匂い。風呂上りとかにふわっと来るのヤバい」

「普通、合宿とかでしかタイミングねぇからな?」

「タマキん家、3月とか女子寮だったもんな」

 即合いの手が入る。うるさい。


「男子オンリー会議の恒例、“最近可愛いと思った人”」

「恒例にするな」

「ギャップ萌え枠求む」

「メグミ」

「同意」

「理由?」

「あの脱力系で実はめっちゃ周りに配慮してる。あと、アイス落とした時だけ本気で泣く」

「可愛いな」

「そういうとこ」


「お前ら、趣味嗜好が細かいんだよ」

「じゃあイズミは?」

「俺? ……フユミ。最近、仮面外れてめんどくさがりの猫が見えてるの良き」

「言い方が変態」

「職業病」

「あれはタマキの飼い猫だろう」

「違いますよ!?」


「おら、文句ばっか言ってねぇでシンジも答えろ」

「僕はなんだかんだナツキ最強だと思ってるぞ」

「間違いない」

「純粋にスペック最強」

「モテるのもわかる」


「コウメイ先輩は?」

「アキハ。あいつの作る空気は他に代えがたい」

「わかる」

「隣にいるという能力が高すぎる」

「俺いつも怒られるんだけど」

「それはタマキが悪い」


「タマキ、ヒカリさんは?」

「人類の到達点」

「女神とかボスとか、そっち」

「宗教かな?」

「悟りの話するのやめてください」


「議題『浴衣は正義かどうか』」

「正義」「正義」「正義」「正義」

 即答。

「異論ゼロにより可決」

「よし、次の小議題『浴衣に合わせて最強だと思う髪型』」

「お団子一択」

「編み込み」

「ハーフアップ」

「ポニテ……いや、結ばず耳かけ。うなじの反則感が跳ね上がる」

「総じて“首回り”ってことだな」

「結論:首は強い」

「何の論文だよ」


「追加議題。『もし明日から一日だけ女子になれるなら何をするか』」

「なんでそんな議題」

「男子だけの時にしかできないアホトークだからだ」


「浴衣着てあの屋台群を練り歩く」

「お前似合うのか」

「似合わなくても楽しい」

「俺は“前髪をくるっと整えてから出かける”という所作をやってみたい」

「細かい」

「俺は“化粧品の棚で迷ってみたい”。あれ楽しいのかな」

「楽しいに決まってるだろ」

「俺は……“女子トイレの構造を学術的に知りたい”」

「それはやめとけ学会で爆発する」


「最終戦争。ポテチの味」

「コンソメパンチ」

「のりしお」

「うすしお」

「バター醤油」

「イズミ、限定味選ぶんじゃねぇよ」「戦争だな」


 フランクフルトを齧りながら、全員がどこかで笑っていた。

 たまには、こんな時間も悪くない。


 焼きそばの容器が空になる。

 ソースの跡、紅ショウガの赤。俺は紙袋からコーンを取り出し、半分に割って配る。

 かじる音が部室に揃う。


「交差点の様子、どうだ?」

 コウメイ先輩が腕時計を見て、俺のノートPCに顎をしゃくる。

「監視カメラ代わりの写真、メグミが送ってくれてます」

 画面に並ぶサムネイル。

 ベンチ、日陰、写真スポット、ハンモック。

 人は立ち止まり、冷たいお茶を飲み、写真を撮り、少しだけお喋りをしている。


「…悪くない」

「イイって言ってあげてくださいよ」

「それはお前の仕事だ」

「そうだな」「もっと褒めてやれ」

 俺、そんなに褒めてないかなぁ。


「で、タマキ」

 シンジがストローを噛みつつ、こっちを見る。


「ん」

「いい加減少し休め」

「……今こうやってお前らと遊んで食べてるじゃん」

「物理的に、だよ。お前、ここ一週間、食べながら図面に赤入れてるか、誰かの進捗背負ってるかの二択だろ」

「昨日は寝た」

「ソファで四十五分は“寝た”に入らん」

「なんで知ってんだよ」

「ナツキに聞いた」

 コウメイ先輩とイズミまでこっち見んな。

「タマキ、全部抱えるのは、無能のやることだ」

「はい……」


 シンジが屋台飯の残骸を片付けながら言った。

「……なんか、さ」

「ん?」

「僕ら、真面目すぎるんじゃね?」

「何が」

「他のサークルとか遊び行ってるのに、祭りの日も“待機”して書類やってんだぜ?」

「まあ、確かに」

 笑いが混じる。


「でもな」

 コウメイ先輩が腕を組んで言った。

「お前らが真面目にやってるおかげで、誰かが安心してバカやれてる。そういうもんだ」

「……名言」

「ちょっと感動した」

「いや、俺今いいこと言ったのに、お前らなんで笑ってんの」

「たぶん、焼きそばのソースが感動を邪魔してる」


 部室の中は、片付けた弁当の香りと、笑いの余韻だけ。


 男子だけの不毛会議。

 そんなものも、悪くない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