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第四十二話 もっともっと大きなお風呂 4


第四十二話 もっともっと大きなお風呂 4




 冒険者や隊商などの旅人は大半が男性で、女性は多くありません。まったくいないわけではありませんが、魔力が多くて戦闘魔法が使えたり、護衛を雇えるような裕福な身分でもない限り、女性が旅をすることはほとんど無いのです。ましてやシュタールベルク辺境伯領は文字通りの辺境で、山を越えれば隣の国ですから、王都と領地を行き来する貴族が通過することもありません。東の隣国と、さらにその先の東方諸国に行く人々しか通らないのです。


 東方諸国には、ダンジョンがたくさんあります。未知未踏のダンジョンを目指す、あるいは戦果を挙げて凱旋する冒険者のパーティーが旅人として通過、宿泊します。東方諸国でしか手に入らないダンジョン産の稀少な品々の買い付けに向かう隊商、それからたまに、外交使節団なども往来しますが、いずれにしても女性はほとんどいなかったのです。


 領都の手前で分岐して北へ延びる街道の先には、北方諸国があります。こちらには、古い巨大ダンジョンが崩落した大峡谷があって、数年おきにスタンピードが発生します。二年で発生することもあれば、十年以上発生しないこともあります。途中の村は森から発生する瘴気に苦しめられておりましたが、最近は瘴気の発生回数が減ったそうです。


 分岐から領都までは馬車で三、四時間です。ちょっと足を延ばして温泉に・・・、というには、逡巡する距離でしょう。


 ですから瘴気をデトックスする温泉がこんなに噂になってたくさんの人が訪れるようになるなんて、完全に想定外だったのです。


ましてや、女性が来るなど。


まあ、貴族の令嬢はイケメン辺境伯であるヘルマン様に恋いこがれて、湯治を口実に訪れるのかもしれませんが。




 河原にあった時も領主館の庭に移設してからも、男性用の露天温泉は広く開放感があって、評判は上々でした。有料になったことも、施設の維持管理費として当然だと、すんなり理解を得ることができました。


 しかし、別の声が上がり始めました。

 女性達から、自分達も広い露天温泉に入りたいという要望が寄せられたのです。無理もありません。女性用はさして広くない上に、地獄釜の調理場とひとまとめになっていて、日々の生活の一環として身体を洗って料理をする場所で、湯治客が入るなんて完全に想定外の作りです。露天温泉に比べて狭く、薄暗い建屋の中です。ひらたく言って、王都のちょっと裕福な平民の家の内風呂に毛が生えた程度の代物です。あくまで実用のための作りで、風情もへったくれもありません。


 女湯は男に覗かれないようにすることが必須でしょう。しかしそのためには、高い塀や壁で囲わなければなりませんから、女性用の露天温泉は無理なのではないかと思いました。


 メルさんも同じ意見です。もっとも、メルさんの場合は、女性用露天温泉に反対する理由がとても直接的です。


「地元のババア達や余所者の女がハダカを見られるのなんか、どうでもいいんだよ。でも、リゼだって露天温泉があれば入りたいって言い出すだろ。リゼのハダカをクソ男どもに見られるのは、絶対にダメだ」


領民旅人問わず、すべての男の目ん玉を全部潰してもいいんなら、女用の露天温泉を作ってやらあ、とまで言います。お願いだから潰さないでください。


 そんなわけで、女性用の露天温泉は無理、しかしせめてもう少し大きくてゆったり入れるようにしてはどうかという方向性で、話がまとまりかけました。


 「ちょっと待ってください」


ヘルマン様が声を上げます。


「それでは不公平でしょう。やはり女性用の露天温泉もあって然るべきです」


ヘルマン様はしばらく前に牛馬用の露天温泉を拡張した時に私と交わした会話が、ずっと頭に残っているのだそうです。


「水着を着て入るプールなら、男女一緒でも問題無いのではありませんか?」



ここまでお読みいただき、どうも有難うございました。


次回、第四十三話 もっともっと大きいお風呂 5

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