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急ぐな太宰

「そういえば」


凛花が缶を揺らしながら言う。


「走れメロスってあるやん」


ステフは小さく頷く。


「あるな」


「友達のために全力で走るやつ」


凛花は笑う。


「お前そういうの絶対茶化す側やろ」


ステフがぽつりと言う。


「止めたことはある」


凛花が止まる。


「は?」


昔の話。


昼間。


道を走る男がいた。


焦った顔。


汗だくで、とにかく前だけ見ている。


ステフはその前に出る。


「急いでるのか」


男は苛立った声で返す。


「今は時間がない」


ステフは少しだけ考えて言う。


「時間は有限だ」


「だが、今しかできないこともある」


男は止まる。


ほんの一瞬。


「……今しかできないこと?」


ステフは肩をすくめる。


「あぁ」


沈黙。


次の瞬間、男は笑った。


さっきまでの焦りが嘘みたいに消える。


「そっか」


男はそのまま座り込む。


そして、酒を頼む。


凛花が吹き出す。


「いや待て待て待て」


「走れや!!」


ステフは静かに言う。


「そのあと、走ったらしい」


凛花は頭を抱える。


「いやその“らしい”が一番あかんねん」


ステフは少しだけ目を細める。


「開き直った顔をしていた」


凛花は呆れたように言う。


「お前のせいで一回サボってるやん」


ステフは否定しない。


「解釈の問題だ」


凛花は即ツッコむ。


「いや違うわ、ただの寄り道や」


少し間。


「でもさ」


凛花が少しだけ真面目な顔で言う。


「それでも間に合ったんやろ?」


ステフは短く答える。


「結果走れメロスができた」


凛花はため息をつく。


「なんか納得いかんなそれ」


ステフは空を見上げる。


「人間は、少しくらい寄り道した方が走れる」


凛花は苦笑いする。


「お前が言うと説得力あるんか無いんか分からん」


夜風がゆっくり抜けていく。


ほんの少しだけ、笑いが残った。

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