名前の残らない男
凛花はベランダに出る。
今日は少しだけ暖かい。
もう缶を開けるのはルーティーン化している
今日もいる。てかずっと煙草吸ってんな、仕事してんのか?
「ねえ」
「なんだ」
「前さ」
「名前、変えてるって言ってたじゃん」
「言ったな」
「どれくらい変えてんの」
酒を一口飲む。
「結構」
「雑だな」
凛花は少し笑う。
「最初の名前は?」
ステフは外を見る。
「長いぞ」
「いいよ別に」
「ガイウス・ステファノス・コンテ」
「……今とあんま変わってないな」
「その頃はそういうのだった」
「その頃とは」
「ローマがブイブイいわせてた頃だ」
凛花は少し考える。
「あー……」
「なんか長い名前ばかり聞いたことある」
ステフは軽く頷く。
「最初はそれだった」
「でも減ったいった」
「ほう」
「みんな同じようなのになる」
「平民は似てて区別がつかなくなる」
「だから後ろの名前で呼ばれる」
凛花は少し頷く。
「通称みたいな?」
「そうだ」
「で、どういうタイミングで変えてんの?」
「国がなくなった時か、気分でな」
「ネイル感覚かよ」
「で何になったの?
「ステファノス・コンテ」
「一気に今っぽくなった気がする」
「周りがな、浮くと面倒だ」
「それ前も言ってたな」
凛花は缶を傾ける。
「で、また変えるの?」
「変える」
「なんでそこまで?」
ステフは淡々と言う。
「周りが死ぬからだ」
凛花の手が止まる。
「……」
「同じ名前で残ると」
「ずっと生きてるって噂になる」
「だから自分は死んだことにして移動する」
「少し名前も変える」
凛花は少しだけ黙る。
「……最初に変えたのは」
「いつ?」
少し間が空き
「最初の連中がいなくなった時だ」
「俺だけ残った」
凛花は何も言わない。
「だから変えた」
静かに風が吹き抜けていく。
凛花は空を見る。
「歴史に名を残すとか思わないの?」
ステフは少しだけ考える。
「残す気はない」
「残したら面倒だ」
凛花は苦笑する。
「徹底してんな」
「長くいるとそうなる」
凛花は缶を軽く振る。
「でもさ」
「なんだ」
「ちょっとくらい残してもよくね?」
少し間。
ステフは答える。
「残したやつらを見てきた」
「……」
「忙しそうだった」
凛花は少し笑う。
「……まあ確かに」
酒を一気に飲む。
「今の名前は?」
「ステファノ」
「それを縮めてステフ?」
「そうだ」
凛花は少し頷く。
「今っぽいな」
「そうか」
「うん」
凛花はふと呟く。
「じゃあさ」
「なんだ」
「次の時代になったら」
「また変えんの?」
ステフは少しだけ考える。
「多分な」
凛花は笑う
「めんどくせえ人生だな」
「そうだな」
「私はあんたがいたって事、死ぬまで忘れないよ」
「そうか」
名前は変わる
でも
隣にいるこいつは、ずっと変わらない気がした




