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最北大学学生事務局  作者: 萩原詩荻


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第40話 毎月恒例!誕生会!!

202X年、7月1日 夜


 七月一日。毎月恒例の、事務局メンバーの誕生日を祝う会。

 いつもの、と呼べる居酒屋で皆でわいわいと騒ぐ日。

 今月の該当者は一年2人、二年2人、三年以上はゼロ!


「誕生日って口実、便利~!」

「酒が飲めるぞ~!!」

 ハイテンション組のテンションが高い。

 まあ、今日ばかりは俺も合わせてテンションを上げて飲むけど。


 マシロ先輩は唐揚げにレモンをかける派として

「一応聞くね、かけるね!」「問答無用!」で笑いを起こしている。


 乾杯のあと、各テーブルで誕生月の人間にプレゼントが渡される光景。

 小さな文具、ハンドクリーム、本、キーホルダー。

 大学生の身の丈にあった、でも“あなたを見ていた”プレゼント達。

 5月にシンジが手鏡五つも貰ってたのは流石に笑った。


「アキハ」

「ん?」

「誕生日おめでとう、これプレゼント」

 忘れないうちにさっさと渡す。

 正直照れるので早く渡したいのもある。


「……どうか身に着けるものではありませんように」

「思ってても言わない方がいいことってあると思うんだ」

「だって、タマキのセンスじゃねぇ」

「アキハがかわいそう」

「身の程を知れ」

 アキハが開けながら祈っている言葉に二年生ズから総同意が入る。

 

 お前ら、俺のことなんだと思ってるんだ。

 アキハが開けた箱の中には、黒を基調にしたcocoonの万年筆。


 彼女の指先が、そっとケースを撫でる。

「これ……」

「部室で使ってもいいし、部屋で使ってくれてもいい。アキハの字、綺麗だからな」

「……やだ、照れるんだけど」


 言いつつも、表情がふわっとほどける。

 普段綺麗なくせに、こういう時可愛いのズルいよな、アキハは。


「高かったでしょ」

「予算ギリ。だからインクは自分で買って」

「うわ、だっさ」

「センスあると思ったのに、オチがひどい」

「甲斐性が足りてない」

 素直に予算が…と答えると、上級生達から総突っ込みが入る。

 俺の立場っていったいどこに…

 

「じゃあ、そんなタマキセンパイにもプレゼントあげます!!」

 そんな、ってなんだよと思いつつ、カズネ達のプレゼントをありがたく受け取る。


「まずは私から。手作りクッキーです!今日作った力作です!!」

 カズネの先陣。

「うっま。あ、これ好き。レビューは☆5で」

「最高評価ありがとうございます!」

 いや、普通においしい。やるな、カズネ。

 でも、俺の誕生日が今月なのは知ってても今日なのは知らんかったろ、お前。


 メグミからは小さな封筒。

「可愛い栞とおすすめのピンズと、ちょっとしたメッセージカードです~。読み終わったら燃やしてもいいです~」

「燃やさないよ、ありがとう、大切にする」

 栞なくさないように気を付けよう。


 フユミは小さな紙を一枚。

 おい、コレ。

「……『好きなゲーム一本買ってあげる券』です」

「ドヤ顔やめれ」

「一番タマキさんが欲しいものじゃないですか」

 それはそうだけど。


「はいはい、次は私~!」

 マシロ先輩は、ハンカチ。

「ショーの時、泣いてカズネちゃんにハンカチ借りたって聞いたから!」

「ありがとうございます、でも泣いてません」

「ちょっといいやつだから、そのまま胸に挿しても映えるよ!」

 え?そんないいやつなの、コレ?


