第五十話 可愛い水着
第五十話 可愛い水着
この世界における水着は、正確には浴衣(ユカタ、ではなくて、あくまでヨクイ)です。王都では公衆浴場などで、脱衣所と洗い場を行き来する時に羽織ったり、浴槽に浸かる時にまとっておりました。
しかしこの大きな露天温泉には、前世の銭湯のように男女それぞれ別の、独立した洗い場と内湯があって、水着を着るのは露天温泉だけです。洗い場はしっかりと身体を洗うための場所ですし、内湯は異性がいませんから、洗い場と内湯は全裸です。
だから。
「前世で主流だったような可愛い水着があってもいいと思わない?」
メルさんに言うと、ジロリと睨まれました。
「お前が着るのか?」
「あんまりハデなのは、嫌だけど」
セパレートタイプであまり露出度の高くない、脱ぎ着が簡単で可愛い水着だったら、あったらいいなと思います。
「男用もか?」
「男の人たちは、今のままでいいんじゃない?」
前世の、長短はあるにしても下半身だけの男性用の水着は、あまり気分のいいものではありませんでした。毛深くない人はいいのですけど、胸とか背中にモジャモジャ毛が生えている男性は、水中専用の上衣があればいいのにと、思ったものです。だから私が地縛霊になってから後、ラッシュガードが世に出回った時には、もっと早く普及していたらよかったのに、と、すごく思いました。
この世界の浴衣は、袖無し上衣と半ズボンの、ゆったりした上下なんですね。前世の競泳用とかブーメランタイプの男性用の水着よりも、とてもいいと思います。泳ぐのではありませんから、ラッシュガードのように体にぴったりしている必要は無いのでしょう。
女性用も似たようなもので、飾り気がなく、簡素で素朴です。透けないようにという配慮なのか、黒や茶色など濃い色の生地でできています。ただ、どうしても水に濡れた布が貼りつくので胸の形がまるわかりです。どうにかして、胸の形をぼやかすというか、ごまかせたらいいなと思います。ハデにする必要はありませんけど、柄物にするとか、少しだけ可愛いデザインにしたらいいのではと思いました。
木綿や麻に似た生地で作られていますが、ガーゼなどのものもあって、着心地で選ぶようですね。でもやわらかい生地であればあるほど、濡れて貼りつくと胸の形がわかってしまいます。
生地の裏側に細いゴム紐を縫い付けてくしゅくしゅっとギャザーを寄せ、胸を締め付けないようにふんわりと包むようにするのはどうでしょう。胸の形が分かりにくいように。
王都の貴族はドレスを着るためにコルセットで胴を締め上げ、胸を押し上げて強調しますけど、温泉に入るのはリラックスするためなのですから、締めつけずゆったりできるものがいいはずです。そして異性の視線を気にしないでいられるなら、そのほうがリラックス効果も上がるのではないでしょうか。
ある程度イメージができたので、ハンナに相談しました。
ハンナは喜びました。
「それはいいですねえ! おそらく皆さん、欲しがると思います」
まずは自分用とハンナ用を試作して、お試しということで、露天温泉に行きました。内湯で身体をキレイに洗ってから、試作品の水着を着て露天温泉へ。
ロミーちゃんや生徒たちとそのお母さんたちが、すぐに寄ってきました。
「いつもお世話になっております」
「先生! 水着、可愛い!」
挨拶よりも先に食いついてきました。ロミーちゃんのお母様が。フロリアンさんのお母様でもありますけど、成人した息子さんがおられるなんて信じられないくらいに若々しくておキレイな方です。
「その水着は、お手製ですか?」
試作品です、と言うと、他の皆さんも寄ってきました。やっぱり、濡れた浴衣が張り付いて胸の形がまるわかりなのは、皆さん気になっていたようです。
その後、試行錯誤を繰り返し、巨乳の人向けは暗い色で、微乳の人向けには外側にフリルを付けることによって、かなり胸の形がぼやかせる物ができました。
その証拠に、温泉チェスでの勝率に変化があったのです。チェス盤を挟んでいても、向かい合っている男性から胸を見られることが不快で、今まであまり温泉チェスに積極的ではなかった女性たちが、胸に異性の視線が来ることを気にしなくてもよくなったので、対戦するようになり、しかも勝つようになったのです。
男性は男性で、女性に負けたくないという意識があるのか、チェス盤に集中するようになって、女性の胸を見ようとしなくなったようです。
結果、脳に蓄積した瘴気がデトックスされる効果が上がったようで、認知症の症状が改善されたお年寄りが増えました。
ここまでお読みいただき、どうも有難うございました。
次回、第五十一話 王都の不安【王妃クレスツェンツ視点】




