見たくないもの
閑静な夜
凛花はビールと焼き鳥を持ってベランダに出る。
珍しく煙草を吸っていないステフは外を見ている。
視線の先の路地
猫が二匹。
唸り合っている。
「……ケンカかな」
「そうだな」
低い声いつもより、ちょっぴり冷たさを感じる
飛びかかる猫たち
また距離を取る。
ステフがぽつりと呟く。
「平和とはなんだろうな」
「なに、哲学?平和とは的な?」
ステフの雰囲気を察し凛花は少しだけ表情を変える。
「なにかあった?」
「戦争を思い出した」
そうだ、いつもアホな昔ばなしばかりだから気にもならなかったけど
経験してるんだよね...
ステフが続ける。
「最初は小さいいざこざだ」
「どっちが上か」
「ここは俺のだ」
「どうでもいい理由だ」
猫がまた威嚇する。
「止まる事を知らず、次第に大きくなり周囲を巻き込んでいく」
凛花は黙って聞いている
「広がり、巻き込まれ」
「気づいたら、簡単に終われない所まで来ている。どちらかが死ぬまで」
気づけば手に持つビールはぬるくなっている。
「……見たんだよね?」
「見た」
短い、だけどその言葉で伝わってくる
戦争がどれほど理不尽で愚かな行為なのかを
何も言えない。戦争の経験者にかけれる言葉など私にはない。
猫の喧嘩は終わっていた。
どちらもいない、再び周囲は閑静な夜に包まれる
「……」
暫く無言が続き凛花は一呼吸しぬるくなったビールを流し込む
「……それは」
言葉を探す
「……キツいな」
ステフは何も言わない。
凛花は隣を見る。
「珍しいね」
「ん?」
「ツッコミどころない話」
少し間。
「そうだな」
今日は初めてステフの悲しい顔を見た日だった




