餃子を包むコツは慣れ
高校に入学した直後くらいの二人。
それは地方のグルメを紹介する旅番組だった。
ソファに身体を沈め、何となく点けっ放しになっていたテレビを、斎さまが眺めていた。昼下がりの休日に観察する斎さまの横顔は、秀麗且つどことなく憂いを帯びているように感じる。しかし、実際はアンニュイな心境ではなく、ただ眠いだけだろう。
付き合いの長さという根拠で確信していた。
「美味しそう……」
ぽつりと、静かなリビングに小さな声が零れる。斎さまを眺めるのに忙しい私も口を閉ざしていたので、その言葉はしっかりと耳に届いた。
テレビの中では、熱い熱い、と最近人気のタレントが、出来立てのそれを食べている。
こんがり焼けた皮の中には、たっぷりの具が入っているのだろう。二時間ほど前に昼食を食べたばかりだというのに、確かに見ているだけで食欲をそそられた。
よって、今日の夕食は焼き餃子に決定したのである。
***
「いいですか、斎さま。具を入れすぎると爆発しますし、少なすぎると物足りないですからね!」
私はハラハラと斎さまの手元を覗き込む。生まれて初めて自らの手で餃子を包もうとする斎さまの手は、どうしてもぎこちない。
スーパーで必要な材料の買い出しをし、餃子を作ろうと意気込んで中身の具を作った。それを皮で包もうとしたとき、私の作業を眺めていた斎さまが、やってみたい、と口にしたのだ。
そのため、現在こうして二人でキッチンに並んでいるのである。
「このくらい?」
「あ、それだとちょっと少ないかも? ……いやでも、慣れない内は少ない方が包みやすいかな。よし、それでいってみましょう!」
左の手のひらの上に餃子の皮を載せ、その上に具を載せて右に握ったスプーンで量を調整していた。私の言葉に一つ頷いた斎さまは、スプーンを置いて指先に水をつけ、餃子の皮の端の部分に付ける。
「準備できましたね! じゃあ、ゆっくりしますよ」
私の語彙力では口で説明できないので、斎さまの前でお手本を見せる。一つずつひだを作っていけば、関心したように目を丸くしていた。
「器用だな…」
「慣れですよ、慣れ。慣れに勝るものはないです」
私が一つ完成させれば、斎さまは自分の分に取り掛かる。私の指の動きを見よう見まねで再現していった。
「……汚い」
そして、自ら完成させた餃子を見て、斎さまは嫌そうに口にする。
ひだは一応作れている。けれど、その大きさがまちまちで、お世辞にも綺麗な出来とは言えなかった。
「初めてですし、こんなものですよ」
料理なんてほとんどしたことがないことを思えば、ひだが作れていれば十分ではないだろうか。完成度を上げようと思えば、どうしても練習が必要になる。
「さ、ほら! 続きしましょう? 斎さまならきっとすぐお上手になりますよ」
私が促せば、包んだ餃子をタッパーに置き、新しい皮を手に取る。その様子を見守っていれば、ふと餃子に集中していたはずの斎さまの目が私に向けられる。
「楽しそう」
「楽しいですよ。一緒に料理するのって何だかわくわくします」
素直にそう告げれば、斎さまは少しばかり不思議そうな顔をして、それから淡く微笑んだ。
その、美しさといったら!悶絶して唸り声を上げそうになる勢いだ。
私が内心興奮している内に、斎さまは餃子に向き直る。その表情は真剣そのもので、喜びと興奮の冷めやらぬ私は、その心のままに口にした。
「だから斎さま、将来の奥様のこともお手伝いして差し上げてくださいね!」
――その、一秒後。
まさか足を踏まれることになるとは、このときの私は想像もしていないのだった。
読んでいただきありがとうございます!
なんかこう、ちょっとしたことを二人でしてくれたらいいなあていうか餃子食べたい、という気持ちで書きました!
楽しんでいただければ幸いです。