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第十六話 ホーリー・メイデン?【ヘルマン・シュタールベルク視点】


第十六話 ホーリーメイデン?【ヘルマン・シュタールベルク視点】




 私のもとにその報告が来たのは、街の東側にある橋の崩落現場にいた時だった。


 未明の地震に飛び起きてから今まで、息つく間もなく被害状況の把握と救助活動の指揮に飛びまわった。有能な側近がなんとか合間合間に革水筒を差し出してくれたけれど、水ひとくち飲むのさえ人目をはばかる。この街の井戸水は水質に恵まれない。水源は豊富なのだけれど地下水の水質が悪くなってしまって、濾過しなければ飲めないのだ。

 領主館や兵舎、学校などには専用井戸から魔石を動力源にして汲み上げる装置があって、魔力で水をキレイにするフィルターを設置してあるから、汲み上げてその場で飲むことができるけれど、平民家庭にはそんなものは無いから、共用井戸で汲んで来た水を、布を何枚も重ねた手製のフィルターで濾して飲み水にしている。

 家が倒壊した住民のために学校を解放したけれど、救護を求める人よりも水を汲むために来た人のほうが多いようだと、報告が来た。


 井戸水の水質が悪いのは、地下水に鉱毒が入っているからだ。


 国境を越えてすぐの場所にある、隣国の鉱山の廃液が、我が領の地下水に流入していている、らしい。

 隣国の鉱山領には何度も、中和措置をしてほしいと申し入れている。使者が行くと中和していると言うが、水質は改善されず、中和していないのはあきらかだ。


 隣国の鉱山から採掘される魔石は、品質がよくない。だから廃液がひどい。


 魔石は、品質の差が大きい。高品質のものは、採掘時に廃液が少なく、小指の先ほどの大きさで金貨一枚の値が付く。隣国の鉱山産の魔石は、おとなの頭ほどの大きさでも、せいぜい銀貨一枚。言っては悪いが、採算が取れないのではないだろうか。


 そして我が領の被害は地下水の汚染だけではない。

 東風の日には、鉱山の瘴気を含んだ風が、我が領に吹いてくる。人間が瘴気を吸うと頭痛や咳で身体を壊すし、家畜も食欲が落ちて乳量が減ったり羊毛の質が落ちたり、肉や卵の味が悪くなる。野菜や果物も瘴気に晒されると味が落ちる。


 隣国が魔石の採掘を始める前は、我が領は空気も水もキレイで農作物が美味しくて、領民はみな健康な働き者で、豊かで穏やかな地だった。


 今は、日々を生きるだけで精一杯の、痩せて貧しい地となってしまった。


 そこに、この地震だ。

 まさに、泣きっ面に蜂だ。

 目の前の橋の再建ひとつとってみても、王政府の許可を得なければならず、何日かかることやら。

 問題は山積みで、途方に暮れる。




 アース・ドラゴンと聖女が現れて魔力で瓦礫を動かして被災者を助けていると聞いて、なにを馬鹿なと思った。


 この地震は大地の怒りなのだから、アース・ドラゴンが助けになんて来るはずがない。


 しかし頭にアース・ドラゴンを乗せた聖女が救助現場を廻って魔力で瓦礫をどかして救助活動をしてくださっていると聞いて、眉間のシワをグリグリ揉んだ。


―――頭にアース・ドラゴンを乗せている・・・?―――


意味がわからない。


 ドラゴンというのは見上げるような、あるいは視界の端から端におさまらないような大きな身体の、人間や動物とは違う理に基づく存在のはずだ。あの巨躯で空を飛ぶのだから、根本的に身体を組成するものが人間や動物とはちがうのだろう。


 今、本当にこの街にドラゴンがいるなら、見えるはずだ。此処のみならず、街中のすべての場所から見えるはずで、大騒ぎになるはずだ。


 しかし、まったく見えない。つまり、ドラゴンなどいるはずがない。


 聖女がドラゴンを頭に乗せているとか、意味がわからない。

 伝令兵に急かされて、街中へと急ぐ。


 そこで私が見たのは。



ここまでお読みいただき、どうも有難うございました。


次回、第十七話 美男美女【フロリアン視点】

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