ミスちゃった
今井はゾージャの帰りを待っていた。妖術を教えてもらいたいのだ。もうすぐラカンテの所に行くがラカンテに襲われないか心配なのだ。マドラードのようにラカンテに襲われたら、今のままでは全くまったラカンテに対応できない。この前のマドラードのようなことはもうゴメンだ。そのためには戦う方法を学んでいた方がいい。ナキータはもともと強いのだからナキータが戦えるようになったらラカンテごときをそれほど恐れなくてもいいかしれない。ゾージャに頼めば喜んで教えてくれるだろう。頼まなくても教えたくてうずうずしているらしいし。
しかし、そう考え始めるとゾージャが帰ってくるまで待てなくなってきた。早く戦えるようになりたい。そこで、まず自分で練習してみることにした。以前ゾージャに教えてもらった雷神とか言う攻撃技をやってみればいい。
今井は外に出ると近くの岩山に向かった。
以前、教えてもらった通り腕を伸ばして岩を狙って妖力を集中する。そして一瞬に力を入れた。
どでかい火花が飛び、目の前の岩が大爆発を起こした。木っ端微塵に吹っ飛び岩の破片が物凄い勢いで飛んで来る。もう夢中だった。必死で後ろに後退したが間に合わない、岩の破片がかすめていく。まるでスローモーションを見ているようだった。からだをひねり宙返りをしていくつかの破片を必死でかわした。
やっと逃げ切った。破片が届かない所まで逃げることができた。
今井は胸をなでおろした。危なかった。まさかこんな大爆発が起きるなんて夢にも思っていなかったのだ。あの時、食堂でやった時はあんな小さな爆発だったのに… ナキータはどんどん強くなっているのか。
しかし、すぐに家が爆発の煙に包まれているのに気がついた、家がバラバラになっているかもしれない。今井はあまりのことに宙に浮いていられなくて落ちてしまいそうだった。あんな大爆発が起きるとわかっていたらもっと家から離れた所で練習したのに。
爆発の煙が流れていくと家が姿を現し始めた。良かった、バラバラにはなっていない。しかし、壁には穴がいくつも空いているし、玄関前のテラスは板がめくれ上がっている。
やがて従僕達が驚いて家から飛び出してきた。みんな驚いて周囲を警戒している。今井は慌ててみんなの所に飛んで行った。
「みんな、怪我はない? 全員揃っている?」
必死だった。もし誰かが怪我をしていたり、もしものことがあったらどうしていいかわからない。
「全員そろってるか!」
ナカヌクが大声で確認する。今井も必死で人数を確認した。全員揃っている。良かった誰も怪我をしていない。
「全員揃っているようです。しかし、何があったんです、敵襲ですか?」
ナカヌクの言葉に全員怯えたようにナキータの近くに寄って来た。ゾージャがいない今、頼りになるのはナキータなのだ。まさかナキータが犯人だとは誰も思っていない。
「ガルンスクの奴らですか?」
ナカヌクが怒りに燃えた口調で聞く。またガルンスクが出てきた。ガルンスクが何者かわからないが皆はさらに怯えてナキータの近くに集まった。
「ミスっちゃったんです……」
今井は小さな声で答えた。
ナカヌクは意味がわからずしばらく黙っていたが、やがて口を開いた。
「何をミスられたんです?」
ナキータの表情から、彼女が原因であることにうすうす感づいたらしい。
「ほらあれ… 雷神とか言う妖術……」
さらにナカヌクはしばらく考えるように黙っていたが、おもむろに口を開いた。
「どうミスられたんです?」
そう聞かれても説明が難しい。今井はそっと岩の方を指差した。そこにはさっきまでは岩の出っ張りがあったのだが今はくぼみになっている。
ナカヌクはそのくぼみをじっと見ている。
「あのくぼみはナキータさまが作られたのですか?」
今井は出来るだけ可愛くコクンとうなづいた。ここは自分が可愛いい女の子であることを最大限に利用した方がいい。
「ごめんなさい…」
「いえ、私共に謝るなど… ここはゾージャさまとナキータさまのお屋敷です。ご自分のお屋敷の模様替えをどうなさろうとご自由でこざいます」
それからナカヌクは姿勢を正した。
「で、私共はどうすればいいでしょう? お屋敷の中はかなり酷い状態になっています」
岩の破片が何個も壁を破って家に飛び込んだから、家のなかは物が吹っ飛んでいるんだろう。
