悲しい表情
少し涼しい。
凛花はベランダに出る。
缶を開ける。
隣を見る。
ステフはいる。
珍しく、何もしていない。
「……ねえ」
「なんだ」
凛花は少しだけ間を置く。
「前さ」
「戦争の話してたじゃん」
「したな」
「重かった」
短く言う。
ステフは何も返さない。
凛花は視線を落とす。
「うちさ」
ぽつり。
「ばあちゃん死んでるんだよね」
風が少し吹く。
「小さい頃めっちゃ世話になっててさ」
缶を軽く回す。
「急にいなくなるじゃん、人って」
少し笑う。
「分かっててもキツいよな」
ステフは外を見たまま、静かに言う。
「そうだな」
短い。
凛花は続ける。
「残される側ってさ」
「どうしようもないよな」
「何もできないし」
「ただいなくなるだけ」
「慣れんのかな、ああいうの」
風が止まる。
しばらく沈黙。
ステフがゆっくり口を開く。
「慣れない」
凛花は顔を上げる。
「……だよね」
「何回もそういう経験あるんでしょ?」
「あぁ」
短く。
「でも慣れない」
そのまま続ける。
「慣れたら終わりだ」
凛花:
「……」
少しだけ、空気が変わる。
「最初はな」
ステフは淡々と話す。
「同じくらい生きると思ってた」
「当たり前みたいに」
「でも違った」
短く息を吐く。
「気づいたら」
「自分だけ残る」
凛花は何も言わない。
「繰り返す」
「何回も」
「2回や3回じゃない」
「桁が違う」
凛花の手が止まる。
「……」
ステフは続ける。
「だから」
「深く関わらないようにした」
凛花:
「……」
「でも無理だ」
短く。
「関わる」
「話す」
「笑う」
「気づいたら一人だ」
風が抜ける。
「また残る」
凛花はゆっくり息を吐く。
「……それ」
「私は耐えられないな」
ステフは少しだけ目を細める。
「そうだな」
凛花は苦笑する。
「じゃあさ」
「なんだ」
「それで深く関わり持たなくなったのね」
ステフは答える。
「無理だった」
「なんで?」
「暇だからだ」
凛花:
「……は?」
一瞬、空気が崩れる。
「長いと」
「誰かと話す」
「それだけで楽になる」
凛花は少しだけ笑う。
「なんだそれ」
「普通じゃん」
凛花は缶を傾ける。
「……まあ」
「分かる気はする」
視線を外す。
「一人はつまんないしな」
ステフは何も言わない。
凛花はぽつりと呟く。
「でもさ」
「それでも関わるってことはさ」
少しだけ笑う。
「懲りてねえじゃん」
ステフは少しだけ考える。
「そうだな」
「懲りない」
凛花は笑う。
「バカだな」
「そうかもな」
少しだけ、優しい空気が流れていた。




