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第四十話 もっともっと大きなお風呂 2 【フロリアン視点】


第四十話 もっともっと大きなお風呂 2 【フロリアン視点】




 瘴気をデトックスする効果が高い温泉目当てに湯治に来る冒険者が増えてきました。人が多く訪れれば経済が回るので、それはまあ、悪くはないのですが、トラブルが増えて、治安を守る憲兵としては、悩ましいです。


 リーゼロッテ嬢とメルキオール様がお知恵をくださったので、宿屋と露天温泉にはルールや規約を浸透させる努力が図られました。

 しかし、一朝一夕にトラブルがまったく無くなるわけはなく、ちいさなトラブルは日常茶飯事です。憲兵が目を光らせていても、なにかしらのトラブルは起きるものです。


 その日のトラブルは、露天温泉にそこそこ近く、行商人の常連客が多い宿で起きました。三日の予定で投宿した冒険者のパーティーが、露天温泉が気に入ったから急遽延泊すると言い出したのです。

 宿の女将さんは困りました。三日だけだと言うから受け入れたのです。常連客が来ることになっているので、予定外の延泊は困ると言っても、この部屋が気に入ったから動きたくないの一点張りです。経営者が女性なので、侮っているのでしょう。


 女将さんは逡巡したそうですが、設置したばかりの魔石の通報システムで憲兵を呼びました。


 私とカールが部下を連れて出動しようとしていたところに、リーゼロッテ嬢と私の妹のロミーが手を繋いで屯所に姿を見せました。メルキオール様も一緒です。


「お兄ちゃん、迎えに来たよー」


「ロミー、済まない。お兄ちゃんは仕事だ」


リーゼロッテ嬢と一緒に屯所で待っていてほしいと言うと、ロミーとリーゼロッテ嬢は素直に頷きますが、メルキオール様が不機嫌そうに鼻に皺を寄せてガンつけてきました。


「お前、リゼを待たせるたあ、いい度胸だなァ」


私を威嚇するメルキオール様を、リーゼロッテ嬢が止めてくださいます。


「メルさん、そんなこと言わないで。お仕事なんですから」


リーゼロッテ嬢の腕の中で、メルキオール様は私を小ばかにしたように言います。


「せっかくのデートなのに待たせるとか、男として終わってるぞ」


「えっ、フロー、メルキオール様とデートするのか?」


見当違いなことを言うカールに、私は呆れて言いました。


「なんで俺がメルキオール様とデートするんだよっ」


ロミーがカールを見上げて言います。


「カールさん、メル様はねえ、リゼ先生とデートするんだよ。それでねえ、お兄ちゃんはあたしとデートするの」


正しくは、リーゼロッテ嬢とメルキオール様のデートの護衛を仰せつかっているのです。もっと言わせていただくなら、最初はリーゼロッテ嬢とうちのロミーが美味しいケーキ屋さんに行くだけのはずだったのです。メルキオール様が俺も行くと言い出したのでヘルマン様に、じゃあフロー護衛ヨロシクね、と言われてしまった、というのが正確なところです。メルキオール様がおられるのでしたら、私などいなくてもいいのではないかと思うのですが。


「しょうがねえ、一緒に行ってやる」


「えっ?」


「お前、どんくさいからな。護衛が警護対象を待たせるとか、言語道断だ。さっさと案内しろ」


 メルキオール様と一緒に到着した時、件の冒険者パーティーは、チェックアウトして欲しいという女将さんをぞんざいにあしらって露天温泉に行っていました。仕方が無いので河原まで行こうとすると、メルキオール様は、リゼを待たせたくねえ、さっさと済ますと言って、シュッとシッポを振りました。


 すると。


 ぎゃああああーっ、という汚い悲鳴が複数、遠くからものすごい勢いで近づいてきたかと思うと、旅館の前の天下の公道に全裸の男が四人、どすんどすんと落ちてきました。どうやら、件の冒険者パーティーの面子のようです。女将さんの顔を見ると頷きました。

 身体が濡れています。おそらくメルキオール様の魔力で、露天温泉からここまで宙を飛ばされて運ばれてきたのでしょう。


「おいっ、てめえら! 宿の規約が守れねえんだったらシュタールベルク領には立ち入り禁止だ! 出て行け! 二度と来るな!」


カールが突然、通常時と人格が違ったかのようなガラの悪い言葉遣いと口調でどやしつけます。ぎょっとして目をやると、案の定、メルキオール様がカールの頭に乗っています。焼成煉瓦用の窯を作った時のように、『頭を借りて』いるのです。声はカールの声なのにしゃべり方はメルキオール様の無頼な口調である状態は、何度聞いても違和感がすごいです。

 いい気分で温泉に浸かっていたのに、いきなり魔法で温泉から上空へ飛ばされ、全裸のまま路上に叩き落とされて、メルキオール様の口調で激しく恫喝されて、冒険者たちは理解が追いつかないようです。全裸のままで腰を抜かして、茫然とカールとその頭の上のメルキオール様を見ています。


 私は落ち着いた声で命じました。


「ここは天下の往来です。股間の粗末なものを隠しなさい」


普通だったら粗末じゃねえとか激昂して言い返すのかもしれませんが、アース・ドラゴンと武具を携帯した憲兵がいて通行人もたくさんいて、自分自身は衣服も所持品も無い状態では、どんなに勇猛な冒険者でも、蹲って股間を隠そうと身を縮めるしかありません。


 後から聞いたことですが、冒険者達には、メルキオール様はご自身の姿を変えた幻覚を見せていたそうです。猫くらいの大きさのあのお可愛らしい姿ではなく、強大にして禍々しい、原初の御姿の幻覚を見せていたのだそうです。


 宿代を支払わせ、露天温泉のルールや宿の規約を遵守して、二度と宿に迷惑をかけないことを誓わせ、解放してやりましたが、この程度のトラブルでメルキオール様のお手を煩わせてしまったのは、申し訳ないなと思いました。



ここまでお読みいただき、どうも有難うございました。


露天温泉をもっと大きくするエピソードなのですが、なかなかそこまでたどり着かなくて申し訳ないです。


次回、第四十一話 もっともっと大きなお風呂 3

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