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第二十三話 最初の好転


第二十三話 最初の好転




 メルさんがいなかった間にも、還ってきて眠っている間にも、微弱な地震が何度もありました。

 私は、メルさんがいなかった一ヶ月の間は復旧事業の手伝いをしたり、避難所の手伝いなどの雑用を引き受けて回りました。なんの役にも立たないお嬢様だと思われるのは嫌でしたし、人手はいくらあっても足りませんでしたから。


 ただし、瓦礫を片付ける現場には絶対近づかないように、ハンナに言い含められ、ロミーちゃんに見張られておりました。ロミーちゃんはハンナに憧れておりますので、ハンナの頼みなら大喜びで引き受けるのです。忠実な番犬のように私の側を離れず、私の半径数メートルにはヘルマン様とフロリアンさん以外のいかなる成人男性も近づけさせない、という任務を嬉々として遂行していました。まあ、学校が避難所になっていて、授業がありませんでしたからね。

 これはつまり、メルさんに言われたように、私を襲撃して売り飛ばそうとした盗賊・・・、北の村の民を、後片付けに働かせているからです。旅人を襲撃した罪を、地震の後片付けの労働と相殺する、嫌なら罪人として裁きを受けよという領主の言葉に、彼らは従うことにしたのでしょう。

 襲撃して売り飛ばそうとした時とは、私の姿が別人なのですから、わからないのではないかと思うのですが。

 実際、遠目に見ているぶんには、私があの時の獲物だったとは、わからなかったのではないでしょうか。


 それはさておき。


 メルさんが還ってきてからは、眠るメルさんの傍らで、せっせと縫物をしました。ハンナに教えてもらって、子ども用や男性用の衣服も縫いました。破れた服を繕ったり、下着類を作りました。生家の公爵家にいた頃は淑女の嗜みとしての刺繍くらいしかしませんでしたし、前世でJKだった時には、家庭科の成績はお世辞にもいいとは言えないものだったので、出来栄えはイマイチだったのですけど。




 その第一報が入ったのは、メルさんが還って来てパタンと眠ってしまってから三日目でした。

 住民のための共用井戸は、平常時は月に一度、大雨や地震の後には頻回、水質検査を義務付けられているのですが、その結果がどんどん変わっているというのです。


「鉱毒が減っている?」


「はい。あの地震の後、検査回数を増やしていたのですぐに気づいたようですわ」


正確には地震の後ではなくて、メルさんが地脈に潜ってから、徐々に変わり始めたようです。鉱毒が減って水質が改善されつつあるという報告が、いくつも上がってきたとか。


 それだけではありません。

 東風の日に、瘴気が街に来なくなったのです。

 瘴気に晒されてしまった野菜と晒されていない野菜では、味が天と地ほども違います。

 野菜だけではありません。瘴気が来なければ家畜の食欲が上がり、肉や卵の質がよくなります。一朝一夕によくなるわけではありませんが、瘴気に晒されていない牧草を食べているうちに、家畜がどんどん健康になります。牛も馬もヒツジも、豚もニワトリも。

 少しずつですが、それらは目に見えて変化していきます。毎日の食事が美味しくなったという声が上がっているそうです。このまま瘴気が来なければ、秋の実りもよくなります。山の木も、川べりの雑草も、緑の色が鮮やかになったように見えます。橋を改修した川も、水がきれいになったようです。

 これらはみんな、メルさんのおかげなのでしょうか。


 私は嬉しくなって、目覚めたメルさんに訊いてみました。


「メルさんが地脈を操作して、水をキレイにしたり瘴気を止めたりしてくれたの?」


「まあな。俺が生まれたことで迷惑をかけたってのは遺憾だからな。こんなナリでもアース・ドラゴンなんだからよ、かけた迷惑の分は、きっちり働いてやった」


フンス、と鼻息荒くふんぞり返る様子は、お手伝いをして褒められた幼児のようです。


「こんなナリ、って、ちいさいことを言っているの?」


寝て起きたばかりなので、メルさんは猫くらいの重さがあります。膝に乗せると、ぺったりとひっついてきて可愛いです。

 身体はちいさくても、アース・ドラゴンの魔力は前世のままなのでしょう。それとも、前世はもっと絶大だったのでしょうか。


「魔力の質とか威力は、前世のままだぜ? でもな」


前世では無尽蔵と言ってよかった量の魔力があったのに、このちいさい身体にはやはり少ない量しかないようで、枯渇寸前になると寝落ちしてしまうそうです。だから鉱毒が地下水に流入しないように隣国の鉱脈を変えたり、瘴気が吹き出さないように地質を変えるのに、ものすごく時間がかかってしまったそうです。


「頑張ったんだね」


えらいえらい、と頭をナデナデすると、もっと撫でろといわんばかりに、フンスフンスと鼻を鳴らします。でろでろに蕩けて、グリグリと身体を摺り寄せてきます。本当に猫みたいです。エロ発言をしなければ、抱っこしてもハンナに怒られないのに、と思いました。


ここまでお読みいただき、どうも有難うございました。


次回、第二十四話 土の魔法【フロリアン視点】

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