弾けて残ったもの
夜は少し騒がしかった。
凛花はベランダに出て、下を見下ろす。
「なぁ」
ステフはいつもの場所にいる。
「なんでお前働いてないん?」
ステフは煙を吐く。
「必要がないからだ」
凛花は即ツッコむ。
「むかつくわー」
「金はある」
凛花は目を細める。
「無職が何言ってんの、どこから湧いてるのそんな金」
ステフは少し間を置き
「バブルの頃だ」
凛花が笑う。
「うわ、怪しすぎる」
昔の話。
街は浮かれていた。
金が回る。
人が笑う。
「価値が上がる」
「もっと上がる」
そんな言葉ばかりが飛んでいた。
ステフはその中にいた。
「おかしな世の中だ」
そう思っていた。
だが。
少しずつ、感覚が鈍る。
「まあ、そういうものか」
流れに乗りかける。
札束でビンタ、ディスコでオール一通りやった
凛花が小さく言う。
「結構染まってんな順応はや、魔虚羅じゃん」
「長く生きていても、環境には引っ張られる」
ある日。
道端で、一人の老人が倒れていた。
ステフは助ける。
大したことではない。
当たり前の事だ。
だが老人は言う。
「礼がしたい」
ステフは首を振る。
「いらない」
老人は少し困った顔をしてから言う。
「使ってない土地がある」
「どうせもう使わん」
凛花が笑う。
「急にでかい話きたな」
「いらないと言った」
だが、押し切られる。
結局、受け取る。
「しばらくして」
ステフの声が少し落ちる。
「その老人は死んだ」
凛花は何も言わない。
残ったのは、土地だけ。
「使い道はなかった」
畑でもない。
家でもない。
ただの土地。
「だから売った」
凛花は頷く。
「まあそうなるわな」
結果。
現金になる。
その額は、大きかった。
「……それで終わり?」
凛花の問い。
「いや」
ステフは続ける。
「しばらくして、崩れた」
凛花が言う。
「バブル崩壊か」
ステフは頷く。
街の空気が変わる。
笑いが消える。
「浮かんでいたものが、落ちた」
少し間。
「その数十年後」
ステフは淡々と続ける。
「マンションを買った」
凛花が止まる。
「……ん?」
「貸して、家賃が入る」
凛花は顔をしかめる。
「お前それ」
指差す。
「大家やん」
ステフは頷く。
「そうだな」
凛花は大きく息を吐く。
「だから働いてないんか」
ステフは煙を吐く。
「生活は足りる」
凛花は周りを見る。
「いやもっと贅沢できるやろ」
ステフは首を振る。
「必要がない」
短い言葉。
凛花は少し黙る。
「……バブルの時さ」
ゆっくり言う。
「おかしいと思ってたんやろ?」
ステフは頷く。
「いつまでも続かないとは思っていた」
「でも、乗りかけた」
あの時代の熱気が、そうさせた
凛花は苦笑する。
「人間やな」
ステフは少しだけ笑う。
「そうだな」
風がゆっくり流れる。
凛花は空を見る。
「結局さ」
小さく言う。
「残るやつだけ残るんだね」
ステフは何も言わない。
ただ、静かに煙だけが消えていった。




