第四十九話 可愛いメイド服
第四十九話 可愛いメイド服
セビーの提案で、露天温泉の片隅に飲食コーナーが設けられることになりました。湯治客向けですから、街中の飲食店よりも値段は高めです。
そこをはじめ、露天温泉と宿泊施設で働くことになった女性達を見ていたロミーちゃんが、あどけない顔をしかめてハンナに言いました。
「なんか、ハンナさんに比べて、立ち姿とか動き方がカッコ悪いなあ、って思うの」
その理由はすぐにわかりました。
露天温泉の受付や宿泊施設で働くことになった女性達は、ほとんどが農家の出身で、接客などの経験がありません。この世界では仕事の内容についての研修なんていうものはありませんから、先輩職員の仕事を見て憶えるしかないわけですが、職場自体がまったくゼロからスタートする新しい場所ですから、先輩職員がいません。なにもかもが手探りのスタートなのです。
飲食コーナーの女性職員たちは、トレンチを運ぶ時に猫背になっていたり、お辞儀もペコペコといった感じで品が無く、歩く時にもばたばたと音を立てて歩くので、ロミーちゃんはがっかりしたのでしょう。商家の女性や下級ではあっても貴族の女性など、多少なりとも挙措動作の教育を受けた女性であれば、多少は立ち居振る舞いを身に付けているかもしれませんが、農家の娘にそれを求めるのは酷でしょう。
「ハンナ、出番ですわ」
全員まとめては無理ですが、交代制で、ハンナによる立ち居振る舞いの研修を受けてもらうことにしました。トレンチやサルヴァを運ぶ時、猫背にならないように背筋を伸ばして、音を立てずに歩くことや、お辞儀の角度や速度などの挙措動作の指導をするのです。淑女教育ほどのレベルではありませんが、きちんと実践すれば、ロミーちゃんが失望しない程度にはなるでしょう。
「お嬢様もご一緒に」
「ええっ、私は子供のころからさんざん淑女教育を受けていたのですから、もうお腹いっぱい・・・」
「誰が受けろと言いましたか? まがりなりにも教師でいらっしゃるのですから、教える側に立ってください」
えええ・・・、教師は塾講師のアルバイトくらいの認識で、まだ自分の正規のお仕事という自覚に乏しく・・・。
ロミーちゃんの期待に満ちた眼差しを裏切れませんので、ハンナがメイン講師、私はアシスタントの立ち位置で、挙措動作の研修を行いました。
背筋を伸ばしてまっすぐに、と言われると、なぜかそっくり返った姿勢になる人が必ずいるのですよね。私はそういう人の姿勢をそっと修正してあげたり、肩に力が入り過ぎている人に肩の力を抜いて顎を少し引くように指導して回りました。
ロミーちゃんはまだ子どもですから働いているわけではないのですが、嬉々として真似をしています。将来、ハンナのような完璧なメイドになりたいと言っていますから、学校の授業よりもはるかに熱心で、笑ってしまいました。
「高位貴族の家のメイドになりたいのだったら、お勉強もしないとダメなのよ?」
「はいっ」
目をキラキラさせて返事をするロミーちゃん。
「・・・あ」
それを見ていて、思いつきました。
従業員の女性に、お揃いの制服を着て働いてもらうのはどうでしょう?
ハンナのようなメイドになりたいロミーちゃんには、メイド服への憧れがあるのではないかと思うのです。もちろん、ロミーちゃんを喜ばせるためだけではありません。お揃いの制服は、職場環境にも張りをもたらすはずです。
王都の高位貴族の家のメイドは、紺やこげ茶のワンピースに白いエプロンですけれど、ここは辺境ですし、貴族のお屋敷でもありませんから、もう少し遊び心があってもいいのではないでしょうか。
ハンナに言うと、私が着るのではないことを何度も確認された上で、飲食コーナーで働く比較的若い女性にはスカート丈が少しだけ短い形で水色、宿泊施設の中で働く既婚女性にはスカート丈が長めでグレーのクラシカルなものにしてはどうかということになりました。飲食コーナーは屋外で露天温泉に近い、いわばプールサイド的な環境ですから、スカート丈が長いと濡れてしまいます。だから膝下くらいのスカート丈がいいと、ハンナは判断したのでしょう。
メイドカチューシャやエプロンは統一で、と思いましたが、スカート丈が長めのクラシカルなメイド服には丈が長めでフリルもやや控えめのエプロン、スカート丈短めの水色には、少し丈が短くてフリルがやや多めのエプロンを合わせました。あくまでやや多め、です。フリルが多すぎても品がありませんし、お仕事の邪魔になるようでは困ります。
ヘルマン様と商業ギルドに相談して、街の衣類工房の中でも高級品ではなくて兵士の制服や日常着などを主力商品にしているところを紹介してもらいました。ヘルマン様の領主館のメイド服を作っている工房なので、話はスムーズに進み、領主館と同じに従業員一人当たり四着(半袖と長袖をそれぞれ二着ずつ)作ってもらうことになりました。
メイド服を見たロミーちゃんは、手を叩いて喜びました。
「すっごい可愛い! リゼ先生も着る?」
うっ、やっぱり言われてしまいました。
「私は教師だから、メイド服は着ないわ?」
もう公爵令嬢ではないのだから、着てもかまわないのでは、と思いますけれど。
そしてロミーちゃんのような穢れ無き憧れではなくて、ヨコシマな願望で、私にメイド服を着させたい輩が一匹。
「リゼ! メイド服を着て、お帰りなさいませ、ご主人様、ってやってみせろ!」
メルさん、私が地縛霊だった時、眷属のミミズの目を通して世間の何を見ていたのですか? まさか地面の中から、世間の女性のスカートの中を見ていたとか、言わないですよね?
ここまでお読みいただき、どうも有難うございました。
次回、第五十話 可愛い水着




