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第五話 前世


第五話 前世


 ちいさい、と言っても猫くらいでしょうか。身体の大きさと翼の大きさが、あきらかにつりあっていません。猫の背に蝙蝠の翼・・・、翼というよりも羽がついているようなサイズ感です。

 その羽でパタパタ飛んで、ドラゴンは私の肩にふわりと舞い下りました。ほとんど重さを感じません。大きさは猫くらいですが、重さとしてはインコくらいです。


「リゼ! 会いたかった!」


ちいさなドラゴンはそう言って、私の頬にグリグリと顔や身体を押しつけてきます。サイズは猫ですけど、猫のようなもふもふではなくて硬い鱗なので、けっこう痛いです。


「なんで転生したのに前世のままの姿なんだよ?」


「は? え?」


前世。


 私は神田愛由香というJKで、学校で酷いイジメに遭っていました。親に言っても教師に言っても誰も助けてくれず、痛くてつらくて悲しくて自殺したのです。

 神田愛由香は、顔がジミでした。ジミですが成績がよくて、T大理学部を目指していました。地震研究所で活断層の研究をするのが目標でした。都内でも有数の進学校で、テストではいつも首位争いをしていました。同じ首位争いの男の子からつきあってほしい、一緒に勉強しようと言われましたが、ひとりで勉強したいタイプだったので断りました。そうしたらその男の子のグループの女の子達から、ジミなのに成績がいいなんて生意気だと言われ、教科書やノートを破られたり切られたり、トイレに棄てられたりしました。お弁当にゴミや虫を入れられたり、校舎裏に呼び出され、殴られたりお金を取られたりしました。有名な進学校でイジメなんてあるはずがないと、誰も信じてくれませんでした。まだ二十世紀でしたからスマホが無い時代で、証拠を残すこともできなかったのです。


 あんな前世、思い出したくありませんでした。


 山賊から助けてくれたことには感謝しますが、つらかった前世を思い出させたり、会いたかったとか、いったいこのちいさいドラゴンは何者なのでしょうか。


「助けてくださってありがとうございます。アナタは、ひょっとして私を加護してくださるドラゴンなのですか?」


そう訊ねると、ドラゴンはひどく驚いたようでした。


「リゼ、・・・俺のこと、憶えてねえのか?」


悲しそうに問われて、とても申し訳ない気持ちになりますけど、でも、どこのどなたなのでしょう? JKだった時のイジメっ子が転生してドラゴンだったりしたら、ものすご~く嫌ですけど?


「JKだった前世の記憶なら、さっき思い出したみたいです。全部じゃありませんけど。でも・・・」


思い出した前世の記憶は、JKだったことと自殺して地縛霊になった間のことだけですから、二十世紀末から二十一世紀初頭の東京です。ドラゴンがいるような『剣と魔法の世界』ではありません。


 それを言うと、ドラゴンのシッポと眉? が、悲しそうにしょぼんと垂れ下がりました。犬みたいで可愛いです。


「思い出したんじゃねえのか・・・」


「ごめんなさい。でも、アナタは私を知っているのですね?」


リゼ、と私を呼ぶということは、私が神田愛由香だった前世ではなくて、リーゼロッテとして十八年間生きてきた私を知っているということでしょうか。それとも今のこの人生とは別に、リーゼロッテと呼ばれていた人生があった、ということなのでしょうか。


「知ってるっていうか・・・」


あんまりにも悲しそうにされると、心が痛みます。


 「あの・・・」


「なに?」


「お名前を、お聞かせ願えますか?」


名前を教えていただけたら、なにか思い出すかもしれません。

 ちいさなドラゴンはなんともいえない、せつなげな眼で、私を見て言いました。


「メルキオール。・・・お前はいつも、メル、って呼んでくれていた」


メル、メル・・・。心の中で復唱しますが、残念ながらまったく心当たりがありません。


 戸惑う私を見て、メルキオールは言います。


「神田愛由香だったことは、思い出したんだな?」


「あ、はい」


「地縛霊になっちまっていたことは?」


「はい、思い出しました」


「だったら、ミミズがそばにいたの、憶えてねえか?」


「・・・あ」


言われてみれば、いました。ミミズのミーくん。地縛霊になってしまって動けなくなった私の気持ちを、研究したいと思っていた活断層に伝えに行ってくれたのです。何度も何度も。


「あのミミズ、俺の眷属だったんだわ」


「そうだったのですか」


言われてなるほどと思いました。普通のミミズは、地縛霊から活断層への伝言はできませんよね、たぶん。



ここまでお読みいただき、どうもありがとうございました。


次回、第六話『メルキオール 1』

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