第十七話 美男美女【フロリアン視点】
第十七話 美男美女【フロリアン視点】
「ご令嬢!」
意識を失って倒れかかった公爵令嬢を、慌ててお支えしました。傍にいた同僚も咄嗟に援護してくれたので、公爵令嬢が地面に倒れることは回避できました。
問題は、その後です。
「お前らっ! リゼにさわるなっ!」
ちいさなドラゴンがキーキー喚きます。神様みたいな存在のはずなのに、全然、神様みたいではありません。尊さも神々しさも威厳も、毛ほどもありません。
例えるなら、飼い主が好きすぎる犬のようです。ただ、チワワとかポメラニアンなどの小型犬なのに、自分のことをシェパードとかドーベルマンだと思っているような、そんな風情です。
さきほど、この場に来た直後、私はヨハンに訊きました。
『あのちいさなドラゴンは・・・?』
お嬢様の加護竜のメルキオール様です、と、ヨハンは言っていました。私が最初に馬車のところに行った時には、馬車の中で寝ていたそうです。なんでも、魔力を使いすぎると疲れて寝てしまうのだそうです。子どもか、と心の中でツッコミました。
しかし加護竜というには、なんというか、あまりにも、威厳とか神々しさとか、ありがたみがありません。ちいさな身体で一生懸命なので、ほほえましくはありますが。
ともあれ、リーゼロッテ嬢を運ぼうと抱き上げると、ちいさなドラゴンはまたキャンキャンと喚きました。くるくる回りながら吠えたてる小型犬のような愛らしさです。お許しいただけるなら、撫でくりまわしたいと思いました。
そこに、満を持して主君登場。
私が抱き上げている公爵令嬢と、キャンキャン喚くちびっこドラゴンを見て、唖然としています。状況を理解できず、宇宙猫の表情になっておられます。こんな主の顔はなかなか見れるものではありません。
しかしお若くていらっしゃいますから、精神が柔軟なのでしょう。すぐに駆け寄って来られました。
「フロー、その方は・・・?」
主は、歳の近い私のことを家名でもファースト・ネームでもなく愛称で呼んでくださいます。
「はっ、こちらはリーゼロッテ・アウエンミュラー公爵令嬢です。そして・・・」
私が目線を送りますと、ちいさなドラゴンは我が主にむかって喚きました。
「おいっ、お前! この憲兵の上司か?!」
ちいさなドラゴンの問いに、主は鷹揚に頷きます。
「そうだが?」
厳密には上司ではなくて主君なのですが。
「大至急、女の憲兵を呼べっ! ヤローがリゼにさわるなっ!」
ちいさなドラゴンの可愛い威嚇などガン無視で、主が私に代わってリーゼロッテ嬢を姫抱きします。美男が美女をお姫様抱っこする様子は、目の保養です。主、どうかリーゼロッテ嬢が目覚めた折には、是非とも求婚なさってください。
「誠に申し訳ないが、我が領には女性兵士がいない。ドラゴン殿。お世話申し上げるメイドなら女性だ。どうか我が領主館まで来ていただけないだろうか」
同意したちいさなドラゴンが、領主館に着いた直後、リーゼロッテ嬢にしがみついてコテンと寝落ちてしまったのは、御愛嬌でしょう。可愛くてニマニマしてしまいます。
「フロリアン、経緯を説明せよ」
目の前には主君と上司が揃い踏みです。どちらの顔にも全容を把握して理解するまで放さん、さっさと喋れ、と描いてあります。
しかし私の隣には、ありがたいことに大変頼もしい味方がおります。
マイヤー老人です。我が家では応急手当しかできませんでしたが、領主館のメイドに脚の怪我をきちんと手当してもらって、椅子に座っています。
さらに。
「失礼いたします」
案内されてきたのは、リーゼロッテ嬢のメイドのハンナさんです。マイヤー老人宅の片付けに行ってくれていることは報告済でしたから、迎えをやったのでしょう。
私とマイヤー老人の話を聞いて、主はなるほどと頷きました。
しかし、シュタールベルク領に来るまでの経緯をハンナさんに説明されて、主は沈思しました。
「なんと、御姿が変わられたと?」
「さようでございます」
にわかには信じられません。
さらには。
「メルキオール様御自身は、加護は付けられないと言っておいででした」
「加護を付けられない・・・?」
加護竜様ではないのでしょうか? あんなに執着しているのに?
「なんでもメルキオール様は生まれたばかりなのだそうです」
ハンナさんは、馬車の中でメルキオール様から聞いたということを話します。
通常は生まれてから百年くらい経たないと、人間と意思の疎通ができないこと、魔法も使えないこと。
三百年くらい経たないと、加護を与えることができないこと。
しかしメルキオール様には前世の記憶があり、リーゼロッテ嬢を護る気満々であること。
ハンナさんの話を聞いて、主はため息を吐きました。
しかし、アウエンミュラー公爵家の執事であるセバスチャン・シュタールベルクからの親書を携えております、というハンナさんの一言に、主の目が大きく見開かれました。
ここまでお読みいただき、どうもありがとうございました。
ヘルマンは、見た目だけなら文句のつけようが無い、正統派のイケメン。中身は・・・。
次回、第十八話 ヘルマン様




