第二十話 地脈探査
第二十話 地脈探査
それから三日間、メルさんは本当に眠ったままでした。
無防備に眠っているメルさんは、とても可愛いです。私以外には威嚇しまくりの金色の眸が閉じられていますので、ハンナも穏やかな目で見ています。
眠るメルさんの横で、ハンナと一緒に針仕事をする、静かな時間は、とても満ち足りたありがたいものでした。
「マイヤー老人のお宅の片付けは、終わったの?」
「フロリアンさんの妹さんが、手伝っていますよ」
フロリアンさんの妹のロミーちゃんは、マイヤー夫人がハンナの仕事ぶりを絶賛するのを聞いて、ハンナを妙にキラキラした目で見るようになりました。大きくなったらハンナさんみたいなメイドになる! と公言しているそうで、なんだか可愛いです。
三日後、メルさんが目覚めた時、たまたま、ハンナが私の側にいませんでした。
「なあ」
「どうしたの?」
「キス・・・してくれよ」
「え?」
「地脈に潜るの、今世では初だからな。どんなことになっているかわからねえ」
いくら竜が自然のエナジーの凝縮体であると言っても、すべてを司るわけではありません。地脈に潜るというのがどういうことなのか、私にはわかりませんけれど、メルさんが武者震いをしているのはわかりました。
「あら?」
メルさんを抱き上げると、猫くらいの重さになっていました。三日間眠り続けたことで、パワーを溜め込んだのだそうです。
メルさんは私の髪をつかんで引っ張り、キスをせがみます。はやくしないと、ハンナがもどってきてしまうので、私は勇気を出して、メルさんの口にそっとくちびるで触れました。
が、そっとで済むはずもなく。
「!」
メルさんは私の髪をぐいぐい引いて、強くくちづけてきます。
舌がくちびるを割る、その瞬間。
「加護竜様! おやめくださいませ!」
ハンナが飛び込んできました。メルさんはさっと離れて、そのまま窓から飛び出します。私は慌てて、窓際に走って行って外を見ました。
「じゃあ、ちょっくら行って来る」
メルさんはそう言って、真っ逆さまに地面に向かいます。まるで墜落するかのように。
「メルさん?!」
地面に激突するかと思われたその瞬間、メルさんの姿は一瞬、鋭い銀の光になって、ふっと消えました。
メルさんは二十日以上、還ってきませんでした。
メルさんが寝ていた三日間、その横で針仕事をしたり寝姿を見ている静かな時間が、とても心地よくて満たされました。けれど、メルさんがいない一人の部屋は、なんだか落ち着きません。
日に何度も窓の外を見てため息を吐く私に、ハンナは呆れ顔です。
二十日の間に何度も、微弱な地震がありました。人々には、あの地震の余震だと思われているのでしょう。地震のたびに不安そうな顔をしています。私も、毎回ビクビクしてしまいます。なんだか、このままメルさんが二度と還って来ないのではないか、そんな気がして、とても不安になってしまうのです。
まだ、出会ったばかりなのに。
どうしてこんなにメルさんのことばかり考えてしまうのでしょう。
もしもこのままメルさんが還ってこなかったら、どうすればいいのでしょう。
そう考えるだけで、引き絞られるように胸が痛くなります。
そんな私に、ヘルマン様はあれこれと気を遣ってくださいます。辺境伯家秘蔵の貴重な書物を見せてくださったり、領内を案内してくださったり、お忙しいでしょうに申し訳ないです。
「あっ」
また、微弱な地震がありました。メルさんになにかあったのかと不安になります。
三十日目の朝になりました。
皆さまによくしていただき、この地の生活にも少しずつ慣れてきましたが、メルさんがいないと、毎日が砂を噛むように味気ないのです。
「リーゼロッテ嬢」
地震の後処理の陳情書も、ずいぶんと少なくなってきたようです。ヘルマン様は朝の執務の後、私を庭にお誘いくださいました。王都では見られない花が咲き始めたとか。
しかしヘルマン様は、花壇の前まで来ると、突然、私の前に片膝を着きました。
「私と結婚していただけませんか」
「えっ」
そこに。
「させるかあーっ!」
銀色の閃光が、飛び込んできました。
ここまでお読みいただき、どうも有難うございました。
次回、第二十一話 嫁?




