2話
「私と、付き合ってください」
いっっっやったあああああぁぁぁぁっ!!!
やった。
やったやったやった!
人生で初めて、女の子に告白された!!
心の中ではもう、太鼓も笛も鳴りまくりのお祭り騒ぎ!!
放課後、帰ろうとして下駄箱を開けたら、なんと一枚の手紙が入っていた。
中を見ると、放課後に裏庭へ来てほしいと書いてある。
もしかして、もしかして――これって、いわゆるラブレターってやつですか!?
そう思ってドキドキしながら校舎裏に向かったら、この展開である。
どうだ、椎名!!
見たか、椎名!!
……えへ。 えへへへ。
僕に、彼女かあ……。
しかも、しかも!
告白してきたこの子、まるでお人形さんみたいに綺麗な子。
──斎藤エレナ。
隣のクラスだから直接話したことはない。でも、男子たちがよく噂しているのは何度も聞いたことがある。
「二組にめっちゃ可愛い子がいる!」
「ああ、あれだろ。朝学四大美女に選ばれた斎藤さんだろ?」
「えっ、マジ?」
……みたいな感じで。
それに、なんでも北欧系のクォーターらしくて、その証拠みたいに、髪はすっごく綺麗なプラチナブロンドだ。
……そんな子が、僕に告白してくるなんて。
夢じゃないよね?
槍とか矢とか降ってこないよね?
……っ。
待て、待て、待て。
もしかしてこれ、い、イタズラとかじゃないよね……?
だって、こんな綺麗な女の子が僕に、だよ?
いやいや。
隣のクラスで最近、相馬奏多っていう“女の子みたいな男”が調子に乗ってるから、ちょっとからかってやろう――みたいな話だったら……。
……いや、それはないか。
斎藤さんは、そんなことをするような子には見えない。
すれ違ったことがあるくらいで、ちゃんと知ってるわけじゃないけど。
それでも、どこか大人しくて、そんな悪ふざけに乗るタイプには思えなかったから。
「……その」
「ひゃい!!」
し、しまった。
思わず声が裏返った。は、恥ずかしい……!
「えっと、二組の斎藤さん……だよね。ぼ、僕なんかでいいの……?」
「……うん」
斎藤さんの、陶器みたいに白い頬がふわっと赤く染まる。
「……あなたが、すきです」
――あなたが、すき。
そ、そんなこと……親にしか言われたことないのに……。
えへ。
えへへっ……。
……って、あれ?
なんだこれ。
すっごく、熱い。
どくどくとうるさい胸を落ち着かせたくて、僕は襟元をぱたぱたと扇いだ。
「え、えっと、その……ぼ、僕なんかでよければ! よ、よろしくお願いします!!」
僕はバッと勢いよく頭を下げた。
すると、ぐすん、と小さく鼻をすする音が聞こえた。
顔を上げると、斎藤さんの淡い紫色の瞳が涙に揺れ、次の瞬間、ぽろりと雫がこぼれ落ちる。
「えっ、ど、どうしたの!?」
泣き出した斎藤さんに、僕は慌てて声をかけた。
――その直後だった。
斎藤さんが泣き顔のまま、僕の胸へ飛び込んできた。
ええええ……!?
なに、どういうこと!?
あまりにも唐突すぎる出来事に、思わず悲鳴が喉までせり上がる。
胸元にぎゅっと押し付けられる。触れ合ったところから、じわじわと斎藤さんの体温が感じてくる。
おお……、何だこの感覚。
不思議と落ち着くというか、心が浄化されるというか。幸せな気持ちになる――って、斎藤さんの顔が近い!?
間近で見ると、彼女の整った顔立ちはますます破壊力が増していた。
綺麗なのに、どこか年相応のあどけなさも残っていて、思わず息を呑んでしまう。
身長差がほとんどないせいで、ふわっと甘い香りが鼻先をくすぐった。
……いい匂い。
シャンプーかな。
それともヘアオイル――
って、変態か。何を考えているんだ僕は!!
あぁ……でもなんか、変に意識しちゃったからお、女の子の柔らかい感触とかいろいろとすごくて、ああ〜〜〜!!
脳が完全にオーバーヒートして、今にも頭からぼふっと煙が出そうだった。
「……ごめんなさい。その、嬉しくて」
「……っ」
あ、危ない……!
