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ただのメモ

「……なにそれ」


凛花は酒を飲みながら、思わず声を出した。


手に持つ紙。

そしてステフが描いているもの。


凛花が顔をしかめる。


「いや、ちょっと待って」


「まじ、何描いてんの?精神病んだ?」


ステフはペンを動かしながら答える。


「植物だ」


凛花が固まる。


「……え?」


紙の上には、


“植物っぽい何か”がある。


だがどこか歪で、妙に不気味だった。


凛花が身を引く。


「怖い怖い怖い」


「バケモンじゃんそれ」


ステフは気にしない。


「こういう形だった」


凛花が即ツッコむ。

「絶対違うでしょ!!」


ステフはもう一枚紙を取る。


今度は別の絵。


人のようなもの。


だが関節の位置がおかしい。


凛花が完全に引く。


「やめて」


「夜に描くなそれ」


ステフは淡々と言う。


「思い出しているだけだ」


凛花が首をかしげる。


「何を?」


「昔のメモだ」


凛花が目を細める。


「失くしていてな、見つかったんだ」


凛花が少し興味を持つ。


「へえ、どこに?」


ステフは答える。


「手に届かない場所だ」


凛花が呆れる。


「いやいやいや」


「見つかったのに?」


ステフは肩をすくめる。


「今は手に入らない」


「だから思い出している」


凛花は紙を見る。


不気味な絵。


意味の分からない線。


「……これ?」


ステフは頷く。


「こんな感じだった」


凛花が笑う。


「いや、絶対違う」


「どうやったらこんな気持ち悪くなるのさ」


ステフは少しだけ考える。


「絵は得意ではない」


凛花が即返す。

「レベルの問題じゃない」


ページが増えていく。


植物、人、意味不明な図。


そして


謎の文字。


凛花が手を止める。


「それ何?」


ステフは短く言う。


「文字だ」


凛花が目を細める。


「読めないんだけど」


「読めないようにした」


凛花がゆっくり顔を上げる。


「……なんで?」


ステフは答える。


「バレると困る」


少し間があき


「異端は消される」


空気が少しだけ変わる。


凛花は軽く頷く。


「あぁ、その頃か」


ステフは書き続ける。


「体のことを調べていた」


「薬草もな」


凛花が小さく言う。


「だからその絵か…」


ステフは頷く。


「関係ないものも混ざって書いてしまった」


凛花が笑う。


「整理しろよ」


ステフは答える。


「面倒でそのまま書いた」


やがて、手が止まる。


「……こんなものだ」


凛花は紙を覗き込む。


「いやぁ…」


「センス終わってるな」


ステフは何も言わない。


凛花はスマホを手に取る。


「ちょっと待って」


「それ、検索してみる。古代エジプトとかに似たのあったな」


軽い気持ちだった。


画像検索。


画面が表示される。


凛花の手が止まる。


「……え?」


ステフがちらっと見る。


凛花の表情が変わっている。


「ちょっと待って」


「これ」


スマホを向ける。


そこに映っていたのは——


ヴォイニッチ手稿。


奇妙な植物。


歪な人体図。


意味不明な文字。


そして——


「……似てるどころじゃない」


凛花の声が少し震える。


「同じじゃん」


ステフは静かに見る。


「それだな」


凛花がゆっくり顔を上げる。


「だから手に入らないって.....」


「これ世界中で解読できてないやつだよ」


沈黙が訪れる


「全部、謎って言われてる」


凛花の喉が鳴る。


「それが」


ステフを指さす


「お前のメモってこと?」


ステフは短く答える。


「そうだ」


凛花は何も言えない。


スマホを見る。


紙を見る。


もう一度スマホを見る。


「……え、じゃあさ」


声が少し小さくなる。


「これの答え」


「分かってるの、お前だけ?」


ステフは煙を吐く。


「そうなるな」


凛花は固まる。


長い沈黙。


「いや」


少しだけ後ずさる。


「ちょっと待って」


「それ、やばくない?」


ステフは何も言わない。


凛花が頭を抱える。


「世界の謎全然大したことないじゃん」

「おっさんの絵心ないメモて......」


ステフは小さく笑う。


一つの謎が終わった瞬間


それを知っているのは、


たった一人だけだった。

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