 シンジとイズミとコウメイ先輩からは、連名でちょっといいワイン。

「おー!コレFFコラボの限定のやつじゃん!ありがとう!!」

「高かったんだぞ!」

「流石に買ってないって話してたしな」

「ここで開けてみんなで飲もうぜ!」

 割と素で嬉しい。

 飲み終わったら飾っておこう。


アキハからは黒いジーンズ。

「いい?これを履くのよ?クローゼット2段目のジーパンは次回行ったら捨てるから」

「だめ?アレ」

「絶対ダメ!あとこれ予算余裕でオーバーしてるから後で徴収するから」

ぐすん。英語いっぱい書いててカッコイイのに。


 カオル先輩は咳払いをして、小さな袋。

 中には、シンプルなネクタイピン。

「……いいんですか、こんなちゃんとしたやつ」

「こないだのショーしかり、ちゃんとした格好する場も増えるでしょ。

 今年は外部折衝メインでやらせるからね」

「ぐええ」

「どこにつけるか分かんないとか言ったら怒るからね」

「流石にそれはわかります」

 ……念のため後でアキハに聞こう。


 そんな感じで、わいわいと皆の善意を受け取る。

 素直にうれしい。


 そんな中、

「た、タマキくん。ちょっといい?」

 マヨイ先輩が袖をくいっと引いて来たので、素直に廊下についていく。


「あ、あのね。これ。誕生日おめでとう」

「ありがとうございます、開けてもいいですか?」

「あの、その、開けてもいいけど、見たら閉めて持って帰ってほしいかな」

 なんだろう?と思いつつ開けると、小さな黒猫のぬいぐるみ。

 ………あ、手縫いだ、これ。


「手作りのぬいぐるみ、ですか」

「お、重たいかな?えと、その…」

「いえ、すごくうれしいです。大切にしますね。部屋の一番大切な棚に飾ります」

「よ、よかった…」

「本当にありがとうございます、うれしいです」

 マヨイ先輩が目に見えてホッとした表情に変わる。

 照れたような優しい笑顔だ。

 思わず抱きしめたくなるほど可愛い。


 席に戻り、ぬいぐるみ入りの小箱をこっそり鞄にしまっていると、

「ナツキ先輩はタマキ先輩にプレゼントあげないんですか~?」

「私がいること自体がプレゼントでしょ♡」

「わー!強いです!!」

 メグミとカズネがナツキに絡んでいる。

 だから聞こえないところでやれって。



 わいわいと飲み会が終わり、それぞれが夜の街へ散っていく。

 流石に今日は二次会以降も参加しようかなと思っていたのだが、背中に刺さるナツキの視線が痛いので、素直に帰る。

 ……プレゼント無しって言ってたくせに。


 玄関が開く音、鍵はいつもどおり下駄箱の上へ。

「ただいま」「おかえり」


 家に着くと、いつものように靴を並べて、

 いつものようにキッチンに立つ……のかと思いきや。


「はい、タマキ。ソファ座って」

「はい」


 胸元を押され、ソファへ誘導される。

 自分の部屋なのに、主導権が完全に向こうにあるのはいつものことだ。


 ソファに座ると、ナツキが隣に座って何かを差し出してくる。


「はい、どうぞ」

 包みは薄いグレーの紙。リボンは黒。

 中身は小箱がひとつ。


「開けても?」

「開けずに当てられるなら当ててもいいゾ♡」

「…アクセサリー系」

「はよ開けろ」

 これ以上はわからないので、素直に開ける。

 多分、アクセサリー系なのは間違いない。


 小箱の中には、黒地に金の柄が入ったカフスボタン。

 落ち着いた色合いで邪魔にならないデザイン。


「この色合い……」

「誰がタマキの服洗濯してたと思ってんの。

 最近大事にしてるタグと同じ色合いにしておいたから、バーで使いなさい」

「ナツキ」

「なあに?♡」

 笑顔で俺の言葉を待っている。

 この女、本当にずるい。


「ありがとう」

「どういたしまして。あと、今日もベッドで一緒に寝ていいゾ♡」

「それプレゼント?」

「あったり前でしょ?」

「狭いんだよなぁ」

「タマキが無駄にでかいからでしょ」

 まあ、それはそうか。



 七月七日。

 テスト前独特の空気がキャンパスを包み始める頃。

 講義終わりにアキハを捕まえる。


「アキハ」

「ん?さっきのミクロ経済学のレポート締切は来週金曜って言ってたわよ」

「それはそれとして、ハイ、これ」

「…今度は何やらかしたの?」

「やらかしてねぇよ!?誕生日おめでとう、プレゼント」

「……先週万年筆くれたのは別人?」

「同一人物です。でも誕生日今日じゃん」

「タマキ、あんたバカね」

 ひどい。


 そんなことを言いつつ、彼女は渡した紙袋に手を入れる。

 紙袋の中から出てきたのは、手のひらサイズの白い陶器の鉢。

 中には、細い蔓を伸ばし始めた小さな観葉植物。葉っぱは柔らかい緑だ。


「……なに、これ」

「名前は忘れた」

「忘れないでよ」

「アキハの自室の環境知らんから『室内で育つ』と『あんまり手がかからない』って前提で店員さんに相談した」

「つまり?」

「俺ん家に泊まるような忙しい日が連続して、実家に帰る隙が無くても枯れない」

 アキハが「うーわ」という顔で笑う。

 言いながら、我ながら言い訳じみてるなと思う。

 でも、アキハはナツキやメグと同じく、自宅から通学してて、遠いから家を皆知らないんだよねー。


「じゃあ今日泊まろうかな」

「お好きにどうぞ」

「冗談、コレ部屋に置きたいし、晩御飯から揚げだってお母さん言ってたから帰る」

「から揚げ食べたい…」

「ナツキにお願いしなさい」

「油ものは片付けがめんどくさくてな……」

「今度ドーナツ作ってあげるわよ」

「ホント?アキハのお菓子ホント好き」

 アキハはお菓子作りがホンットに美味いのだ。

 時折我が家の冷蔵庫に放り込んでくれるのを、ありがたく食べている。


「今度、私の家に招待してあげる」

「……ご両親がいない時で頼む」

「あら、私のお母さんのご飯、美味しいわよ」

「ぐぬぬ」

 アキハの家か。

 行ってみたいし、食べたいけど、ご両親に会うのは流石に腰が引ける…



 その夜。

 アキハの自室。


 部屋の隅、窓際の小さな棚の上に、新入りが二つ。

 さっきもらった植物が、そこに置かれており、

 その横には、先週から仲間入りした万年筆も立っている。


「……ふふ」


 植木鉢の縁を指でなぞり、葉っぱをそっと揺らす。


「七月って、忙しくてうるさくて嫌いなんだけどなぁ」


 窓の外には、まだ明るさを残した夏の空。

 部屋の中には、いつものお菓子の匂いと、ほんの少しの土の匂い。


「タマキのバーカ」


 今目の前にあるのは、小さな緑と、一本のペン。

 問題は、母も妹もこの部屋には入ることだ。

 嫌だって言ってるんだけどなー。


「ごはんよ~」

「はーい」


 …見られたら家族にはどう誤魔化そうかな。

 そんなことを考えながら彼女はリビングに向かった。


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