第二十二話 ライバルはちびっこドラゴン【ヘルマン視点】
熊本の皆さまのご無事を、心よりお祈りいたします。
第二十二話 ライバルはちびっこドラゴン【ヘルマン視点】
リーゼロッテ嬢に求婚した。
これは、出会って少しした頃から考えていたことだ。
彼女は美しく、賢く、愛らしい。少し天然というか、不思議ちゃんの一面もあるが。
今までに出会った令嬢たちとちがって、王都の夜会に出たがるタイプではないのも、好ましい。・・・まあ、王太子殿下に婚約破棄されて心に傷を負っているわけだし、夜逃げのように家を出ていらしたのだから、王都に行きたくはないだろう上に、御自身が此処にいることを王都の御家族や知人に知られたくもないだろう。
アウエンミュラー公爵家と縁戚になりたいとか、そういう下心は無い。
純粋に、彼女を好ましいと思った。淑女としての教養や立ち居振る舞いも申し分ないし、地震の時の救助活動に懸命だった姿も、すばらしいと思った。
しかし、ひとつだけ、問題がある。
リーゼロッテ嬢の加護竜であるメルキオール殿が、自分は加護竜ではないと言っていることだ。
はあ? である。あれほどまでに執着していて、加護竜ではないと言われても、説得力が皆無である。
通常、ドラゴンは生まれてから百年くらい経たないと人間との意思疎通ができず、魔法も使えず、三百年くらい経たないと人間に加護を付けることもできないという。メルキオール殿は生まれたばかりだから、まだ加護ができないと。
しかし、メルキオール殿には前世の記憶があったので、生まれてすぐに人間との意思疎通ができたし、魔法も使えるという。
だったら、加護だってできるのではないだろうか。
リーゼロッテ嬢はとてもジミな容姿でいらしたのが、メルキオール殿によって美しく変わられたという。もともとの、本来の姿になったのだと言われたそうだ。それは、加護されたということではないのだろうか。推測するに、前世でもリーゼロッテ嬢はメルキオール殿の加護付きだったのではないだろうか。そう考えれば、辻褄が合う。
竜の加護が付いた人間は、身体のどこかに加護紋が現れると言われている。リーゼロッテ嬢の身体に加護紋が現れたのかどうかは、訊いていない。訊いて傷つけてしまったらと思うと、怖くて訊けない。
しかし、加護紋が無くても竜に愛された人間は、存在する。竜はとても気まぐれだから、加護はしなくても気に入った人間を大切にするのだ。
そんな人間が、かつて我が領にいた。
セバスチャン叔父上だ。
まだ私が生まれたばかりだった頃のことなので、乳母から聞いただけなのだが。
叔父上は風竜に気に入られたという。どうしてなのかは、誰も知らない。
しかし我が父は、自分ではなく弟が竜に気に入られたことが、納得できず、嫉妬に狂った。羨望に身を焦がした。
父は三国一といわれる美貌の母を妻に迎え、広大で豊かな領地を祖父から受け継ぎ、私という子どもを得て、人生は順風満帆だと慢心していた。そんな自分に加護が付かず、叔父上に付いたことが、どうしても納得できなかったという。加護紋が現れたのか確認しようと、家臣の前で叔父上を裸に剥いたそうだ。
加護ではなくてただ気に入られただけだと周囲が言っても聞く耳を持たず、叔父上を憎悪し、罵倒した。私は見てもいないし憶えてもいないが、暴力を振るったそうだ。
結果、父は風竜の怒りを買って病に倒れた。
竜は叔父上を連れて、姿を消した。
ちょうどその頃、隣国で鉱山の開発が始まった。
我が領は地下水が汚染され、瘴気に苦しめられるようになった。
竜に気に入られた叔父上を虐待したから、竜の怒りを招いた。父は竜の逆鱗に触れたのだと、乳母は言った。
叔父上と風竜が去った我が領は、急激に凋落した。瘴気に侵されて豊かな恵みは消え、土地が痩せて荒廃した不毛の地になった。
そんな我が領に、リーゼロッテ嬢とメルキオール殿が来た。風竜と共にこの地を去って以来、一度も戻って来なかった叔父上が、後片付けを終えたら必ず来ると記した、書状を持って。
今度こそ、間違わないようにしなければならない。
父の轍を踏んではならない。
リーゼロッテ嬢とメルキオール殿、お二方に我が領に留まっていただきたい。
お二方と一緒に、叔父上をお迎えしたい。
しかし。
メルキオール殿がリーゼロッテ嬢を嫁だと言っておられるのに、リーゼロッテ嬢に求婚したことは間違いだっただろうか。
ここまでお読みいただき、どうも有難うございました。
スピンオフ・・・風竜とセバスチャンの旅のお話
タイトル『BLじゃねえええええっ!』(仮)
兄に疎まれて故郷を離れた若き日のセバスチャンと、超絶イケメンでスパダリで両刀で男も女も好きな風竜(擬人化してる)の、BLになりそうでならないドタバタロードノベル。時空も次元も超える旅路。前世のメルキオールに会いに行ったり、JK愛由香を見に行ったりする。鋭意執筆中!(ウソです。手も時間も足りないので書けません)
次回、第二十三話 最初の好転




