第十話 微力ですけど
第十話 微力ですけど
「ハンナ、救助活動を手伝いましょう」
「ええっ」
非力な女の腕では瓦礫をどかすなどの役には立たないかもしれません。でも怪我人の手当とか、できることはあるはずです。
まだ目覚めないメルさんを馬車の座席に残し、私は馬車から降りました。
「俺も行きます」
ヨハンが力強く言いますが、夜通し御者席で馬車を走らせていたのです。きっと疲れているでしょう。私とハンナは、少しは眠れましたけれど、ヨハンは寝ていないのです。
「ヨハンは馬と一緒に少し休んだほうがいいわ」
馬だって、疲れているはずです。
「しかし・・・」
「状況を確認してきます。瓦礫を馬に引かせる必要がありそうなら呼びに来ますから、それまで休みなさい!」
「はっ、はい」
「ハンナ、私の衣類を切って、包帯やガーゼのように使えるようにして」
「はいっ」
ふたりにはそう言いつけて、私は街に向かって走りました。
東の山の上から、朝日が街を照らします。照らされた街の惨憺たるありさまに、息が苦しくなります。
「大丈夫ですかっ?!」
目についた人々に声をかけ、状況を聞き取ります。
ざっと見たかぎり、街の中心部へ進むほど被害が大きいようです。
やがて、救助活動の人々に指示を出している憲兵がいたので、声をかけました。
「手伝えることはありますかっ!」
憲兵は私を見て驚いた顔をします。
「貴女は?」
「王都から来た旅の者です。たった今、街の外に着いたのですが、できることは手伝います!」
「ご協力感謝します!」
憲兵に教えられて、街の中央の広場に行きます。そこには怪我をした人が集まっていて、怪我をしていない人たちが応急処置をしていますが、医師はいないようです。
「ここは比較的軽傷の人達ですので医師はいません。医療の心得がおありですか?」
「いいえ、でも軽い手当や止血程度なら」
前世の知識を総動員したとしても、せいぜい学校の保健室程度です。
それでも、なにもしないよりはマシなはずです。
私は目の前の怪我人をひとりでも多く手当しようと、手を動かし続けました。二時間くらいは、時が経つのを忘れていたのではないでしょうか。
しかし、怪我人は次から次にやって来る上に、医療用物資は重傷の人優先です。軽症者用には医療用の物資が足りません。包帯が足りず、普通の布を切って包帯の代わりに使っているのですが、それでも足りません。消毒薬なども無くて、水で洗って布で巻くしかできません。
「お湯を沸かすことはできますか?」
大きな鍋に湯を沸かして、包帯やガーゼの代用品に使おうとしていた布を煮沸消毒しました。滅菌はできませんが、多少なりとも安全度が上がるでしょう。
「もう布がありません!」
誰かが叫びます。
私は近くにあった鋏を掴んで、自分のスカートに突き入れました。ドレスのスカート部分って大きな布ですから、切って広げればそこそこ使えるでしょう。ジャキジャキとスカートを切る私を、近くにいた人が驚いて見ています。
「これを使ってください」
見た目はジミですけど、貴族の衣服なので、上等の布ですし、下にはペチコートやドロワーズを付けていますから、脚が見えてしまうようなことはありません。
他の女性たちも、自分の古い衣服を持って来ると言って、ぱたぱたと出て行きました。
そこへ、この場所へ行くように私に言った憲兵がやってきたので、つかまえて話しかけました。
「私がここに来るために乗って来た馬車が、街の西側にいます。その中に着替えがありますから、切って怪我人に使いましょう」
憲兵はスカートを切ってペチコート剥き出しの私の姿を見てびっくりしたようでしたが、先ほどと同じようにご協力に感謝しますと言ってくれました。ハンナたちを待たせている西側の丘へ、一緒に行くことにしました。
「馬と御者は、疲れていたので休ませておいたのです。救助活動に必要なら、使ってください」
「有難うございます。しかし旅のお方。どうしてこんなに尽くしてくださるのです?」
「こんな非常事態を見て見ぬふりをするようでは、名が廃ります」
例え竜紋が出ずとも、王太子殿下や義母義妹に蔑まれようとも、公爵家に生まれた者の矜持があります。今はさらに、前世の記憶があります。
「それに、旅の目的地はこの街だったのです。今はお忙しいでしょうから、この事態が一段落してからで構いませんから、辺境伯に御目通りを願えないでしょうか」
「ヘルマン様に、ですか?」
「親書を携えております。どうか、お願いします」
「承りました。必ず、お伝えいたします」
ここまでお読みいただき、どうも有難うございました。
次回、第十一話 憲兵さん




