ガリウルは家族
水菜さんが僕を慰めるように背中をさすってくれている。肩を震わせ、鼻をすする。
「……ウル〜、ガリウルー!」
翔くんの声が微かに聞こえる。最初は空耳だと思った。だがその声は少しずつはっきりと聞こえた。
「翔くんが僕を呼んでる……?」
そう言うと水菜さんは僕の腕を持ち、僕の目を見た。
「行くわよ」
水菜さんはいきなり立ち上がる。僕がそれにつられ立ち上がると外へと引っ張られる。
「えっ……ちょっと……」
抵抗しようと力を入れるが、水菜さんはそれ以上に僕を引っ張った。僕の言うことなど聞かず、水菜さんはぐいぐいと僕を連れて外へ向かう。
「水菜さん……!」
僕の声と共に水菜さんは立ち止まった。もう外に出ていたのだ。そこには小さな宇宙船があった。
「な、なにこれ」
この小さな宇宙船をじろじろと見ていると、プシュッと大きな音を立て扉が開く。そして扉の向こうには何故か翔くんが立っている。
「どうして……」
僕が頭を整理する間も無く水菜さんは僕の手を引っ張り宇宙船へ突っ込んだ。僕が乗るとシートベルトが自動的に締まる。
「すみません、出発してください」
翔くんは運転席に向かって言った。僕の頭はこんがらがっていた。少しパニックにもなりかけていた。あたりをキョロキョロ見回した後、目を見開き二人を交互に見た。
「んじゃ〜。出発〜」
運転手がそう言うと、ガガガガッと嫌な音を立てながら空に向かい飛び出した。そう言えばあの声、何処かで聞いたことがある気がした。運転手の声……。いくら考えても全く思い出せない。
ガタンガタンと揺れていた機体も少しすると振動は収まり、窓から見える景色は全て黒色になっていた。
「ねえ」
静かな空間に僕は恐る恐る口を開く。それに翔くんが返事をする。水菜さんはずっと窓の外を見つめていた。
「ん?」
「どこ行くの?」
「え?水菜さん言ってないの?」
水菜さんはハッとしたように目線を逸らし、謝った。
「ごめん」
「どういう事?」
僕にはまだ訳がわからなかった。次にこんな言葉が来るなんて予想もしていなかったのだから。
「今から天球へ行くんだよ」
頭が真っ白になった。
「へ……」
気の抜けた声が出る。頭が追いつかない。さっき手紙が届いたばかりだし、どうして今天球に行くのか。僕は母さんの苦しむ姿をあまり見たくないのに。
「でも、僕」
「大丈夫。ガリウルには俺たちがついてるから。それに今すぐ会わないと後悔するよ? 俺みたいにね」
へへっと言いながら笑う翔くんはどこか寂しそうだった。まさか、と思った。僕と同じ状況だったからこそ仲良くなった人だ。彼の母は……きっともう。
僕が翔くんを見ると、今度はにっこりと笑った。水菜さんを見ると、水菜さんもまた笑った。
「翔くんは大丈夫?」
「うん。身体の疲れはあるけど母さんの事はもう大丈夫だから」
「そっか……。水菜さんは? 店は大丈夫?」
「大丈夫よ。知ってるでしょ、うちの従業員はみんな優秀なんだから」
二人は僕を見てまた笑う。今度は声を溢して。
「ありがとう」
涙目で僕は二人にお礼を言った。しかし1つ疑問が残っている。二人は何故僕の面倒をここまで見てくれるのか。
笑いが収まると、水菜さんは口を開いた。
「私ね、ガリウルのこと家族みたいに思ってるよ」
「水菜さん……」
「俺も」
「翔くん……。僕も2人のこと家族みたいに大切だよ」
もう涙が溢れそうだ。
「ふぅ……。ガリウルの母ちゃん今からでも元気になれー!」
翔くんは息を大きく吸い込むとそう言った。
「あ、ありがとう」
僕の顔は涙でぐちゃぐちゃだった。涙を拭う水菜さん。横に座る翔くんは後ろの顔の涙を拭った。
僕の目から涙が止まる事はなかった。




