風が吹く
凛花はベランダに出るなり言う。
今日は夜風が少し強い。
「赤壁の戦いってさ」
「風が勝敗決めたやつやろ?」
ステフは短く答える。
「そうだな」
凛花はじっと見る。
「で?」
「お前、絡んでそうだな」
煙がゆっくり流れる。
「聞かれただけだ」
凛花はため息をつく。
「やっぱりな」
川沿いの陣。
湿った空気、風はない
重たい夜
一人の男が頭を抱えていた。
「……無理だ」
「兵は少ない」
「相手は大軍」
「劉備もいない」
凛花が小さく言う。
「孔明やな」
ステフは頷く。
男は深く息を吐く。
「……こんなの、勝てるわけがない」
しばらくして、ふらっと立ち上がる。
「……考えても仕方ない」
周囲を見渡す。
そして、たまたま目に入った人間に声をかける。
見慣れない顔。
「お前」
「風、分かるか?」
ステフは少し空を見上げる。
雲の流れ。
湿気。
空気の動き。
昔、誰かに教わったことを思い出す。
短く言う。
「風が吹く」
男が眉をひそめる。
「……何だそれは」
ステフは続ける。
「今夜、変わる」
黙る二人
男は空を見る。
さっきまで見えていなかったものを見るように。
「……風が、吹く」
小さく繰り返す。
凛花が口を挟む。
「インスパイアされとるやん」
男は少しだけ笑う。
さっきまでの焦りが消えている。
「勝機」
その目は、もう迷っていない。
後の話は早い。
火が回る。
風が運ぶ。
戦は決まる。
凛花は缶を持ったまま固まる。
「いや待て」
「その一言で?」
ステフは頷く。
「きっかけにはなった」
凛花は頭を押さえる。
「軍師が任せかよ」
ステフは煙草を見つめる。
「人は、言葉で動く」
凛花は少し黙る。
「でもさ」
「その言葉、お前やん」
ステフは少しだけ目を細める。
「使ったのは、あいつだ」
風が、ゆっくり流れる。
凛花は空を見上げる。
「……見方変わったわ」