「じゃあ、片付けて…」
今井はあっさりとそう言ってしまったが、かなり良心が疼いた。
「承知しました。それと壁の穴はどうしましょう?」
壁の穴… とうしよう。
「それはゾージャに相談するわ」
「承知しました」
そう答えるとナカヌクは皆を追い立てるように家の中に戻って行く。今井はそれを緊張したおももちで見ていた、間抜けな事をやってしまった。
ミリーがそばにやって来た。
「お着物、どうされたんですか?」
着物? 今井は自分の姿を見てみた。なんと着物がビリビリに裂けている。右足などもものあたりまで見えている。
いったい何でこんな風になってしまったのか? 爆風をあびたのか? いや、爆風じゃない、逃げた時だ。物凄い速さで後退したから、その時に風で裂けたのだ。それに飛んで来る破片を避けようとしてからだをひねったりした時もだ、からだの動きに着物がついて来れなかったのだ。でもそんなに早く動けるのか?
「すぐにお着替えを」
今井はミリーに連れられて家の中に入ったが家の中は凄い事になっていた。岩が壁をいくつか貫通していて、岩に当たった物がそこら中に散乱している。ナカヌクがてきぱきと指示を出していて従僕達が走り回っている。今井も着替えが終わったら手伝うつもりだった。
自分の部屋に入ったがここは無事だった。被害に会ったのは壁に近い部屋だけで奥の方まで岩は届いていなかった。
着物はあれから新しいのを何着か買ってあった、落ち着いた柄の着物だ。
初めて新しく買った着物を着てみたがこれはなかなかいい。今まで着ていたのと微妙に違っていて、ちょっと派手な感じで実に可愛い。女性が着るものだから色んなデザインがあるのだ。
鏡の前でしなを作って見たがナキータの可愛さは桁違いだ。今日ゾージャが帰ってきたらこっぴどく怒られるだろうが、この着物を着たナキータならゾージャの怒りも半減するかもしれない。
「では、私は後片付けに行きます」
ナキータの着替えが終わったのでミリーが部屋を出ようとする。
「私も行きます」
今井もミリーの後に続こうとした。しかし、ミリーがナキータの前に立ちふさがった。
「ナキータさまは本当に人が変わられましたねえ。ナキータさまがご自身で片付けをするなどまったく必要がございません。ナキータさまはこの部屋でのんびりなさっていて下さい」
ちょっと迷った。片付けに行かないのは道義に反するような気がするが、一方で本来のナキータならどうしただろうとも思った。ナキータなら片付けなどしないのならそれに合わさないとまずい。
「わかったわ、じゃあ後は頼んだわね」
ちょっと尊大な感じで言った。
「承知しました。お任せ下さい」
ミリーはそう言うと部屋を出て行った。
ゾージャが帰ってくるまでドキドキだった。今日は何の言い訳も出来ない、怒られるしかなかった。時々、自分の着ている着物を見た。これが何かの役にたってくれるだろうか。
やがてゾージャの妖気を感じた。さあいよいよだ。今井は玄関前の広間にゾージャを迎えに降りて行った。広間は綺麗に片付いていて壁の穴さえなげればいつもの玄関前の広間だった。
「何があったんだ!」
ゾージャが驚いたように怒鳴りながら玄関を入って来た。テラスの板が壊れているのに気が付いたのだ。
「申し訳ありませんでした」
今井はゾージャの顔を見るとすぐに謝った。ゾージャがびっくりしてテラスを指差した。
「お前がやったのか?」
「こっちもです」
今井はそっと壁の穴を指差した。ゾージャが唖然として壁の穴を見上げている。
「何をやったんだ…」
「雷神の練習をしようと思ったら威力が強すぎたんです」
「雷神の練習?」
ゾージャは壁を見つめている。
「壁を使って雷神の練習をしたのか?」
まさか、俺はそんな馬鹿じゃない。
「いえ、そうじゃなくて、外の岩で練習したんです」
「外の岩?」
ゾージャは開いていた玄関の扉から外を見る。しかし、見ただけでは分からないだろうと思い今井はゾージャの横を通って外に出た。そしてくぼみになった所を指差した。
「あれです」
「たしか、あそこには……」
ゾージャが言葉に詰まってしまった。
「あそこにあった岩を吹き飛ばしたのか」
ゾージャが軽く口笛を吹いた。
「あそこまで削ってしまったのか、こりゃ頑張ったもんだな。何回くらいやったんだ?」
何回って?
