第五十五話 再会
第五十五話 再会
思い出したくありませんけど、思い出したのは、婚約破棄された、あの卒業パーティーの夜。
レオンハルト殿下はヒョロガリクソモヤシの身体に金銀の装飾がずっしりと重そうなキラキラしい衣装をまとって、私を嘲る傲慢な笑みを浮かべておりました。
あれから、そろそろ一年になりましょうか。
今、目の前にいるレオンハルト様は。
ジミとか質素というほどではありませんが実用的な第三師団の制服に身を包み、無言無表情で私を見ています。特に威嚇したり、あの時のように蔑むような言動はありません。
ただ。
どう見ても体積が、最後に見た時の二倍くらいになっています。身長は変わっていないでしょうけども、腕や脚の太さとか肩回り、胸囲など、猛々しい筋肉が盛り上がり、別人のようです。いったい何をどうやったら、ヒョリガリのモヤシ男がこんなゴリマッチョ筋肉ダルマになるのでしょうか。
後でセビーに訊いたら、筋トレには初心者ボーナスというのがあって、最初の一年というのは最も筋肉が付きやすく、著しい変化が得られるそうですが。
事前の打ち合わせで、私はマイヤー老人の孫という設定にしていただいてあります。両親が病死して、祖父母であるマイヤー夫妻に引き取られたことにしてあるのです。ですから今の私はリーゼロッテ・マイヤーです。
内心の緊張を押し隠し、父からのいくつかの質問に答えます。
「生まれは?」
「北側の村です」
「あの村では、教師になれる高等教育は受けられないのでは?」
どこの領地でも、領都以外の場所では高等教育は受けられません。
「幼い頃から、祖父の教えを受けまして」
言葉を交わしても、父は私を、行方不明の娘だとわからないようです。姿かたちは変わっても、声は変わっておりませんのにね。
「アース・ドラゴン様とは、いつ出会ったのか?」
「一年ほど前、です」
「なぜ、貴女がアース・ドラゴン様に選ばれたのか?」
「わかりません」
「加護が付いたのだと自覚しているか?」
「いいえ」
別室で、王宮の女官長によって全身をくまなく調べられました。初めて会った中年女性に身体を隅々まで調べられるのは屈辱ですが、必死で我慢しました。
「加護紋はありませんでした」
女官長が言明しました。実際、私の身体には加護紋はありません。
「アース・ドラゴン様をここに呼ぶことは可能か?」
「いいえ」
「それは何故だ?」
「あくまでアース・ドラゴン様の気まぐれなご厚意の、恩恵に浴しているだけの身です。こちらからなにかを願うなどという恐れ多いことはできません。呼びつけるなど、もってのほかでしょう」
私の返答に、父はムッとしたように鼻に皺を寄せます。
「シュタールベルク伯。アース・ドラゴン様に御目通りを願いたい」
「お伝えしましょう。私もいつ会えるかわかりませんが」
「どこにおられるのか、わからないのか?」
「わかるはずありませんでしょう。お好きな時にお好きな場所にいらっしゃいます。気が向けば会いに来てくださいますが、呼びつけるなんて恐れ多いことはできません」
実は、この部屋の中に、メルさんはいます。私達の会話を、すべて聞いています。
この新しい領主館はメルさんが魔法で切り出した石材で作られているのですから、石の中に潜んでいることなど朝飯前でしょう。
木で鼻を括ったよう、というほどそっけない対応をしたわけではありませんが、あくまでアース・ドラゴン様が気まぐれに与えてくださったものを有難く頂戴しているだけで、こちらからあれが欲しいこれが欲しいとおねだりしたわけではないのだ、という姿勢を、徹底してアピールしました。実際にはメルさんにお願いしたこともある身としては、居た堪れませんでしたけど、ここは腹に力を入れて、設定を言いとおすしかありません。
ここまでお読みいただき、どうも有難うございました。
次回、第五十六話 疑惑【レオンハルト視点】




