43話 マーレ邸の生活2
マーレ大叔母様に便器の使い方を教えたところ、大変喜んでいた。
歳を取ると、屈むのも大変だそうだ。
本命の湯浴み場だ。
「マーレ大叔母様、さあ、一緒に入りましょう?」
マリアはウキウキである。石鹸はまだ無いが反応が楽しみである。
マーレの手を取り軽く引っ張っていく。
「お湯は掛け流しなのです。嗜好を凝らしたので、気に入ってもらえると嬉しいです。」
「まあまあ、マリアちゃんはお母様ににて、凝り性なんですね。」
え? お母様も凝り性だったの? 色々後で、聞いてみよう。
「他にも不便な事あったら言ってくださいね。」
「ええ、ゆっくり行きましょう、マリアちゃん。」
「ごめんなさい。」
部屋で湯浴み衣に着替え、浴場に向かう。
小屋を置く予定なので、少しだけ離れている。
「こっちです! あの薄明かりがそうです!」
ドアを開け、少し離れた所にランタンが点々と灯っている。灯りはランタンだが、火はトーチの魔法である。
「あら?ランタン?綺麗ね。」
「石鹸があれば、ここで体を洗うんだけど、今は無いから湯浴みだけね。」
「丸見えは嫌だから、囲う予定よ。」
マリアは応急処置として、周りから侵入できないようにプロテクション・フィールド、見えないようにミラージュを掛けている。
フィールドは柵のように周りだけにしているとので、星は見える。
当然、魔道具化している。
「凄いわ。王族にでもなったみたいね。」
喜んで貰えて嬉しい。
マーレと共に星を見ながら湯船に浸かって、生まれてからの話で盛り上がっている。
「私だって友達いるもん! 家にだって遊びに行くよ。」
「それは良いわね。」
「でも、図書館に居る方が長いかも……。」
「勉強も大切だけど、友達と過ごす事の方が大切ですよ。大人になった時に後悔しちゃうわ、私みたいにね。 ふふふ。」
「あの、マーレ大叔母様?」
「叔母さんでも、おばあちゃんでも呼んで良いわよ。」
「じゃあ、私達だけの時は、おばあちゃんって呼ぶね。」
マリアは深呼吸して、明日からの事を聞く事にする。
「明日からのお勉強ですが、どの位厳しいの?」
「ふふふ、鞭で叩かれると思ったの?」
「うっ!だってあれ、泣くほど痛いんだもん。」
マリアはプクっとほっぺを膨らましてアピールしている。
「私は体罰なんて嫌いよ。 それと、この1ヶ月は礼儀作法のお勉強はそれ程しないのよ。」
「え?!」
「だってマリアちゃんは、礼儀作法は出来ていますからね。 地理と歴史のお勉強がメインよ。」
「おばあちゃんは、街中には住まないの?」
「田舎暮らしも、中々良いものよ。 便利さだけが、人を幸せにする訳ではないのよ。 年を取ってくると、うるさいのが嫌になってきて、静かに暮らしているのさ。」
「それにしても、気持ちいいわね。星もきれいだし、こんなに良いもんだったんだね〜。」
空を見ると無数の星が漆黒の空に輝いており、ただひたすらに美しい眺めだった。
普段生活していても、夜に星を見ることがなかったマリアは感動を覚えた。
今回の湯浴み場で、マリアが作った防御壁はとてつもない強度だったらしい。 サニーが呼んだアンジェリーナの部下が、強度の確認を行う為、軽く剣で叩いたが全く壊れる気配がなかった。
壊れる気配がない為、思いっきり叩き、剣が折れてしまったようだ。
気になったので、魔法を全力で当てたところ、全くビクともしなかった事は、当然マリアには内緒である。
マリアは知らないが、本当は暫くあの地区を離れ、不穏分子の最終確認を含めた為の旅行だ。
アンジェリーナ師団長が協力してくれるので、マリアを使い誘い出しているのだった。
◇
次の日、朝早く起きて体力増強の為、敷地内を走っていると、柵の向こう側から話しかけられた。
「すみません。旅の途中で道に迷ってしまいまして……、マーレさんの家はこちらでしょうか?」
見た感じ、好青年で不審者には見えない。
「えぇ、この家ですよ。」
「あぁ、よかった。この辺りとは聞いていましたが、どの家なのかわからなくって困っていました。」
青年は懐から時計を取り出し、時間を見てから、お礼を言って去っていった。
初めて見る時計だ、しかも懐中時計だ。あんなに小さな時計は、この体に生まれてから見たことない。
電池もないこの時代、魔力で動く時計だと思うが、作るのは難しいだろう。今の技術では精密な部品はまだ作れないはずだ。
秒針、短針、長針があったように見えたから、確実に小さな歯車を使っている。
今の私なら歯車程度は簡単に作れるが、デジタルタイプの方が魔道具として作りやすい気がする。でも、やっぱり時計は、機械式が格好良くて良いかもしれない。
街では鐘の音で時間を知らせているが、時間は水時計と日時計により測られている。
王都の研究機関は技術が進んでいるようなので、もしかしたら王都には懐中時計が開発されているのかもしれない。
朝の鍛錬を終わらせ、湯浴み場に向かうとマーレ大叔母様が入っていた。
プロテクション・フィールドなどは、昨日の間に、魔道具化している。 魔力ストック用の魔石は、持ってきた物を全て使い尽くし、大容量化したので当分は足りるだろう。
「お婆様も朝から、湯浴みされるんですね。」
「色々な景色を試したくてね。 朝もなかなかに良いもんだね〜。」
「そういえば、お婆様に用事がありそうな20歳前後の青年に話しかけられましたよ。」
「私に?」
「多分ですが、マーレさんの家はこちらか?って聞かれましたので応えました。」
マーレは少し考えていたが、私の顔を見ると、考えるのをやめた。