「いえ、一回です。加減が分からなくて…」
「嘘言うなよ、一回でこんなになるわけないだろう。俺だってここまで削るには十回はかかる」
十回? そうかナキータは桁違いに妖力が強いのだ。その強さはゾージャの比ではない。しかし、ゾージャより強いことがゾージャにわかってはまずい。
「いえ、何十回も… ただ最後のを思いっきり強くてやったら破片が家に当たっちゃって…」
今井は何とか言い繕った。ゾージャは頭を手で押さえている。
「まあ、ひどい事をしてくれたもんだな」
「ごめんなさい」
今井は深く頭を下げた。さあ、これからこってりと怒られるのだ。今井は思いついて袖を少し振ってみた。しかし、ゾージャはまったく気がつかないらしい。
「しかし、何でまた雷神の練習なんかする気になった?」
「ラカンテの所に行くでしょう、だから少し戦いの技を知っておこうと思って… ねえ、ゾージャ、戦いの妖術を教えてくれない?」
ゾージャが嬉しそうに笑った。
「いいとも、教えてやるよ。今から始めるか… いや、飯を食ってからがいいな、腹ぺこなんだ」
ゾージャは怒るのも忘れて嬉しそうにナキータを抱き寄せた。
そうか、この手があったのか。ゾージャは自分が得意とする戦いの妖術をナキータに教えたくてうずうずしているのだ。だから、妖術を教えてと言えば上機嫌になる。考えてみれば男の気持ちなんて女が何を着ててもあまり関係がない、むしろ何も着ていない方がいい。
「壁の穴は?」
今井は聞いてみた。
「ハンズに修理させよう、すぐやってくれるさ」
ゾージャは上機嫌で答えた。
食事の後、さっそく妖術の練習が始まった。さっきの様にならないように家から充分に離れて宙に浮いた。
「雷神をやってみろ」
ゾージャが近くの岩を指さす。
今井は岩に手を伸ばしたが、しかし、これは加減が難しい。ゾージャのよりも威力があったらまずいのだが、どの程度ならいいのかがわからない。
「ゾージャ、やってみせて」
今井は甘えた声を出してみた。
「何を言うか、これは出来るんだろう」
「私のはどこかおかしいの、だから正しいやり方を見せて」
「そうか」
納得したようにゾージャが頷く。
ゾージャは岩に向かって手を伸ばした。
指先から火花が飛び、岩が爆発を起こした。もちろんさっきのよりはるかに小さな爆発だ。
「さあ、やってみろ」
ゾージャが自慢げに岩を指差す。ゾージャの態度から今のはゾージャにとってはかなり強力な爆発だったらしい。つまりあれよりかなり小さな爆発でないとまずいのだ。
今井は岩に向かって腕を伸ばした。しかし、今度はどの程度の力を入れたらどの程度の爆発が起きるかがわからない。今井は出来るだけ力を抜いて弱く弱く力んだ。
指先から小さな火花が飛び、岩がポンと弾けた。
ゾージャが大笑いしている。でも、まあ、この方がいい。
「おかしいな」
今井はわざと首を傾げて見せた。
今井はもう一度岩に腕を伸ばした。そしてもう少し強くしてみる。今度は丁度いい程度の爆発が起きた。
「どう」
今井はにっこり笑ってゾージャを見た。
「なかなか、たいしたものだ」
ゾージャがほめてくれる。
次は防御の方法を教えてくれると言う、相手の攻撃をどうやって防ぐかだ。
「距離がある時はかわすんだ、相手の火線を見切ってそれを避ける。ただこれは簡単じゃない。なかなか火線なんて見切れるものじゃない。特に自分に向かって来る火線は怖くてあわててしまう。避けきれないと思ったら妖力の盾を自分の前に作る。ただこれも相手が自分より強い時は破られてしまう」
ゾージャが説明してくれるがなるほどと頷くばかりだった。
