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第四十七話 身勝手な竜 2 【メルキオール視点】


第四十七話 身勝手な竜 2 【メルキオール視点】




 バルの奴のお気に入りのセバスチャンが、まさかリゼの生まれた家の執事だった。ひでえ冗談だ、手の込んだ嫌がらせだろ。


 ひさしぶりに会ったセバスチャンを睨みつけたが、蛙のツラに水だ。くそっ、可愛いとか言ってんじゃねえ! バルのお気に入りに撫でまわされるとか、屈辱以外のなにものでもねえ!

 犬や猫じゃねえんだ、アゴの下を掻くな! 気持ちよくなっちまうだろうが!

 神田愛由香の記憶しかないリゼに、余計なことを言うな!


 俺はセバスチャンが嫌いだ。それはもちろん、バルが嫌いだからだ。


 アース・ドラゴンは自身の属性以外の魔法も、使おうと思えば使うことができる。火とか水とか氷とかな。しかし唯一、風の魔法は苦手だ。使えなくはねえけど、せいぜいそよ風、全力を振り絞ったとして、ちいさなつむじ風程度。時空の隙間をこじ開けたり、次元を超える魔法は、真似できねえ。ああん? 僻んでるわけじゃねえぞコラ。


 そして、セバスチャンは思い違いをしている。


 加護とお気に入りは違う、そこまでは正しい。

 でも、バルの奴がいくら多情で気分屋でお節介で好奇心が強くて人間が大好きな節操無しでも、誰彼構わずお気に入りにしているわけじゃねえ。俺が知る限り、お気に入りはセバスチャンひとりだ。

 その証拠に、前世の俺に会いに来た時にも神田愛由香を見に行った時も、連れて来たのはセバスチャンだけだ。他の人間を連れて旅したことなんか無え。


 そもそも時空や次元を超えるのは、ウインド・ドラゴン単体でもべらぼうな魔力を使う。人間を連れて行くとなったら、その数倍だ。誰でもホイホイ連れて行けるわけじゃねえんだ。


 それなのにセバスチャンは、バルにはセバスチャン以外にも大勢のお気に入りがいると思い込んでいやがる。お気に入りは加護と違って、竜紋もなにも出ないから、わかりにくいっちゃわかりにくい。


 それでも。


 バルがあっちこっちフラフラ飛び歩いて、誰彼構わずお気に入りであるかのように助けて歩いているのは、バル自身の意思ではない。


 バルを動かしているのは、誓約だ。

 竜にとって、誓約はとても神聖なものだ。違えれば寿命や魔力を削られる。・・・魔力はともかく、千年以上の寿命を十年や二十年失ったところで、痛くもかゆくもないけどな。




 バルは博識だ。たぶん竜の中でいちばん物知りだろう。そして知識欲というのは、際限が無い。人間は寿命が短いから、ジャンル分けとか学校卒業とかで区切りをつけるけど、竜はなまじ長生きだから、やろうと思えば無限に学び続けることができてしまう。


 バルは底無しの好奇心を満たすために、次元や時空を超えて旅ができる特別な魔法を得た。そのかわりに、行った先で困っていたり苦しんでいる人間を、助けなければならない。そういう誓約を、神と取り交わしたのだ。


 だからバルがあっちこっちで人間を助けているのは、お気に入りだからではない。しかしセバスチャンの目には、気に入って助けているように見えているらしい。


 そもそも彼奴、今、どこ行ってんだ?


 最後に会ったのは、いつだったか。


 彼奴が、加護を与える存在を見つけたって、言ってた時だったか。

 それってつまり、リゼのバーサマのアウレリアを見つけた時、ってことだよな。




 「メルさん、葡萄、食べる?」


リゼが籠一杯の葡萄を持って来た。


「食べる」


大きくて甘い葡萄を、リゼが口に入れてくれた。


「種、出してね」


「出さねえ」


種にも地のエナジーが凝縮してるからな。なんで出さなきゃならねーんだ、もったいねーじゃねえか。


「種も食べちゃうの?」


「うん」


人間は、種は食べられないだろう。

 俺はリゼの髪をちょいちょいとひっぱった。


「口開けろ」


リゼの口元に顔を寄せて、舌先で口の中から種を取って喰う。種を喰うよりもリゼのくちびるのほうが甘い。

 種を喰い終わった俺の口に、リゼがまた葡萄を入れる。

 しばらくはそうやって、葡萄を喰った。


「ねえ、メルさん」


「ん?」


「バルさんって、どんな竜なの?」


どんな・・・? どんな、って、どういうこった?


「お前のバーサマを加護してるウインド・ドラゴンだよ」


「アウレリアお祖母様から、どんな竜なのか教えていただいてないわ」


「たぶん・・・、ほとんど一緒にいなかっただろうからな」


アウレリアって女は、この国の王女として生まれた。現国王の叔母だ。生まれた時から蝶よ花よと大事に大事にされた女で、竜が加護を与える必要なんか無いであろう恵まれた境遇にあった女だ。


 だからバルは、加護を与えたアウレリア自身によりそうんじゃなくて、アウレリアの願いを叶えることに尽力した。アウレリアの願いは、悲しい目やつらい目に遭っている人が一人でも少なくなりますように、というものだったから、誓約とは別にこっちでも人助けに飛びまわったのを、俺は知っている。セバスチャンは知らないかもしれねーけどな。


 ただ、竜の人助けってのは、かならずしも人を幸せにするとはかぎらねーんだ。リゼやセバスチャンには、わかりにくいかもしれねーな。


「セビーは、そのウインド・ドラゴンのお気に入りってこと?」


「うん」


そのセバスチャンが、シュタールベルクに帰ってきた。ということは、ひょっとして、バルの奴も来やがるのか?



ここまでお読みいただき、どうも有難うございました。


次回、第四十八話 手腕

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