第十二話 憲兵さん宅にて
第十二話 憲兵さん宅にて
地震の被害は、街の中心部から東側に集中していたそうです。
「私の家は領主館の西側にあります。ここからさほど距離はありませんので」
フロリアンと名乗った憲兵さんは道案内のために御者席のヨハンの隣に乗るようです。
「ハンナ、メルさんは?」
「まだ眠っておられるようですわ」
音を立てないように馬車のドアを開けると、メルさんは私が馬車を下りた時のまま、眠っていました。ですが。
「あら?」
そっと抱き上げて膝の上に乗せたのですが、気のせいでしょうか、少しだけ、重くなったように感じました。といっても、本当に少しだけですけど。セキセイインコくらいだった重さが、ハトくらいになったような・・・?
まあ、そんなに気にするほどでもないですけど。
馬車が停まりました。フロリアンさんのお宅、ブーアメスター家に着いたようです。
生家を出る時にセバスチャンがパンやリンゴをいっぱい入れてくれたバスケットにはタオルが敷いてありましたので、その中に眠ったままのメルさんを入れて、私は馬車から降りました。
「ロミー! いるか?」
フロリアンさんがドアを開けて家の中に向かって大声で呼ばわります。
出て来たのは、十歳くらいの少女です。妹さんでしょうか。
「お兄ちゃん、まだお仕事中じゃないの?」
「ロミー、こちらは王都からいらしたアウエンミュラー公爵令嬢だ。ヘルマン様を訪ねて来られたのだがお屋敷もまだ混乱状態で、客人に対応できるような状況ではないだろうから、一時的に我が家に滞在していただく。お兄ちゃんはまた現場に戻らなければならないから、頼む」
フロリアンさん、自分のことをお兄ちゃんは、とか言っちゃうの、なんか可愛いです。私は頬の内側がむずむずしました。
「うちは今、マイヤーさん御夫婦が休んでいるのよ」
マイヤーさん御夫婦というのは、数軒先の家の老夫婦で、家は無事だったものの、御主人が足に怪我をしてしまったのだそうです。本や食器などが落ちて足の踏み場も無い状態になってしまったので、フロリアンさんのお宅で休んでいるそうです。
「でしたらそのお宅の片付けは私が承りましょう」
ハンナが名乗り出ました。
「えっ? でも・・・」
フロリアンさんと妹ちゃんが困惑した顔で私を見ます。
「お嬢様はさきほどまで怪我人の手当をされていたのでしょう? でしたら今度は私がまいります。お片付けとお掃除は私の領分ですので」
それは嘘ではありません。ハンナはいわゆるオールワークスメイドなのです。義母の嫌がらせで、私の専属メイドはハンナひとりだけでしたので、私の身支度や給仕から、掃除や裁縫まで、なんでもござれなのです。
「でしたら俺は馬と一緒に瓦礫を片付ける作業を手伝います」
ヨハンはフロリアンさんに言いました。
「助かります!」
ハンナは応急処置に使えるように切ってあった私の衣服をヨハンに渡し、マイヤー夫人と一緒にお宅の片付けに行きました。ヨハンは馬を轅からはずし、フロリアンさんと一緒に救助活動に行きました。
「お嬢様、こちらへどうぞ」
フロリアンさんの妹ちゃんが、緊張した口調で私に言います。なんだか可愛いです。そんなに緊張しないでほしいです。
私はメルさんの入ったバスケットだけ持って、妹ちゃんの後について、家にお邪魔させていただきました。中に入るとマイヤー老人が、私の身分を聞いて立ち上がって挨拶しようとなさいますので、どうかそのままでいらしてくださいと言いました。
「お怪我に障りますでしょう。動かないでください」
「お気遣い、いたみいります」
マイヤー老人は平民ですが、この辺りでは知らぬ者の無い有名人だそうです。王都の大学で学び、この地の平民学校で長く教鞭をとった後、校長を勤めていらしたそうで、いうなれば領民の大半が元教え子。若き領主からたびたび助言を求められるような賢者なのだそうです。
その老賢者が、私が持っているバスケットを凝視して言いました。
「その中に震源がいらっしゃるようですな?」
ここまでお読みいただき、どうも有難うございました。
セキセイインコの重さ・・・30~40グラム
ハトの重さ・・・200~400グラム
次回、第十三話 ジジイ、余計なこと言うんじゃねえっ!【メルキオール視点】