「じゃあ、まず火線を見切る練習だ。俺が雷神を撃つからそれを見切るんだ。お前のすぐ横を狙う、お前には当てないから絶対に動くなよ」
そう言うとゾージャは距離をとった、二百メートルは離れているだろう。
「じゃあ撃つぞ! 怖がるな」
ゾージャが構えた。そして彼の手が一瞬光った、と、光の線がスッと横を通って行った。あまりに速くて何がなんだかまったくわからない、本当に一瞬の出来事だった、これを避けるなんてとても出来そうにない。
「見切れたか?」
ゾージャが大声で怒鳴っている。
「いえ、無理です」
今井も大声で返した。
「もう一度いくぞ、精神を集中して見切るんだ」
ゾージャが教えてくれる。
戦いになったらこの程度の距離ならあの火線を見切って避けなければならないのだろう。ゾージャがこの距離で教えてくれていると言う事は普通の妖怪ならこの程度は出来ると言う事だ。ゾージャが妖力が弱いと内心馬鹿にしていたがとんでもない、これが本物の妖怪の実力なのだ。
それでも今井は身構えた。ゾージャが雷神を撃ったらそれを避けるつもりで必死でゾージャを睨みつけた。
ゾージャの手が光った。スッと光の筋が横をすり抜けて行く。あっと言う間だった。それでも一瞬、光の線が止まったように見えた瞬間があった。
「どうだ?」
ゾージャが怒鳴る。
「無理です。もう一度お願いします」
今井も怒鳴り返した。
ゾージャがもう一度構える。今井も身構えた。
ゾージャの手が光った。しかし、なんと今度は光の線がまっすぐ自分に向かって来る! 今井は息を飲んだ。当たるっと思った瞬間、すべてがスローモーションの様に見えた。光が目の前まで来ている、それをからだを捻って避ける、光は胸元すれすれをすり抜けて行く、なんとかかわす事が出来た。しかし、勢い余って今井は何かにぶつかってひっくり返った。そのまま岩の斜面を転がって岩棚の上に落ちた。
「ナキータ!」
ゾージャの悲鳴が聞こえた。
「ナキータ、大丈夫か!」
ゾージャが抱き上げてくれる。
「大丈夫か!」
ゾージャは必死だ。
今井はゾージャを見上げてにっこり笑った。
「大丈夫よ」
「怪我は? どこに当たった」
「すれすれで当たらなかった」
今井は自分で避けた事は言わなかった。
「すまん、こんなミスなんてした事ないのに。この程度の狙いを外すなんて…」
ゾージャの必死な顔が面白かった。
でも、これがナキータの実力なのだ。さっきのあの爆発の時も、あんなに近くても飛んで来る岩を見切る事が出来た。そして今のもそうだ。ナキータは危険を感じたら本能的に速く動けるようになるらしい。
「すまん、なんと謝ったらいいか、本当にすまん」
ゾージャは心底恐縮している。
「大丈夫よ、さあ練習の続きよ」
今井は抱かれたゾージャの腕から浮き上がった。ゾージャもほっとしたようにナキータを見ている。
再び練習を始めた。もう一度ゾージャが雷神を撃つ。今度は思いっきり離して撃ってきたが、なんと今度はゆっくりと見切る事が出来た。馬鹿みたいにゆっくり光の筋が飛んで来るのだ。これならかなり近くから撃たれても避ける事が出来る、そう二十メートルくらいの距離なら大丈夫だ。そう言えばさっきのだって光の筋が見え始めたのは二十メートルくらいの距離だった。それにあの爆発だって同じぐらいくらいの距離だっただろう。
「どうだ!」
ゾージャの声。
「たいぶ見切れるようになったわ」
「そうか」
ゾージャが嬉しそうに近くに戻って来た。
「どのくらいの距離なら避けられそうか?」
「やっぱ今くらいかな」
いくらなんでも二十メートルとは言えなかった。
「そうか、この距離で見切れるなら立派なもんだ」
ゾージャが頷く。
「ゾージャはとのくらいの距離なら大丈夫なの?」
