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「変態器くん、妹のパンツ似合ってるわよ♡」……成績とオカンが怖いから穿いただけだ!

「……というわけで、私は火乃お兄ちゃんに留守番を頼まれた親戚のヒナなの。分かってくれた?」


「う、うん……まあ、お兄ちゃんの親戚なら、顔が似てるのも納得だけど……」


 七瀬はまだ少し疑わしげな目を向けていたが、なんとか首絞め(ガチギレ)状態からは解放された。

 ヒナはベッドの上でホッと息を吐き出した。


(あぶねぇ……。とりあえず誘拐犯扱いだけは回避したぞ)


 しかし、問題は山積みだ。

 俺が今着ているのは、パツンパツンに伸び切った男物のTシャツと短パン。いくら親戚の設定でも、こんな格好でウロウロするのは変態すぎる。


「な、七瀬ちゃん……その、お願いがあるんだけど」

「何?」

「私、急に来たから着替えがなくて……何か貸してくれないかな? 着なくなった服とかでいいから」


 俺が上目遣いでお願いすると、七瀬はため息をついて自分の部屋へ戻り、数分後に『一着の服』を持って戻ってきた。


「はい、これ。私服はサイズが合わなそうだから、私の学校の予備の制服。これなら少し大きめだから入るでしょ」

「お、おう……ありがとう」


 渡されたのは、七瀬が通う(そして俺も通っている)高校の、可愛らしいブレザーとチェックのスカートだった。


(女物の制服……。俺がこれを着る日が来るなんて……)


 心の中で俺が泣いているが、背に腹は代えられない。

 七瀬が部屋を出て行った隙に、俺は急いで制服に袖を通した。


 ――しかし。


「うっ……! き、キツい……っ!」


 スカートのウエストは驚くほどすんなり入った(むしろ少し緩いくらいだ)が、問題は上半身だった。

 ウルミの奴が勝手に進化させた『凶悪なDカップの双丘』が、ブラウスの胸元を容赦なく圧迫しているのだ。


 胸のボタンが、限界を迎えたワイヤーのように「ギリィッ……」と悲鳴を上げている。

 少しでも深呼吸をすれば、今にも弾け飛んでしまいそうだ。


「着替えたー? ……って、ええっ!?」

 部屋に戻ってきた七瀬が、俺の姿を見て目を丸くした。


「ちょっ、ヒナさん!? なにその胸!? 私の制服のボタン、千切れそうなんだけど!!」

「うぐっ……ご、ごめん! 私もこんなにキツいとは思わなくて……っ」


 七瀬は信じられないものを見るような、そして微かに『敗北感ルサンチマン』を滲ませたジト目で俺の胸を睨みつけてきた。


「……火乃お兄ちゃんの親戚って、みんなそんなに発育いいの? 腹立つわね……」

「(ごめん七瀬……これお前の実の兄貴の胸なんだ……)」

 俺は心の中で土下座した。


 なんとか着替えを終え、俺はベッドに腰掛けた。

(ふぅ……今日はこのまま「親戚の留守番」として、一日中部屋に引きこもってサボるか。学校なんて絶対に行けないしな)


 俺がそう安堵した、その瞬間だった。


 ――ピロリンッ!


 机の上に置いてあった俺のスマホが鳴った。

 画面を見ると、学校の担任教師からのグループメッセージ通知だった。


『生徒各位。本日は【ロボット模型組み立て課題】の最終提出日です。未提出者は、無条件で今学期の成績を「C」とします』


 …………。

 …………は?


(ロボット模型……? ああっ!? しまったあああああッ!!)


 俺は頭を抱えて絶叫しそうになった。

 そうだ、すっかり忘れていた。昨日の夜、配信の前に完成させたあのロボットのプラモ! 今日が提出日だった!


(成績C……!? それだけはマズい! 絶対にマズい!!)


 俺の脳裏に、母さん――口鷺くちさぎ 桃花とうかの顔が浮かんだ。

 普段は優しい母さんだが、成績や生活態度に関しては異常なほど厳しい。


 もし成績で『C』なんて取った日には……母さんは一ヶ月間ガチで口を利いてくれなくなり、この世の地獄のような『ネチネチとした精神的お仕置き(拷問)』が待っている。

 過去に一度だけそれを味わった俺は、あのトラウマだけは絶対に避けなければならなかった。


(クソッ! どうする!? 俺(火乃)は今朝早く出かけた設定になっちまってる!)


 俺が冷や汗をダラダラ流していると、胸の谷間の奥から、あのドS妖精――ウルミの声が脳内に響いた。


『あらぁ、ずいぶんと焦っているわね。ただの学校の課題でしょう?』

(お前には分かんねえよ! うちの母さんがどれだけ怒ると怖いか! あの人、マジで悪魔みたいなオーラ出すんだぞ!)


『悪魔ねぇ……。ふふっ、ならその課題とやらを、今の姿ヒナのまま届けに行けばいいじゃない』

(はぁ!? 俺が!? この姿で学校に!?)


