ブルータス、お前もか
夜。
凛花は少し荒い足取りでベランダに出る。
音がやけに大きい。
「聞いて」
酒をもったまま身を乗り出し怒りを見せる
「またか」
やれやれといった表情でステフは静かに聞く
「今日さ」
一口飲む。
「上司がまたやらかしてさ」
少し間。
「納期ギリギリの案件取ってきて」
「無理だろそれって言ったら」
凛花は笑う。
「“やればできる”だって」
「ユーキャンかって!」
思い切り息を吐く。
「全部こっちに丸投げ」
「上司は?」
「接待あるからって帰った」
間。
「……」
スッと、鍋が差し出される。
どろっとした液体。
「……」
凛花は無言で手を振る。
(いらん)
ステフはしゅん...とした様子でスープを飲む
少し間があき
「そんな奴いたな」
凛花は即座に反応する。
「何人いるんだよそういうやつ」
凛花は柵にもたれる。
「どうすればいいと思うああいうの」
「参考になるか分らんが...あの時は」
「うん」
「好き勝手やりすぎて部下に刺されて死んだな」
「却下」
即答する
「早いな」
「時代を考えろ」
こいつ私に殺人でもやれってか?くそも参考にならないな
相談相手間違えたか?
「そうか」
少し考える。
「なら——」
「周りを固めろ」
凛花が顔を上げる。
「は?」
「上を変えるのは時間がかかる」
「……」
「だが横は動く」
凛花は少し考える。
「同僚ってこと?」
「そうだ」
「一人で抱えるな」
短く。
「相手の力を削げ、徒党を組め」
凛花の表情が少し変わる。
「ただのストライキになって上から面倒な社員だと思われん?」
「普通なら上司の監督不足で怒られるのは上司だけだ、お前の会社がまともならの話だが」
「まともじゃない時はどうすれば?」
「便利なものがあるじゃないか、今の日本人は世間体を気にするんだろ?」
ひらひらとスマホを見せてくる
「それ...現実的だな」
凛花はグラスを傾け下から上がる気泡を眺める
「じゃあさ」
「最終手段は?それでも駄目な時」
「逃げる」
「……」
一瞬止まる。
「それありか?」
「死ぬよりいい」
凛花は笑う。
「極端だなー」
「長く生きるコツだ」
なんかこいつが言うと妙に説得力があるな
「もういいや、そういやさ」
「なんだ」
「さっきの“刺す”ってやつ」
指を向ける。
「元ネタあんの?」
「ある」
凛花はスマホを出す。
(裏切り 刺す 有名)
検索。
すぐに出る。
ユリウス・カエサル
凛花は顔を上げる。
「バチくそ有名じゃん」
「ここまで有名になるとは思っていなかった」
凛花は少し笑う。
「で?」
「その時はあんたどういう立場?見たことあるんなら町人とか?」」
「内政を少し手伝ってた」
「……」
笑いが止まる。
「ちょっと待って」
「さらっと言う事ではんと思う」
少しだけ距離を詰める。
「ナポレオンの時は兵士で」
「カールの時はパン屋で」
「今度は、内政?」
ステフは淡々と言う。
「ジョブチェンジってやつだ」
「……」
凛花は少しだけ黙る。
「……あんたさ」
「なんだ」
「いつから生きてんの」
ステフは少しだけ考える。
「イエスが生まれた頃にはもういたな」
「……は?」
「そういえばあんた年は?」
「覚えていない。数えるのやめたのは200超えたあたりだな」
「35歳くらいにしか見えんけど」
「生まれた年は覚えてる」
凛花は眉をひそめる。
「いや待って、整理したい生まれた年は?」
「紀元前150年」
「頭追いつかねー設定凝りすぎ」
紀元前って1年より前だよな?今2026年だからてことは2176歳?
。
笑えない。
凛花はステフを見る。
(こいつ)
(これが本当だとしたらどれだけ——)
ステフは煙草を吸い続けている
凛花は小さく息を吐く。
「……もういいわ」
両手をひらひらと上げ話し出す
「分かんねえ」
少し笑う。
「正直私はあんたの話を全て信じてない、
胡散臭いし不老不死なんているわけないしファンタジーの世界だよ」
「でもまぁ」
ステフを見る。
「面白いからいいや」
「他人に言いふらす気はないし、現に愚痴とか聞いてもらって奇妙な間柄だけど
結構好きだよ。あんたの話。」
ステフは驚いた様な表情だった
「そうか」
一言だけ、また煙草を吸う
「てかさ、私以外にこんな話しない方がいいよ。」
「私じゃなかったら通報されると思う」
「大丈夫、既に経験済みだ」
「あー」
「十字架にくくりつけられて火あぶりに遭うところだった...」
「思ってたのと違い過ぎる!」