落ち着け、僕。
どくどくとうるさい心臓をなだめるように、僕は小さく深呼吸した。
こんなの、斎藤さんにドキドキしてるってバレたら恥ずかしすぎる……。
「告白、受け入れてもらえるなんて思ってなかったから……」
「ええっ!?」
思わず目を丸くする。
いやいやいや。
それはさすがにないよ!!
斎藤さんは可愛い女の子から告白されたら、僕じゃなくても男の子はみんなテンションMAXで喜ぶに決まってる。
「相馬さんは、わたしの学校でいちばんモテるから……」
――僕がモテる!?
んなバカなっ!?
生まれてこの方、女の子に告白されたことなんて今日が初めてなんだよ!?
し、強いて言えば……男の子から告白されたことなら、うぅ、何度かあるけど。
でもあれは違うから! ノーカンだから!
「そんなことないない。僕なんか――」
「それに、女の私が相馬さんみたいな可愛い女の子に告白したら、気持ち悪がられると思って……だから」
「モテな……って、んん〜〜〜〜???」
えっ。
い、今なんて言いましたか?
お、女の子……?
ぼ、僕が……!?
そ、そんな、そんなことって……。
頭の中のお祭りが一瞬で静まり返る。
せっかく、人生で初めて女の子に告白されたのに。
その相手に、僕が女の子だと思われてたなんて……。
うぅ。
ショックすぎる……。
……でも、駄目だ。
ここで黙ってたら、もっと駄目だ。
だって斎藤さんは、僕のことを女の子だと思って告白してきたんだ。
もし好きな女の子が実は男の子でした、なんて後から知ったらどう思う?
きっと、すごく傷つくに決まってる。
だから、ちゃんと言わないと。
僕は、男の子だって。
たとえそれで、
「男……? 相馬さん、あなた男だったのね。さよなら」
なんて言われても――
……泣かない。
いや、たぶん泣くけど。
それでも、嘘をついたまま付き合うほうが、もっとつらいから。
「……斎藤さん」
「……エレナ」
「えっ」
「……エレナ」
――な、なんてパワープレイだ!?
ぎゅうっと抱きついてきた斎藤さん――いや、エレナは、拗ねたようにもう一度言った。
「……エレナ、って呼んで」
「エ、エレナ……」
「うん」
満足そうな声が耳元で弾んだ。
僕はそっと肩を押して、エレナと向き合う。
すると、目を丸くしたエレナがじっとこちらを見つめてきた。
「エレナ。大事な話があるんだ」
「ん、なに?」
ごくりと息を飲む。
緊張で喉がひりついた。
「……ぼく、男の子なんだ」
「…………」
見つめ合ったまま、ほんの一拍。
エレナはこてんと首を傾げた。
シマエナガみたいに。
うん、可愛い。じゃなくて……!
これ、絶対わかってくれてない……!
「いや、だから! ぼくは男なんだって!」
「……時代は多様性。私はどんな奏多も受け入れるわ」
なんでそうなるの!?
完全に、そっち系の女の子だと思われてる……!
ど、どうやったら信じてもらえるんだ……?
……生徒手帳は駄目。
性別なんて書いてないし、制服を見せたところで、この流れだと「うん、分かってる」って優しく微笑まれる未来しか見えない。
……っ。
一瞬、視線がすっと下に向く。
いや、だめだだめだだめだ!
それをやったら信じて貰えるけど、代わりにお巡りさん、こんばんわってなるだけだ!!
「だから奏多。安心して、私はあなたのことが誰よりも好きよ」
「……っ」
……な、なんて破壊力だ……!!
心臓を、一瞬で撃ち抜かれたみたいだった。
落ち着け。
落ち着け、僕……。
「……これからもよろしく、奏多」
エレナはやわらかく微笑みながら、静かに口を開いた。
……いや、何を考えてるんだ僕!
高校生になったら、最高の青春を送るって誓ったじゃないか!
エレナが女の子みたいな僕を好きになったのなら――
今度は、本当の僕を好きになってもらえばいい。
ちゃんと男として、エレナの隣に並んで歩けるようになればいいんだ。
「……うん」
決意を胸に、僕は小さく頷いた。




