↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

27/52

第二十七話 王妃の怒り【エミーリア視点】


第二十七話 王妃の怒り【エミーリア視点】




 卒業パーティーでお義姉様が王太子殿下から婚約破棄されたのを見て、私は心の中で快哉を叫んだ。

 勝った! あの辛気臭い義姉に、ついに勝った!


 あとはお母様の計画通りに疵物令嬢として、ベッケラート男爵に嫁がせてしまえばいい。お義姉様さえいなくなれば、お父様もお義兄様も、お母様と私の言いなりですもの。

 もちろん、王太子殿下も。


 卒業パーティーなのに、卒業生ではない私が、今宵の主役。今宵だけじゃなくてこれから先ずっと、私が主役。

 王太子殿下に選ばれた、私がこの国の未来の王妃。そう思っていた。

 国王陛下と王妃陛下、そしてお父様とお母様とお義兄様がお帰りになって、王宮から緊急の呼び出しを受けるまでは。




 卒業パーティーの翌朝、・・・と言っても昼近かったけれど、起きてみたら、お義姉様がいないと知った時は、ちょっと驚いた。昨夜は卒業パーティー会場から早々に逃げ帰ったはずだけれど、自室でぴーぴー泣いているだろうと思っていた。しかし朝にはもうこの家のどこにもいなかったのだ。


 家出するなんて、婚約破棄されてそんなにも傷ついたのか、それともベッケラート男爵に嫁ぐのが嫌で逃げたのか、どちらでもいいけど、腹が立った。泣き顔を見て、嘲笑ってさしあげたかったのに。

 まあ、あんなジミな顔が泣いても笑っても、見るほどの価値なんて無いのだけど。




 週があけて、国王陛下と王妃陛下、お父様とお母様とお義兄様が帰国された。お父様とお義兄様は、お義姉様がいないことに驚き、慌てふためいていた。お母様は、驚いたフリはしていたけど、笑っていた。ベッケラート男爵に嫁がせることができなかったのが残念だけど、自らいなくなってくれたのなら、手間が省けたと、後になって私に言った。


 翌日、お父様とお母様と私は、王宮から緊急の呼び出しを受けた。王宮にいくつもある謁見の間の中のひとつ、鏡の間というところに通された。なんでも、王妃陛下がお輿入れの際に母国から持参された、国宝の鏡が、この部屋にはあるらしい。でも、ぐるぐる見回しても、鏡なんか無い。


 宰相と王太子殿下も呼ばれていた。ということは、つまり、お義姉様との婚約破棄を公式に発表して、私が王太子殿下の婚約者として発表される、そのための打ち合わせなのだろうと思った。

 だから私は王太子殿下の隣に立って、お父様とお母様を見下ろす側に立つのだと思って、王太子殿下の隣に行こうとした。

 それを、宰相に妨げられた。

 お母君の隣に、と、義務的に言われた。どうしてよ、私は王太子妃になるのだから、王太子殿下の側に立つのではないの? 


 そこに、王妃陛下がいらした。


 王妃陛下は、この国のお生まれではない。他国の王女であられた方であり、国王陛下との婚姻は両国の友好のためだったと聞いている。

 しかし、それはうわべだけのことだ。

 実質的には、我が国は王妃陛下の母国の属国としてひれ伏したのが、真実の姿だ。

 だから国王陛下は、王妃陛下をなによりも大切にしていて、有り体に言えば、頭が上がらない。常にその御機嫌を窺い、美しいだとかさすがは王妃だとか、称賛してちやほやしている。どっちがエライんだかわからない。

 いやわかりすぎる。王妃陛下が実質女王様で、国王陛下はただの下僕なのだ。

 国王陛下は、王妃陛下の『尻に敷かれている』のだ。

 だから私も、王太子殿下と結婚したら、王太子殿下を尻に敷いていい、はずだ。

 勉強しかできないお義姉様だったらできるはずもないでしょうけど、私はできる。巧くやってみせる。

 だってお母様だって、お父様を巧く尻に敷いているじゃない。お父様の前では質素倹約に徹している貞淑な奥様のフリをして、裏では大きな宝石をいくつも買っているわ。お父様は全然気づかない。

 私も王妃様やお母様をお手本にして、王太子殿下を巧く尻に敷くわ。


 そんなふうに考えながら、王妃陛下にギクシャクと慣れないカーテシーをする。カーテシーって本当に面倒だわ。早くカーテシーをしなくてもいい存在になりたい。


 しかし、王妃陛下は私のことが目に入っていないようだった。

 最高級のドレスを完璧な裾捌きで、優雅にして荒々しく蹴立てて歩いてきたかと思うと、いきなり王太子殿下をひっぱたいたのだ。

 ティーカップよりも重いものなんて持ったことが無いのではないかと思われる、白く細い手なのに、大変な力だった。王太子殿下が横に倒れたのだから。横にいたら、私も一緒になぎ倒されていたのではないかと思われるほどだった。横にいなくてよかったわ。


 国王陛下も宰相も、お父様もお母様も、びっくりして動けない。

 王妃陛下は高貴で優雅でお上品の究極みたいな、貴婦人の中の貴婦人って思っていたから、我が子である王太子殿下をひっぱたくなんて、私もびっくりした。


「は、母上・・・?」


王太子殿下は床に倒れたまま、叩かれた頬に手を当てて茫然と王妃陛下を見上げる。自分の身に何が起こったのか、理解がおいつかないらしい。そんな王太子殿下に、怒り心頭の凄絶な表情で、王妃陛下は言った。


「王太子は本日この場を持って廃嫡とする。リーゼロッテ嬢に土下座で謝って来るまで、王宮への立ち入りを禁ずる」


その後すぐ、王太子殿下は本当に王宮から追い出された。さすがに市井に身一つで放り出すわけにはいかないので、宰相が手を回して郊外の離宮に入られたと、後から聞いた。しかし王妃の怒りが凄まじく、身の回りの世話も最低限しか許されないらしい。


 王妃陛下は、私には一瞥もくれず、なにも言ってくださらなかった。まるで私などいないかのようだった。

 どうして?

 なぜ?

 王妃陛下はそんなにもお義姉様と王太子殿下を結婚させたかったの?


 無視された屈辱に身を焼きながら、不安に震える。王太子殿下を廃嫡? じゃあ私は王太子妃にはなれないの? お義姉様に土下座して来いですって? あの気位の高い王太子殿下が、そんなことできるはずがない。




 お父様が八方手を尽くして捜したけれど、お義姉様の行方は、杳として知れなかった。



ここまでお読みいただき、どうも有難うございました。


次回、第二十八話 人間だけじゃなくて

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。