# 第9章:鴉の刻印
クラヤミはちょうど風呂を上がったところだった。
いつもの服装はやめ、シンプルなシャツとズボンに着替えると、中央庭園へ向かった。
そこには、彼が待っていた男がいた。
*ようやく……罠にかかった獲物が来たか。*
その男――ドラコ家当主。
「これはこれは……随分と困った状況に陥っているようですね、ドラコさん」
そう言われると、当主は一歩後ずさった。
ゆっくりと深呼吸をし、髪を整えてから、再び立ち上がる。
「まあ、お前が突然実権を握ったことも、その原因の一つだ。お前の兄が王になった後、ルムオス家を解体して、あいつをただの傀儡にする。それで、俺たちが好きなようにやる。最終的には、お前がドラコ家に加わる――それが計画だったはずだ」
クラヤミはくすりと笑い、ドラコの肩に手を置いた。
「ええ、それが計画でした」
「ですが……状況は変わった」
「私と一緒に歩いてください。すべて説明しましょう」
クラヤミとドラコは、ゆっくりと廊下を歩いていった。
「ご存じでしょう、ドラコさん。ルムオス家は、五百年近くにわたる計画の中心にあったんですよ。まさかここまで長くかかるとは、私自身も驚いています。まあ……父が色々と面倒を起こしてくれましたからね」
クラヤミはドラコへ視線を向ける。
「もちろん、あなたは彼らに多くのことを隠していましたね」
「ですが、私は何が起きているのかに気づいた」
「だから、あなた方と手を組むふりをして――」
クラヤミはドラコの部屋の扉を開けると、小さく笑いながら中へ入るよう促した。
「まあ、この先どうなるかは……もうお分かりでしょう?」
クラヤミは笑みを浮かべた。
「それに、運が良ければ……ドラコ家を残してあげてもいいですよ」
ドラコは凍りついた。
先ほどよりもずっと小さく見えた。
顔からは大量の汗が流れ、視界がぼやけ始める。
「お、お前……化け物め! 絶対に協力なんかするものか! 他の家にこのことを伝えれば、お前は――」
突然、ドラコは言葉を止めた。
クラヤミの背後へ視線を向ける。
扉は、まだ完全には閉まっていなかった。
クラヤミは口元を歪めて笑った。
その背後には、不吉な気配が立っていた。
「なるほど。あなたも来ていたんですね」
ドラコの目が大きく見開かれる。
次の瞬間、クラヤミの顔に血が飛び散った。
ドラコはその場に倒れ込む。
シコウの攻撃によって、もはや動くことすらできなかった。
「さて、シコウ。何をしてくれたんです?」
クラヤミは血を拭いながら言った。
「できるだけ綺麗に済ませろと言ったでしょう。これでは怪しまれてしまいますよ」
シコウは立ち上がると、自分の爪を舐め、それからドラコの体を蹴って脇へ退けた。
「問題ない」
シコウは答えた。
「看護師の一人を脅して、こいつを治療させて、全部片付けさせればいい。その後で、そいつらも殺せばいい」
クラヤミはくすくすと笑い、シコウについてくるよう手で合図した。
「ハツメイとは連絡を取れましたか?」
「うん。でも、あいつを何に使うんだ? ただの王族専門の賞金稼ぎだろ。王族から仕事を受けることで知られてるわけでもない」
「心配はいりません。彼はあくまで保険ですよ」
クラヤミはそのまま歩き続ける。
「そんなに深く考えなくてもいい」
「いずれ、すべて分かりますよ」




