第三十七話 厄介な旅人 3【メルキオール視点】
第三十七話 厄介な旅人 3【メルキオール視点】
フーデマンとかいうゲス野郎への対応について、ヘルマンから相談された。
俺の存在を、知られてもいいか、それとも知られないようにすべきか。
平民に知られるのは、構わない。領民でも冒険者でも行商でも。彼らは純朴で、ドラゴンは自然を司る神なのだと崇めてくれるだけで、ドラゴンを煩わすようなことはしないからな。
しかし貴族や王族に知られるのは、面倒だ。あわよくば自分が加護付きになりたいとか、自分の領地に来てほしいとか、もっと腹立たしいのになるとドラゴンの力を利用して他国を攻め滅ぼしたいとか、我欲剥き出しできゃんきゃん騒いで、ウザい。
でも、隠したっていずれは知られる。
それよりも、リゼをそのゲス野郎の目に触れさせたくねえ。
リゼは自分が、かつて俺と過ごした時の容姿にもどったんだ、って自覚が、イマイチ無え。鏡に自分の姿を映せば、ああ変わったんだったっけ、と思い出すらしいが、ふだんは王都でジミだと言われていた時のままの認識っぽい。どんな男でも虜にする容姿になった、その自意識が無い。
リゼの本当の姿は俺だけに見えるようにしておけばよかったかな。そうすればヘルマンの奴も求婚なんかしなかっただろうし。
でも可愛いリゼがジミとか言われて軽く扱われるのもムカつくんだよなあ。俺の可愛い嫁は世界一の美女なんだから、見せびらかしたい、でも、誰にも見せないで仕舞い込んでおきたい。どっちも本音なんだよ。
リゼをフロリアンの家に行かせて、ヘルマンはゲス野郎を領主館に宿泊させた。リゼはロミーちゃんと明日の朝、一緒に登校すると言って、喜んでいた。ヘルマンの奴は、本当だったら寝たきりの父親をいっとう最初に、完成したばかりの自宅温泉に入れてやりたかったんじゃねえのかよ、ゲス野郎を最初に自宅温泉に入れてやるとか、マジかと思った。そこまでもてなしてやらなきゃならねえほどの奴なのか?
ヘルマンみたいにしっかり鍛えている身体でも、男のハダカなんざ見たくもねえのに、ゲス野郎の贅肉ダルダルのだらしねえハダカなんざ、もっと見たくねえ。ドラゴンは視力めちゃくちゃいいからな。人間には見えねえその人間の穢え部分まで見えちまう。耳垢とか宿便とか物理的に汚いもんだけじゃなくて、背負っている因縁とか、肚ん中が黒いとかも、見たくなくても見えちまうんだよ。
ゲス野郎の肚は、真っ黒だ。恨みも大量に背負ってる。どんだけ他者を踏み躙って生きてきた奴なんだ。こんな奴が外交使節とか、ひでー冗談だと思う。
領主館の、完成したばかりの自宅温泉の、一番風呂に入らせてもらってご機嫌なクソ野郎に、俺は幻覚魔法をかけた。
まずは浸かっている湯の粘度を上げた幻覚に叩き込んだ。
「うわっ、な、なんだ?!」
一瞬にしてずっしりねっとりしたゲル状になったように錯覚させた湯に、ゲス野郎が驚いて声をあげる。幻覚の中で、ゲス野郎は指一本動かせなくなった。
その状態にしておいて、俺はゲス野郎の前に姿を見せた。・・・と言っても、幻覚の姿だけど。リゼが可愛い可愛い言う今の俺の姿じゃあ迫力が無くて、脅しが効かねえかと思ってな。もっと凶悪で禍々しい、前世のダチを参考にした、強そうな姿の幻影にしたぜ。
脳ミソに直接、声を送り込む。
「アース・ドラゴンがシュタールベルク領にいるって、一言でもしゃべってみろ。国中の瘴気を全部お前に叩き込んでやる」
「ひっ!」
温かい温泉に浸かっているのに、ゲス野郎の顔は真っ青になった。
「王都でも自領でも、絶対にしゃべらないって誓え」
鋭い牙とツメを見せて威嚇する。
「ちっ、誓うっ、誓いますっ!」
恐慌状態になって誓う誓うと叫ぶが、イマイチ信用できねえ。
俺はツメを一本、ゲス野郎の腕に突き立てた。もちろん幻覚だ。
「この傷を見る度に思い出せ。アース・ドラゴンがいることをしゃべったら、この傷が国中のすべての瘴気を吸収するからな。王都にいようと領地にいようとお前の全身を瘴気が満たすぞ」
ここまでお読みいただき、どうも有難うございました。
次回、第三十八話 厄介な旅人 4




