みんなと天球
ゴゴゴゴと音を立て、地面に降りる。
天球に着いたのだ。僕の故郷。懐かしい。あたりは真っ白で建物は数えるほど。
「ここが天球?」
「すごい。真っ白な部屋みたいね」
周りを見渡すと来る前と何1つ変わらない風景だった。
「あぁ。そうなんだ。戻ってきたんだ……」
プシュッと音がしガッチリしまっていたシートベルトが緩む。また同じような音がすると今度はドアが開く。
いよいよ母さんに会うんだと思うと辛くなる。苦しそうな母さんを本当は見たくない。でも僕には水菜さんも翔くんもついている。
「ったく、何もたもたしてんだ? 降りねえのか」
運転手さんがそう言って僕らの方を見る。どこかで見たような顔だった。この人は誰だろうか。じっと目を凝らして彼をまじまじ見てると彼はため息をついた。
「はぁ。いいからさっさと降りろ。仲間はもうおりてるぜ?」
横を見ると確かに2人とも先に降りていた。
「あ、ありがとうございます」
ゆっくりとドアから出ると彼は翔くんを指差しながら言った。
「礼ならお前を助けたあの男に言え。じゃ、帰りは知らねえから」
ドアが閉まるとまた大きな音が立つ。
「あ!! 春日井さん!」
僕は目を見開いてそう叫んだ時にはもう遅かった。小さな宇宙船は空へと戻った。あの人は本当はいい人だったのか、と思う。
船が空へと消えていくのを見届けた。
「ガリウル。行くよ」
翔くんたちが歩き出す。まだ行きたくない。いやだ。怖い。そう思うと僕は少しでも時間を伸ばそうとしていた。
「あ! ねえ、あれが僕の家だよ。こっちが優しいおばさんの家なんだ。何もないところだけど、ここで育ったよ。ここで家族と……」
母さんの笑う顔がふと頭に浮かぶ。何を話すにも家族の事しか話すことがない。少し黙り込んだ後、僕は少しキョロキョロした。すると病院はすぐに見つかった。だが僕の足は動かない。動けなくてじっと固まっている。
ダメだ、行けない。そう思った。もう病院は見えているのに。目をぎゅっと詰まっていると声が聞こえた。
「行こうか」
優しい声だった。目を開けると翔くんが手を差し出していた。ちらりと顔を見るとニッコリ笑う。僕はその手をぎゅっと握った。水菜さんが逆の手を出す。僕はまたその手を強く握った。
今、目の前にある小さな病院。小さいのなんてそんな事は前から知っていたのに、今日はなんだか一段と小さく見える。そんなものを見つめながら僕らはゆっくりと足を進めた。
病院の入り口に立つ。
「入るか」
翔くんの言葉に僕は握っていた手に少し力が入った。2人は深呼吸し、僕の手を引っ張る。
「待って」
足がすくむ。しかしもう病院のドアが開いている。僕は大きく息を吸って思いっきり息を吐いた。
「「大丈夫」」
2人の言葉と一緒に僕は病院の中へ入っていった。
中に入るとじろじろと見て来る人が居る。
僕ら天球人は宇宙人を見たことがなかったのだ。それほど珍しいのかと舐めるように見られている。翔くんや水菜さんは堂々と歩いていた。その姿にざわざわと病院内が騒がしくなる。
「ガリウル!?」
こんながちゃがちゃした中で後ろから透き通るような大きな声が聞こえた。その声は誰のかなんてすぐに分かった。
「サラムおばさん!」
僕の声と共に2人は後ろを振り返り、僕はそのままサラムおばさんの元へと走ろうとする。
「ガリウル……! まって」
翔くんのそんな声が聞こえ僕は止まる。2人とも後ろ向きだったのだ。
「ごめん」
この2人は天球人ではない。分かっていたが、興奮して忘れていたのだ。後ろのない僕には危なさは分からなかったのだ。
「ほんとごめんね」
もう1度、今度は深く謝った。
「大丈夫だから」
水菜さんも翔くんも優しく許してくれた。そんな事をしてるうちにサラムおばさんがこっちに来ていた。
「ガリウル!! なんでここに!? というか大変なのよ! もうお医者さんも大慌てで!」
「わかったから落ち着いて」
僕がそういうとおばさんは少し黙り込み病室へと案内してくれた。
部屋の前に着き、僕は覚悟を決めた。
どんな姿の母さんであろうと受け入れるという事を。