「そうたな、八チョウくらいかな」
ゾージャは答えるが聞いても無駄だった。八チョウがとのくらいの距離かわからない。今井があやふやな顔をしていると感の悪いゾージャには珍しくナキータの気持ちがわかったのかすうっと離れ始めた。そして百メートルくらいの所で止まった。
「このくらいだ」
「すごい、こんなに近くて大丈夫なの」
今井はお世辞を言うのを忘れなかった。
「ああ、すごいもんだろう」
ゾージャが自慢げに腕を曲げる。
「次は盾で防ぐ方法を教えてやろう、俺に雷神を撃ってみろ」
ゾージャは身構えた。どうやら盾で雷神を防ぐ実演をして見せようとしてるらしい。しかもナキータの雷神を防いで見せて自慢したいのだ。しかし、ゾージャに雷神を撃つのは怖かった。まずナキータはゾージャより格段に強いのだ。それなのに俺は狙いも手加減もまったくいい加減にしか出来ない。もし手加減を間違えて強力な雷神を撃ってしまったらゾージャの妖力では防げないだろう。ゾージャはナキータが弱いと思っているから余裕でナキータの雷神を防いで見せようとしている。
「待って、少し練習するから」
今井は横を向くと岩に向かって出来るだけ弱い雷神を撃ってみた。ポンと岩が弾ける。
「何やってんだ、いいからこっちへ撃てよ」
ゾージャがしこっているが、もう少し練習してからでないと危ない。今井は何度も弱い雷神を撃ってみた。ほぼ確実に弱い雷神を撃つことが出来る。
「何やってんだ、こっちへ撃てよ」
ゾージャがイライラしている。
今井はやっとゾージャに向かって身構えた。ゾージャも身構える。今井は慎重に弱い雷神を撃った。
光のスジがゾージャに向かって進んで行く。ゾージャが両手を前に突き出した、と、ゾージャの手の周囲に光の板が出来た。丁度盾のようにゾージャを守っている。雷神の光はゾージャの盾に当ると火花を飛ばして消えてしまった。
「どうだ」
ゾージャが自慢げに笑っている。なんとなく予想通りの結果ではあったが今井は感嘆の声を上げた。
「スゴーイ」
女の子って大変な商売ではある、感激していないのに感激したふりをしなければならない。そうしないと男性との関係が上手くいかない。それともこれがぶりっ子と言われるやつなんだろうか?
「どうやるの?」
今井はゾージャの所へ飛んで行った。
「こうやるんだ」
ゾージャは丁寧に教えてくれる。今井はすぐに盾が作れるようになった。
しかし、考えてみるとこの練習はあまり意味がないかもしれない、もしラカンテがナキータを襲う事があったとしてもナキータに雷神は撃って来ないだろう。
「ねえ、腕力で襲われた時はどうすればいいの?」
「ラカンテか、そうだな、やはり妖術戦に持ち込むことだな、お前がラカンテに腕力でかなうはずがないからな。それには電撃がいいな」
「電撃?」
「こうやるんだ」
ゾージャが腕をくの字に曲げた。と、稲妻の様な火花が飛んだ。
「やってみろ」
これは簡単に出来た。火花がバチバチ飛ぶ。ゾージャが冗談で火花をナキータに浴びせたが感電した時と同じでビリビリ来る。これはいいかもしれない。空も飛べるし、かわいいし、まさにラムちゃんになるわけだ。
「これは相手を傷つけないで威嚇する事が出来る」
ゾージャの説明に今井は大きく頷いた。これなら使える。ラカンテが襲ってきても電撃戦に持ち込めばなんとかなる。
練習は夜遅くまで続いた。
今井はかなりの妖術が使えるようになった。
次の日、ハンズが穴を見に来た。ゾージャが指示しておいてくれたのだが肝心のゾージャは登城していないので今井が対応するしかなかった。まあ、俺がしでかしたヘマだから俺が対応するのは当然かもしれない。
