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パンと王
部屋に入って、即缶を開ける。
プシュッ。
「くぁ〜……」
一口飲んで、そのままベランダへ。
隣のベランダに、さっきの男がいた。
「飲みすぎじゃないか?」
「ほっといてくださいよ」
「仕事か」
「パワハラ上司がいましてね」
男は少しだけ間を置いて言った。
「上に立つやつって、最初はだいたい変なの多いぞ」
「経験談ですか?」
「まあな」
「へぇ、どんな?」
少し面白そうだったから、軽く乗る。
男は遠くを見るみたいな顔をした。
「8世紀頃だったか、パン売ってた時にな」
「パン?」
「今だと西ヨーロッパ辺りで」
「変な若いやつがよく来てた」
「どんな?」
「やたらでかいこと言う」
「例えば?」
「この国をでかくする、とか」
思わず笑う。
「いや無理でしょ」
「俺もそう思った」
「で?」
「なったよ」
一瞬の間。
「……は?」
「皇帝に」
吹き出す。
「ははは、なにそれ。誰ですかその人」
男は少しだけ考えて、
「名前は……忘れたな」
「一番大事なとこだろ!!」
思わずツッコむ。
パン屋と王の組み合わせが、妙に現実味を持っていないのに、妙に具体的だった。
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8世紀、西ヨーロッパ、大きい国 王」
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カール大帝
「えぇ、教科書で見た事あるー」
「博識なだけの変な人かな。にしても作り話が上手」
最初はそんな気持ちで酒のつまみのエンタメ要素で、面白可笑しく聞いているだけだった