『ええ。親戚の忘れ物を届ける、健気で可愛い女の子。……完璧な言い訳じゃない? ついでに、少しの間その学校に潜入してみるのも面白いかもしれないわね』


 ウルミは俺の谷間の奥で、クスクスと悪魔のように笑った。

 俺は鏡に映る自分を見た。


 はち切れそうな胸元。青みがかった銀髪。明らかに目を引く美少女の姿。


「七瀬ちゃん……」

「ん? どうしたの、ヒナさん?」


 俺は覚悟を決め、震える声で言った。

「火乃お兄ちゃん……学校の超大事な課題、部屋に忘れて行っちゃったみたいなんだ。……私、今からこれ、学校に届けてくる!!」


「ええっ!? ヒナさんが!?」


 と、七瀬が驚いた直後、彼女は壁掛け時計を見て顔面を蒼白にさせた。


「ああっ、ヤバい! 今日私、風紀委員の朝礼当番だった! もう家出ないと遅刻する!!」

 七瀬は慌ててスクールバッグを引っ掴み、バタバタと玄関へ向かった。


「じゃあ私、先に行くからね! ヒナさん、戸締まりしっかりお願いね!」

「あ、ああ……いってらっしゃい」


 七瀬が足音を立てて玄関を出て行くのを見送り、俺は部屋の中で一人、深いため息をついた。

 これで家の中には俺と、胸の谷間に潜むドS妖精の二人きりだ。


『やれやれ。本当にその不格好な姿で外に出るつもり? 私の器として、あまりにも美意識が足りないわ』


 谷間の奥から、ウルミが呆れたような声を出した。

 次の瞬間、胸元から淡い真紅の光の粒子が溢れ出し、俺が着ている七瀬の制服をふわりと包み込んだ。


「うおっ!? なんだ!?」


『少し魔力を使って、生地の構造を調整してあげたのよ。感謝しなさい』


 光が収まると、先程までボタンが千切れそうだった胸元が、嘘のようにピッタリとフィットしていた。

 窮屈さは消え去り、その代わり、Dカップの凶悪な曲線美が制服の上からでもはっきりと分かる、とんでもなくエロティックで美しいシルエットが完成していた。


(しかも、腰回りや太ももが女性特有のふくよかさを得たせいで、本来のサイズよりスカートの丈が明らかに短くなっている……!)


「す、すげえ……魔法って服のサイズ直しもできるのか……」

 俺は感心しながら鏡の前で体をひねったが、すぐに一つの問題に気がついた。


「……スースーする」


 スカートというものを初めて履いた男の感想第一位。とにかく下半身が心許ない。

 足元が冷えるし、何より風が吹いたら一発でアウトだ。


 俺は七瀬のクローゼットを漁り、未使用らしき『白いストッキング』を発見した。

「よし、これを履けば少しはマシになるはず……」


 慣れない手つきでストッキングを足の爪先からたぐり寄せ、太ももまで引き上げる。

 鏡に映る俺の足は、白く滑らかで、ストッキングの締め付けによって太もものお肉が少しだけ『ぷにっ』と乗っかるという、男の夢を具現化したような絶対領域を形成していた。


(……俺、何やってんだろ)


 一瞬、とてつもない虚無感が襲ってきたが、それよりも遥かに深刻で、致命的な問題がまだ一つ残っていた。

 俺は今、制服のスカートの下に……『男物のトランクス』を穿いている。


(このままじゃダメだ。動くたびにトランクスの裾がスカートから見え隠れする。……最悪だ、もし誰かに見られたら、俺は学校中で『トランクスを穿いた変態美少女』として伝説になってしまう!)


 それは、成績をCにされるのと同じくらい、社会的な死を意味していた。


(どうする!? 女物の下着なんて持ってないぞ!?)


 俺がパニックになりながら部屋を見回した、その時。

 窓の外――ベランダの物干し竿に、風に揺れる『それ』が見えた。

 今朝、七瀬が洗濯して干していった、可愛らしい水色のパンティ。


 …………。

 …………。


 俺の脳内で、天使と悪魔が激しい議論を交わし始めた。

『やめろ! 妹の下着泥棒なんて、人として終わってるぞ!』

『でも、トランクスで学校に行ってパンチラしたら人生終了だぜ? 借りるだけだ。後でこっそり洗って返せばバレないって!』


 数分間の、血を吐くような葛藤の末。


「ごめん、七瀬……! 生きて帰ったら、お前の好きなケーキ奢るから……っ!」


 俺は泣きながらベランダに飛び出し、水色のパンティをひったくるように回収した。

 そして、震える手で男物のトランクスを脱ぎ捨て、その小さくて薄い布切れに足を通した。


 ――ピタッ。


(う、うわあああああああっ……!)


 信じられないほど心許ない布の面積。

 お尻の谷間に食い込むような、女性用下着特有のフィット感。

 なにより、『妹のパンツを穿いている』という事実が、俺の高校生……いや、男子高校生としての尊厳を木端微塵に粉砕していた。


『……ふふっ。なかなか似合っているじゃない。変態器ヒナくん♡』

 胸の谷間から、ウルミが腹を抱えて笑っているのが分かる。


「うるさいっ! 誰のせいでこんな目に遭ってると思ってんだ!」


 俺は真っ赤な顔で涙を拭い、ロボットの模型プラモが入った紙袋をひったくるように掴んだ。


(もうどうにでもなれ! さっさと学校に行って、模型を出して、速攻で帰ってくる!)


 俺は人として超えてはいけない一線を越えた絶望と共に、決死の覚悟で玄関の扉を開け、戦場がっこうへと向かったのだった。

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