成績Cを回避するため、自らの手で『ド変態シスコン野郎』へと社会的自殺を遂げた件♡
――ガララッ!
「はいはい、みんな席に着いてー。ホームルーム始めるわよー」
教室の前のドアが開き、気怠げな声と共に。
うちのクラスの担任であり、理科を担当している千歳先生だ。二十代半ばの、若くて美人だが少し適当な性格の先生である。
先生の登場に、クラスの男子たちは慌てて自分の席へと戻っていった。
俺の前の席の繁倉も、チラリとこちらへ(無駄にキメ顔で)流し目を送ってから前を向いた。
(キモっ……じゃなくて、助かった! さすが千歳先生だ!)
教卓に立った千歳先生は、出席簿で机をポンポンと叩いた。
「えー、男子の皆さんに連絡です。今日が最終提出日となっている『ロボット模型組み立て課題』、今から回収します。教卓の前に持ってきなさい」
そこで千歳先生は言葉を区切り、ニッコリと……背筋が凍るような『邪悪な笑み』を浮かべた。
「……そして。持ってこなかったおバカさんには、申し訳ないけど通知表に大きな『C』の文字をプレゼントするからね〜♡」
ゾワッ……!!
教室中の男子生徒たちが、一斉に恐怖の悪寒に身を震わせた。
(ひぃっ……!!)
俺も例外ではない。もし成績で『C』なんて取った日には、母さん(おかん)の地獄の拷問が待っている。
「さあ、早く並んで並んで!」
千歳先生の号令と共に、男子たちがガタガタと鞄から自作のロボット模型を取り出し、死に物狂いで教卓へと向かっていく。
(よし、俺も行くぞ!)
俺は意を決して立ち上がり、さっき机に置いた紙袋を再び抱え直して、男子たちの列の最後尾に並んだ。
前の奴らが次々とプラモデルを提出していく。
「はい、よく出来てるわね。次」
そして、ついに俺の番が回ってきた。
「はい、次。……ん?」
千歳先生は出席簿から顔を上げ、教卓の前に立つ俺を見て、完全に動きを止めた。
青みがかった銀髪。明らかにサイズが合っていない制服からこぼれんばかりの凶悪な胸(Dカップ)。そして、白ストッキングに包まれた艶かしい足。
「あ、あの……これ、口鷺火乃の分です! 提出、します……っ」
俺は上目遣いで、極力女の子らしい(と自分では思っている)声を出して、紙袋から完成品のロボット模型を取り出し、そっと教卓に置いた。
千歳先生は、机の上のプラモデルと、俺の顔と、そして制服のボタンが悲鳴を上げている俺の胸を、順番に三回ほど見比べた。
「…………えっと」
千歳先生の口から、ひどく間の抜けた声が漏れた。
「君……誰?」
大人の女性の、冷静で射貫くような視線。
俺はビクッと肩を揺らし、さっき綾瀬(委員長)に説明した設定をそのまま早口で繰り返した。
「ひ、火乃お兄ちゃんの親戚の、西川ヒナです! 今日は留守番を頼まれてたんですけど、これがないと成績がCになっちゃうって聞いたから、急いで届けに来たんです!」
俺の決死の言い訳を聞いて、教室内の男子たちが「やっぱりいい子すぎる!」「火乃の野郎、羨ましい!」と再びザワザワ騒ぎ始めた。
しかし、千歳先生は周囲の騒ぎには見向きもせず、眉間を指で揉みほぐしながら、さらに困惑した『ジト目』を浮かべた。
「いや、親戚の子がわざわざ忘れ物を届けてくれたのは偉いと思うんだけどね……」
千歳先生の冷たい視線が、俺の『極小サイズの女子制服』へと注がれる。
「なんで君……うちの学校の制服を着てるの?」
「…………へ?」
「しかも、胸のボタン、今にも弾け飛びそうだけど。うちの学校の生徒じゃないわよね?」
「ブッ!?」
俺は顔から火が出るかと思った。
そうだ、冷静に考えればおかしい。親戚の忘れ物を届けるだけなら、自分の私服で来ればいいのだ。わざわざサイズが全く合っていない指定制服(しかも妹のもの)を着てくる理由がない!
(ヤバいヤバいヤバい! 突っ込まれた! どうする!?)
俺の思春期のポンコツ脳が限界を超えて回転し、咄嗟に『この場を切り抜けるための最低最悪な嘘』を口走ってしまった。
「そ、それは……! あ、あの、えっと……!」
俺は顔を真っ赤にして、モジモジと身をよじった。
「火乃お兄ちゃんが、『俺の学校に入るなら、制服を着てないと不審者扱いされるから、妹の制服を着ていけ』って……む、無理やり着せられたんですぅ……っ!」
…………。
…………。
…………。
教室の空気が、凍りついた。
千歳先生の持っていた赤ペンが、ポロリと床に落ちた。
男子生徒たちの顔から、サァーッと血の気が引いていくのが分かった。
「……火乃くんが? 親戚の女の子に、わざわざサイズの合わない妹の制服を……着せた?」
千歳先生が、地を這うような低い声で確認してきた。
「は、はい……っ! なんだか火乃お兄ちゃん、『やっぱり女の子は制服が一番だ』とか、よく分からないことをブツブツ言ってて……」
俺は完全にテンパっていたせいで、火乃(俺)のオタク設定を無駄に付加してしまった。
「あ、あの野郎……!」
「俺たちの陰キャ仲間だと思ってたのに……裏では親戚の爆乳美少女に妹の制服を着せるド変態だったのかよ……!」
「許せねえ……! 次学校に来たら絶対に絞め殺す!!」
男子たちの目には、明らかな『殺意』が宿っていた。
千歳先生に至っては、「あのバカ……明日学校に来たら生徒指導室に連行して、みっちり性根を叩き直してやるわ……」と、ペンの持ち手をボキッとへし折っていた。
(あ、あれ……?)
俺は冷や汗を流しながら、周囲の地獄のような空気を感じ取った。
(もしかして俺……自分の社会的評価を、自らの手で完全な『ド変態シスコン野郎』に突き落としてしまったのでは……?)
『……ふふっ、あはははははっ!』
胸の谷間の奥で、魔力回復のために寝ていたはずのウルミが、腹を抱えて大爆笑している声が聞こえた。
俺の平和な学園生活は、俺自身がついたパニック状態の嘘によって、完全に終わりを告げたのだった。




