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第二十六話 続く吉事


第二十六話 続く吉事




 メルさんが焼成煉瓦の作り方を、人々に教えました。

 前世で習った世界史でいうところの、古代ローマで作られていた煉瓦だそうです。ローマン・コンクリートと組み合わせて使うものです。本物の古代ローマの煉瓦との違いは、この地でもともと作られていた日干し煉瓦を焼いたので、大きさがその日干し煉瓦のサイズだ、ということくらいでしょうか。本物の古代ローマの煉瓦は、幅が広く厚みが薄い、四角い板状だったそうですから。あとは製造者や使用された時期を示す刻印があったらしいですね。

 焼成煉瓦作りという新たな産業に沸き、それを使って復興が進みます。街に活気があふれています。


 そんなある日。

 メルさんが来いというので、ヘルマン様と、それからフロリアンさんたち数人の憲兵と一緒にメルさんの後を付いて行きました。

 憲兵さんたちは手に手にシャベルやハッケ(鍬)、十字鍬つるはしなんかを持っています。

 辿り着いたのは、新しくなった橋の下流の河原です。かなり広いです。

 フロリアンさんは、窯作りと焼成煉瓦作りの時にずいぶんとメルさんと仲良くなったようです。今日はメルさんは誰の頭も借りず、フロリアンさんに指図しています。

 メルさんとフロリアンさん主導で、河原に広く浅い穴が掘られ、岩で周囲を固めました。池、もしくは前世で言うところの、露天風呂のようです。

 と、思っていたら。


「よいしょっと」


メルさんがシュッとシッポを振ります。すると、穴の底からじわじわと水が湧いて、穴を満たし始めました。最初は、泥水です。


「明日まで放置な」




 翌日、見に行ってみると。


「わあっ!」


泥水は流れ出て、透明になった水でいっぱいになっていました。

 しかも。

 水面からは湯気が立ち昇っています。これはもしや・・・。


「触ってみな」


言われて手を入れてみると。


「え、温かい! 温泉?!」


「おう」


この地は水源はそれなりにあるのですが、水質が悪かったので、平民がお風呂に入る習慣はありませんでした。王都は水に恵まれていましたので、貴族階級だけでなく平民も、公衆浴場で身体を洗うなどしていました。毎日は無理だったかもしれませんが、身体を洗う、という衛生思想はそこそこあったのです。

メルさんはこの地にも、入浴を習慣化させたいのでしょう。何故なら、入浴は瘴気デトックスの効果がとても高いからです。

 ましてや温泉なら、効果はさらに高いはずです。


「でも、露天風呂だと女の人は入れなくない?」


まさか混浴とか言わないですよね?


「女風呂はヘルマンに言って別の場所に作らせろ」


まずはフローたち憲兵とか男どもに、毎日の仕事の終わりに入浴してから家に帰るように習慣化させろ、と、メルさんが言うので、ヘルマン様に言って、周知してもらいました。

 その効果は劇的でした。汗みずくになって働いた男の人たちが家に帰ってきても臭くない上に、どんどん健康になったら、女の人たちが黙っているはずがありません。




 女の人たちのために、大急ぎで女風呂が作られました。場所は、男風呂である露天風呂がある河原からは離れた、街中の、領主館に近いところです。露天風呂じゃありませんけど、女の人たちは家から近いほうがいいでしょうし、領主館に近いということは安全性も高いですし、建物の中のほうが、安心して身体を洗えるでしょう。

 建物も浴槽も最初、焼成煉瓦で作る予定でした。浴槽は、肌が当たるとざらざらでちょっと痛いかもしれません。

 それを言うとメルさんは、


「仕方ねえな」


と言って、煉瓦工房の棟梁に、一度焼いた焼成煉瓦の上面に石英の粉を塗ってもう一度焼くように言いました。タイルの原型です。素焼きの煉瓦よりは、痛くない浴槽と床が作れそうです。


 女風呂ができあがるまでに、ヘルマン様は若い女性数人を選りすぐって、女風呂の管理の仕事を学ばせました。男風呂は露天風呂ですし地面からどんどんお湯が沸いている場所ですから、特別な管理の必要はありませんが、女風呂は浴槽や更衣室の掃除他、源泉を引いて来る水路の管理などに人手が必要です。それと、女風呂を覗き見ようとする不埒者を撃退するために多少の戦闘訓練をさせて、憲兵の中でも信頼度の高い者を選んで、二人一組で外回りの警備をさせたのです。中の管理者は掃除などの担当です。そうやって、女の人たちが安心して身体を洗える環境を整えました。


 毎日お風呂に入るようになって、瘴気による健康被害が劇的に改善しました。女たちがやたら美人になった、なんて言う声も聞かれました。


 男性用の露天風呂にも、屋根が作られました。冬になったら板をぐるりと立てて、簡易な小屋状にするのだそうです。



ここまでお読みいただき、どうも有難うございました。


次回、第二十七話 王妃の怒り【エミーリア視点】

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