第二十四話 土の魔法【フロリアン視点】
第二十四話 土の魔法【フロリアン視点】
「おい、フロー、いるか?」
その日、突然、憲兵の屯所にメルキオール様がいらっしゃいました。一匹・・・、おひとりで、です。リーゼロッテ嬢は一緒ではないようです。
「なにか御用でしょうか?」
「日干し煉瓦の職人のところに連れて行け」
言われて、メルキオール様には肩にお乗りいただいて、煉瓦職人の工房に向かいました。頼っていただけてとても嬉しいですが、メルキオール様に道行く人々の注目が集まりますので、たいへんに緊張します。右手と右足、左手と左足が同時に動く、変な歩き方になってしまいました。
日干し煉瓦は粘土で作りますから、アース・ドラゴンの管轄なのでしょう。煉瓦職人たちにとっては文字通りの神様で、三拝九拝して、訪れたメルキオール様を崇めます。地震の後の再建ラッシュで、このところずうっと、目が回るような忙しさだそうですが、アース・ドラゴンが来て下さったと感極まり、疲れなど吹っ飛んでしまったと喜んでいます。
そんな煉瓦職人たちに、メルキオール様は言います。
「憲兵たちに手伝わせるから、少し煉瓦を増産してくれ」
ただでさえフル活動の煉瓦職人たちに、無茶を言うものだと思いましたが、勝手に、憲兵たちを動員すると決めてしまいました。主君には、私が報告するしかないでしょう。
翌日から、憲兵の中から十人ほどが煉瓦工房に派遣されて行くことになりました。
そして、十日ほどした頃、またメルキオール様が憲兵の屯所にいらっしゃいました。地震の後片付けもそろそろ一段落して、その場にはそこそこの人数がおりました。
「二十人くらいシャベルとか持って、ちょっと来いや」
ちいさくても神の化身であるドラゴンです。逆らうことなどできませんので、皆、手に手にシャベルやハッケ(鍬)、十字鍬などを持って、メルキオール様に付き従いました。
連れて行かれたのは、街外れの荒れ地です。
「一番、頭いい奴、ちょっと頭貸せ」
手を貸せならわかりますが、頭を貸せとはどういう意味なのかわからない上に、憲兵は九割方が脳筋なので、誰も手を上げません。仕方が無いので、隣にいた幼馴染みの背を押しました。
「カール、お前、頭いいだろ」
「えっ、俺?」
カールは一瞬、戸惑いましたが、即座に腹を括ったようです。
「ヤローにひっつくなんざ、御免被りたいんだがな」
ぶつくさ言いながら、メルキオール様はカールの憲兵帽の上にテンと座りました。
すると、普段は礼儀正しいカールが、メルキオール様の無頼な口調で喋り出しました。みんなビックリしましたが、言われるままに作業をします。メルキオール様は自分の身体では作りたい物の説明がし難かったので、カールの手足で作業の内容をこのくらいとかここからここまでとか指し示します。頭を借りたのは座るためだけで、カールの頭の中身を使うわけではないようです。
作らされたのは、後からわかったのですが、窯です。三メートル×四メートルほどの燃焼室に、燃料の薪をくべるためのヴォールト状の焚き口が手前に突き出しています。人海戦術なので、あっという間にできました。
「後で上に簡単な屋根をかけろ」
と言われ、その日の作業は終わりましたが、翌日と翌々日には今度は大量の薪の準備に駆り出されました。まあ、体力自慢の脳筋軍団なので、肉体労働は苦になりません。
そして。
日干しが終わった煉瓦を焼くんだと言われて、みんなびっくりしました。その日はカールではなく煉瓦職人の棟梁の頭を借りて、メルキオール様が指示をする通りに、憲兵たちと煉瓦職人たちは日干し煉瓦を窯の中に運び込みました。
焼き時間を言われて、また驚きます。日陰でじっくり乾燥させた日干し煉瓦を九百度の高温で二十四時間焼いてから、二日間かけてゆっくり冷ませ、と。焼くことによって日干し煉瓦がどうなるのか、誰も見当もつきません。
しかし、土の神様であるアース・ドラゴンが言うのですから、言われたとおりにします。憲兵数人と煉瓦職人がいくつかのチームに分かれて、二十四時間、交代で薪をくべ続けました。
窯の入り口を閉じて、二日後。
焼き上がった煉瓦と、焼いていない、乾燥させただけの日干し煉瓦をひとつずつ並べて、メルキオール様は言います。
「見てろよ」
アース・ドラゴンなのに水の魔法を使って、メルキオール様は強い水流をふたつの煉瓦にぶつけます。日干し煉瓦は、しとしと雨程度なら大丈夫ですが、強い水流や叩きつけるような土砂降りの雨には、ドロドロに溶けてしまいます。
「あっ!」
煉瓦職人たちが声を上げました。焼いた煉瓦はどんなに強い水流をあてられても溶けないのです。
さらにはメルキオール様は、魔力で宙に浮かべて落として見せました。日干し煉瓦は三メートルくらいの高さから落としたら割れてしまいますが、焼成煉瓦は五メートルくらいの高さから落としても、下が土や草地だったら割れないのです。十メートルからでも、草地なら大丈夫でした。石に当たったり地面が硬いと、欠けたり割れてしまうものもありましたが。
「すごい! 魔法の煉瓦だ!」
地震で壊れた建物を、この焼成煉瓦で再建しろ、とメルキオール様に言われて、煉瓦職人と家を作る職人たちが、いっせいにヘルマン様を見ます。普通、領主様のお館や兵舎、学校など公共の建物が優先され、平民の家は財力のある者から先に再建します。現に、地震で家が倒壊した平民の中でも裕福な家は、いちはやく再建に着手していましたから、既に日干し煉瓦での再建が、ほぼ終わりかけていました。
八割方再建した裕福な平民の家を撤去してこの焼成煉瓦で作ってから、裕福でない平民の家を作るのでしょうか。
ヘルマン様の判断を、みな、固唾を飲んで待ちます。
ヘルマン様は凛とした声で命令を下しました。
「今現在、更地になっている場所から優先で再建せよ。既に完成しかけている建物は、そのまま日干し煉瓦で工事を続行するように。焼成煉瓦で家を作り直すのは、倒壊した家々の再建がすべて終わるまで、あいならぬ」
ここまでお読みいただき、どうも有難うございました。
煉瓦の製法や耐久性に関しましては、正確ではありません。ファンタジーです。
次回、第二十五話 魔法じゃねえよ【メルキオール視点】




