第三十四話 もっと大きなお風呂
第三十四話 もっと大きなお風呂
シュタールベルクの温泉は、徐々に知れ渡りました。
瘴気をデトックスする効果が高いことと、牛や馬専用の露天温泉があることが注目されたようです。旅の途中、自分達だけではなくて馬を温泉に入れてデトックスさせる人が、口コミで増えました。
その効果の高さが評判になったのはいいのですが、ちょっと困ったことになりました。自分達の馬を温泉に入れてほしいという旅行者の希望が殺到するあまり、地元の家畜を入れてあげられなくなってしまったのです。
地元民の苦情が大きくなったので、牛馬用の露天温泉を拡張することになりました。
メルさんに訊いてみると、湧出量的には問題無いと言ってくれました。
「もともと、この地は水源に恵まれているんだ」
メルさんが地脈を操作したので、鉱毒はもう流入してきません。井戸水をフィルターを通さずに飲んでも大丈夫になっています。温泉も、薬効だけで鉱毒は入っていません。
拡張した温泉は、いちばん深い場所には馬が五頭、そこよりも少し浅いところには牛が五頭、もう少し浅いところにはヒツジや豚が十頭入ることができる大きさになりました。
「すごい、プールみたい」
「プールってなんですか?」
ヘルマン様に問われて、泳ぎ方を教えるための設備や娯楽のための流れるプールなどについて説明しました。
「でもプールは温泉やお湯じゃなくて水で、夏限定ですし、水着を着て入るのですよ」
屋内だったら温水で、冬場も入れますけど、この世界の建築技術では、体育館みたいな建屋を作るのは、無理なのではないでしょうか。
私の説明を聞いて、ヘルマン様はなにやら考えておられましたが、私はメルさんと一緒に、体内に蓄積していた瘴気をデトックスしてもらってツヤツヤ健康になったキレイな馬たちを見ていました。
北の村の男達が、ヘルマン様に許されて村に帰ることになりました。
私はできるだけ彼らに接触しないようにしておりましたが、ヨハンと街中で接触があったようです。その際、ヨハンが喋ってしまって、私の姿が変わったことを知られてしまいました。私を見て驚いていましたが、ヘルマン様が私に求婚していることを聞いて、あの時の襲撃をアース・ドラゴン様に阻止してもらって本当によかった、これからは心を入れ替えて、悪事に手を染めず真面目に働きます、領主様のご成婚を祈りますと、メルさんとヘルマン様に何度も頭を下げていました。
ヘルマン様は穏やかに笑っておられましたが、メルさんはガルガルと牙を剥いて威嚇しました。
「リゼは俺の嫁だって言ってんだろうが。ヘルマンを応援するんだったら、お前らんとこの森の瘴気は止めてやんねえ!」
「それは困ります」
「アース・ドラゴン様とお嬢様のご成婚をお祈り申し上げます」
口々にいいますが、笑っているということは、やはり皆さん、人間とドラゴンが結婚できるとは思っていないのでしょう。メルさんがちいさいから、たぶん、メルさんの主張は、幼い少年が『ボク、大きくなったらママとケッコンする!』と言っているように受け取られている感じです。笑顔がとっても生温かいのです。彼らにとって、メルさんはあくまで加護竜であって、結婚とか嫁というのは言葉の綾というか、メルさんが私を気に入っていることの表現だと思っているのでしょう。
私の身体のどこにも、加護紋は現れません。背中など、自分では見えない場所も、ハンナに確認してもらいましたが、加護紋はありません。
なによりも出会った最初から、メルさんは、加護はできないと言っているのです。
加護はできないけれど、嫁だと言い出したので、びっくりしましたけど、内心ではちょっとだけ嬉しかったのです。
だからヘルマン様の求婚を受けてはいけないのでしょう。
そもそも私など、ヘルマン様に相応しくありませんし。
ではメルさんには相応しいのかと問われましても、イエスと答えるのは烏滸がましいですけど、メルさんといると、安心します。できればずっと、一緒にいたいのです。
ここまでお読みいただき、どうも有難うございました。
次回、第三十五話 厄介な旅人 1




