第十三話 ジジイ、余計なこと言うんじゃねえっ!【メルキオール視点】
第十三話 ジジイ、余計なこと言うんじゃねえっ!【メルキオール視点】
リンゴとオレンジの香りの中で目が覚めた。
竜は人間みたいな食事は摂らないけど、フルーツは好きだ。野菜は地面の浅いところのエナジーしか含まれていないが、樹木は地面の深いところまで根を伸ばして水分や養分を吸い上げるから、果実には野菜よりも大地のエナジーが凝縮されているんだ。
残念ながら俺が目を覚ました時にはリンゴもオレンジも残り香だけで物は無かったけど、それはまあ、いい。喰いたかったわけじゃねえ。
俺はバスケットの中で既に目を覚ましていたから、老賢者の声が聞こえていた。
ジジイ、余計なこと言うんじゃねえっ! ・・・と怒鳴ってやりたかったが、必死に狸寝入りを続ける。
―――地震、俺が生まれたせいだってバレたら、リゼ、ぜってー激オコだよな・・・?
俺はアース・ドラゴンだから、身体を組成する時には大地のエナジーを大量に使う。ましてや今回、リゼを傷つけられた怒りでものすごい短時間で一気に身体を組成したから、局地的な地震が起こってしまったのだ。
だが、それにしたって、よりにもよってリゼの目的地である街の直下とか、場所が悪過ぎた。人間の生活にダメージを与えるつもりなんて無かった。
でも、おかしい。
いくらなんでも、俺、小さすぎる。
どんなに急いでいたにしても、あの規模の地震を起こしちまったのにこんな猫くらいの身体しか組成できなかったなんて、異常だ。
ここの地中に、なにか異変が起きている。
この地にあったはずのエナジーが、滞っていたか。いや、汚染されていたのか?
それはさておき。
寝ている間に、聞き捨てならないことが聞こえたな?
リゼの服を切って包帯代わりに使うだと?
ふざっけんなっ! リゼの下着を俺以外の奴の触らせるなんて許さねえ! リゼの下着はパンツ一枚たりとも誰にも渡さねえ!
怒りを抑えられなくてシッポを、バスケットの中敷きのタオルにバシッと叩きつけてしまった。
「メルさん、起きたの?」
その動きに、リゼがバスケットの蓋をパカッと開けて覗き込んでくる。狸寝入りがバレた! ・・・わけじゃなくて、シッポでタオルを叩いたからだろうけど。
仕方が無いので、いかにも今、目が覚めました、的なフリをして、目を開ける。
案の定、リゼの目が笑っていない。
「ねえ、震源、ってどういうこと?」
リゼじゃなくて神田愛由香の口調。外見がリゼで口調が愛由香ってのもかわいーな。
などと現実逃避している場合じゃなかった。
なんとリゼは俺のシッポをガシッと掴んでブラーンとぶら下げたのだ。そりゃあ猫くらいの大きさしかないし、重さにいたっては眠って体力を回復したものの、セキセイインコくらいだった重さがハトくらいになった程度だから、女の力でもぶらさげられる・・・だろうけど、でも間違ってもドラゴン様にやることじゃねーよな。
テーブルの向こうでは、マイヤー老人とここんちの娘が、ぽかんと口を開けて俺を見ている。そりゃー無理もない。神様みたいな存在であるはずの竜、普通はでっかいはずの存在が、こんなちんまい上に魚かなんかみたいにシッポを掴まれてブラーン、とか、目を疑うだろう。
「え、と・・・、アース・ドラゴン様・・・?」
「そうらしいです。でも、単なるエロドラゴンです」
リゼの断言に俺は絶句した。
ヤバイ。リゼじゃなくて神田愛由香だ。陰湿なイジメに遭って自殺したけど、あの女、地縛霊になって長期間、東京の人間のあれこれを見ていたら人格変わったんだよ。なんつーか、逞しくなったというかふてぶてしくなったというか。人の世の不条理を見過ぎて世の中の酸いも甘いも噛み分けた、世慣れたオバハンみたいになったというか。
だから、今、俺を片手でぶら下げているリゼは、姿かたちはリゼだけど中身は神田愛由香の地縛霊だった時の性格だ。二十世紀末から二十一世紀初頭の東京の街の人々のさまざまを見て聞いているうちにすっかり耳年増になった、イジメなんかで自殺なんかしなきゃよかった、って居直ってヤサグレた神田愛由香だ。
ここまでお読みいただき、どうもありがとうございました。
次回、第十四話 前世の澱