「すごいな、ナキータ様が空けたんですか?」
ハンズは感心したように穴を覗いている。事情がよくわかっていないのだとは思うがどこか皮肉を言われているようで気分が悪い。
「夫婦喧嘩ですか? おかしらは気がきかないですからね」
ハンズはどうやら勘違いをしているらしい。
「いえ、夫婦喧嘩じゃありません」
今井は否定したがハンズは聞こえないのか穴の様子を細かく調べている。
「たまにはガツンとやってやって方がいいですよ」
ハンズは穴の中に手を入れながら独り言の様につぶやく。
「いえ、だから夫婦喧嘩じゃありません」
今井はもう一度否定した。ハンズがやっと顔を上げた。
「夫婦喧嘩じゃないんですかい。じゃあなんでこんな穴が空いたんです?」
今井はうつむき加減にハンズを睨みつけた。
「ヘマしたんです」
「ヘマ?」
ハンズが不思議そうにしているが、家をぶち壊した話はあまりしたくない。
「ヘマはヘマです。で、どうです、直りそうですか?」
「まかせて下さい、新品同様にしてみせますよ。しかし、この穴は雷神じゃないですね、岩がぶち抜いたみたいな穴だ。どうやってあけたんです?」
「岩がぶち抜いたんです」
ちょっとムカっとして答えた。
「岩が? なんで?」
ハンズは不思議そうにしている。
今井はぶっ飛ばした岩があった場所を控えめに指差した。
「雷神の練習をしたら加減がわからなくて…」
「加減って… スゲーな、雷神でぶっ飛ばした岩でこの穴が空いたって言うんですかい?」
ハンズは信じられないといった顔をしている、今井はコクンと頷いた。
「じゃあ雷神の一撃であのでかい岩をぶっ飛ばしちゃったんですかい?」
今井はもう一度頷いた。ハンズはあきれたように口笛を吹いた。
「さすがナキータ様だ。雷神一撃であの岩をぶっ飛ばしちゃうなんて俺たちとは桁違いだ。ご記憶を無くしておいでなので雷神の手加減が分からなかったんですね。でも俺達に雷神撃つ時は手加減してくださいよ、こんなの撃たれたら防ぎようがありませんや」
ハンズは愛想よく頭をかいている、彼の言葉にはかなりお世辞が入っているのだろう。
「ところて豚の餌を手配しておきました。人間界の豚の餌が必要なんでしょう」
そう言ってハンズはニヤリと笑う。
「餌… どうやって?」
「なあに、あっしの知り合いに間者をやっている者がいるんですよ。そいつに頼みました」
「カンジャ?」
またまたわからない単語が出てくる。
「ああ、人間界に潜んでいて人間のように生活をしながら情報を集めているやつの事ですよ。危険な仕事ですが必要な仕事だ」
「ああ、間者」
つまりスパイのことだ。人間界に妖怪のスパイが入り込んでいるのか。
「間者なんであまり妙な事は出来ないんだが豚の餌を買うくらいだったらいいそうだ」
「それは助かります」
これは助かる、これでミリーが危険をおかして餌を取りに行くこともなくなる。
「今日取りに行く事になってるんで取って来たら持って来ますよ。それと、法力使い達がナキータ様を狙って集結しているそうです。だから絶対に人間界には行かないように」
「はい」
今井もなんとなく危険を感じていた。人間界には絶対に行けない。
「それじゃあ、野郎どもを集めて修理に取り掛かりますので」
ハンズは軽く会釈する。
「お願いします」
今井も軽く頭を下げた。本物のナキータはこんな丁寧な事はしなかったらしいが、どうしても身についた習慣が出てしまう。ハンズが驚いたようにナキータを見ていた。
今は「にせ者王女の政略結婚」の方を書いています。
しばらくはこちらはお休みにする予定です。
よかったら「にせ者王女の政略結婚」の方も読んでみて下さい。




