第三十二話 王都の異変【クヌート視点】
第三十二話 王都の異変【クヌート視点】
リゼの行方がわからなくなって、四カ月が経過した。
リゼが心配で余裕が無く、少し周囲が見えていなかった。
そんなある日。
「水が臭い?」
厨房からの報告に、首を傾げる。
「我が家だけではありません」
報告する執事の話によると、貴族の屋敷で働く使用人仲間、それに市井の平民たちの間で、少しずつ声が上がっているという。
「二か月ほど前からでしょうか。共用井戸だけではなく貴族が屋敷に所有する専用井戸もみな、水質が悪くなっているようです」
それだけではない。
王都は滅多に瘴気が来なかったのに、最近は来る日が増えつつあるのだ。濃くはないが、郊外の森に近い場所や畑などで、被害が出ている。
これはおそらく、加護付きの人間がいないからなのだろう。
ウインド・ドラゴンの加護付きである祖母上、ザイツィンガー大公夫人は、領地にある大きな湖を臨む別邸で、余生を過ごされている。
加護付きになると言われていたリゼが加護付きにならなかったので、今、王都には加護付きの人間がいない。
「王政府は?」
「特に対応してはいないようです」
王宮の井戸には非常に高レベルの魔力フィルターがあるから、すこしくらい水が濁っても気が付かないのだろう。
「魔力フィルターを高レベルのものに変えろ」
「予定外の出費になりますが」
「多少はやむを得ないだろう。父上には私が報告しておく」
その後、出仕して聞いた話によると、王政府はまだ、特に危機感を持ったほどではないようだった。平民の不満など、いちいち聞いていられないということらしい。
「お義兄様、明日のお茶会に、私をエスコートしてくださらない?」
王太子殿下が廃太子とされて郊外の離宮に行かれてから、エミーリアは鬱屈を晴らすためなのか、連日のように茶会だの夜会だのに遊び歩いている。しかし、義理のとはいえ姉を退けて王太子を篭絡したことで、社交界では腫物扱いになった。親しげにしていた者たちからも距離を取られ、どこに行っても遠巻きにされ、浮いた存在であるらしい。リゼを退けて王太子の婚約者になったつもりでいた時には、なんらかの甘い汁を期待して蟻のように群がっていた取り巻きが、今では声をかけても木で鼻を括ったような態度であるらしい。
「仕事が立て込んでいる」
父上が少しずつ領地経営を私に任せるようになった。重要な仕事はまだ手放さないが、私がきちんと理解した上で部下に任せ、次の仕事を回して、順序だてて仕事を覚えさせようとしているのがわかる。集中すると少し視野が狭くなってしまう私の欠点を修正しようとしてくださっているのだろう。父の温情に恥じない、立派な跡継ぎにならなければと自分を奮い立たせる。
「でしたら、来週の夜会・・・」
私は書類から目を離し、感情をできるだけ乗せない顔でエミーリアを見た。
「私に自分の婚約者を棄ておいて義妹を優先しろと?」
私の婚約者は帝国の公爵令嬢であり、王妃陛下の遠縁でもある。来週の夜会のために、わざわざ帝国から足を運んでくれることになっている。それをさしおいて自分を優先しろとは、この義妹の頭の中はどうなっているのか。
ここまでお読みいただき、どうも有難うございました。
クヌートについて・・・ヘタレな兄貴のはずだったのに、なんだかしっかりしているふうになってしまった。
次回、第三十三話 究極の愛を見た【レオンハルト視点】




